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プレスリリース

核融合プラズマ中の間欠的バースト現象をスーパーコンピュータにより初めて解明―計算機シミュレーションによるイータープラズマの性能予測精度を大きく向上―

掲載日:2018年9月7日更新
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発表のポイント

  • 国際熱核融合実験炉イーターにおいて、プラズマの安定運転に大きな影響を与える可能性がある間欠的バースト現象(高速粒子の大量損失)の発生原因が、高速粒子と電磁波の相互作用であることを明らかにした。
  • この成果は、量子科学技術研究開発機構六ヶ所核融合研究所と核融合科学研究所との共同研究により、時間スケールが大きく異なる現象を効率良く計算できる斬新な計算手法を開発してシミュレーションに導入することで得られたものである。
  • シミュレーションを成功させるに当たっては、六ヶ所核融合研究所の核融合専用スーパーコンピュータの計算能力を最大限に活用した。
  • 本成果により、核融合プラズマの性能予測精度が大きく向上し、間欠的バーストを避けて安定にプラズマを運転する手法の確立に見通しが得られた。
  • この成果は Nature Communications 2018年8月16日号に掲載された。

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)と大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所(所長 竹入康彦。以下「核融合研」という。)は、核融合炉に必要なプラズマの安定運転に大きな影響を与える可能性がある間欠的バースト現象の解明に共同で成功しました。

 プラズマ中の高速粒子が瞬時に大量損失する同現象は、これまで臨界プラズマ試験装置JT-60で観測されており、プラズマ中の高速粒子と電磁波の相互作用によるものと考えられていました。しかしながら、両者の時間スケールが数十ミリ秒と数 100マイクロ秒と数百倍も異なっていることから、この2つの相互作用を正確にシミュレーションで再現することは不可能でした。今回、異なる時間スケールの現象を、時間軸に沿って2つの現象の重要な情報を失うことなく、交互に切り替えて計算する数値計算手法を開発し、同手法による大規模シミュレーションを量研・六ヶ所核融合研究所にある核融合専用スーパーコンピュータにて実施しました。その結果、JT-60で観測された間欠的バースト現象を正確に再現することに成功し、この現象が高速粒子と電磁波の相互作用に起因することを初めて確証しました(図1 及び図2参照)。この成果は、核融合反応により高速粒子を発生する国際熱核融合実験炉イーターのプラズマ性能の予測精度を格段に向上させるものです。さらに、間欠的バースト現象の回避条件を示すことで核融合炉の安定運転手法の確立に大きく貢献するものです。
 今回の成果は、六ヶ所核融合研究所の数値トカマク実験計画と核融合研の数値実験炉研究プロジェクトの研究協力により得られたものです。
 本成果は、世界で最も権威のある学術雑誌の一つである Nature Communications 2018年8月16日号に掲載されました。

図1 間欠的バースト現象の模式図の画像
図1 間欠的バースト現象の模式図
-高速粒子のプラズマ中の挙動をドーナツの形をしたプールでのサーフィンに例えると-

図2 間欠的バースト現象のシミュレーションと実験の比較の画像
図2 間欠的バースト現象のシミュレーションと実験の比較
(1)-(3)は図1の各ステージ(1)-(3)に対応。

研究背景

 核融合炉では、初めに外部からプラズマを加熱し、1億度以上の高温プラズマになると核融合反応(燃焼)が起き、その反応により発生した高速粒子が、高温プラズマ自身を加熱し、高温プラズマ状態を維持します。2025年に運転を開始するイーターでは、この核融合反応の安定運転の実証を目指しております。したがって、高速粒子の挙動を予測することは極めて重要な研究課題と言えます。イーターと同じトカマク型の臨界プラズマ試験装置JT-60では、高速粒子入射によるプラズマ加熱を行っている際に、突然、高速粒子がプラズマから失われるというバースト現象が観測されています。高速イオンが失われるとプラズマの加熱効率が低下してしまいます。しかも、このバーストは、ある一定の間隔で繰り返し発生します。このような間欠的バースト現象は、イーターでも問題になる可能性があり、この原因解明と対策が世界的に求められていました。
 この間欠的バースト現象は、高速粒子と電磁波の相互作用によるものと考えられていましたが、それらの時間スケールが大きく異なるため、この現象を再現できたシミュレーション研究はなく、将来の予測や対策を行うことは不可能でした。

研究内容

 ビアワーゲ・アンドレアス主幹研究員(量研)らの研究グループは、JT-60において観測されていた磁場揺動の間欠的バースト現象の解明を目指して藤堂泰教授(核融合研)が開発した、高速粒子とプラズマの相互作用を調べることのできるシミュレーションコードをJT-60実験データ解析用に拡張しました。さらに、2つの異なる時間スケールの現象を相互作用が強くなる時間とそれ以外とで区分して計算することで、2つの現象の時間発展の計算時間を大幅に短縮する画期的な計算手法を開発しました。そして、その計算コードを六ヶ所核融合研究所の核融合専用スーパーコンピュータに実装し、スーパーコンピュータの計算能力を最大限に活用することにより、JT-60において観測されていた間欠的バースト現象をシミュレーションで再現することに、世界で初めて成功しました。すなわち、高速粒子と電磁波の相互作用により、磁場揺動がバースト的に発生し、その際、高速粒子がプラズマ内部から損失するという時間発展を正確に再現しました(図1及び図2)。
 今回開発した計算手法の詳細は、以下のとおりです。間欠的バースト現象の解析のためには、時間スケールが数百倍も異なる2つの事象(速い事象と遅い事象)を考慮しなければなりません。速い事象は電磁波で、その時間スケールは数100マイクロ秒です。遅い事象は、高速粒子がプラズマの粒子と衝突してゆっくりと減速していくという事象(以下「衝突緩和」という。)で、その時間スケールは数10ミリ秒です。これまでの研究では、これらを独立の事象として扱ってきましたが、バーストの発生機構やバーストの起こるタイミングを説明できていませんでした。
 電磁波は電磁流体力学モデル(方程式)を、衝突緩和は衝突緩和モデルを用いて計算しますが、それらの2つのモデルを連立して計算することで、両方の事象を考慮に入れたシミュレーションが行えます。しかし、ここで問題になるのが、計算の時間スケールをどちらのモデルに合わせるかです。衝突緩和モデルに合わせると、計算の時間スケールが大きくなり計算が速く進みますが、これでは、電磁波の挙動を追えません。逆に、電磁流体力学モデルに合わせると、より精密な計算ができますが、計算に時間がかかり、1回のバーストを再現するのに、スーパーコンピュータを用いても、1年近くかかってしまいます。数回のバーストを再現しようとすると数年を要するため、誰も挑戦していない課題でした。
 そこで、本研究では、衝突緩和モデルのみの計算(高速)と、電磁流体力学モデルと衝突モデルの連立計算(低速)を、2つの現象の重要な情報を失うことなく、交互に切り替えて行う(このシミュレーションにおいては5ミリ秒間隔で1ミリ秒だけ連立計算を適応)という斬新な数値計算手法(図3)を開発しました。この手法を用いると、連立計算(低速)のみの場合に、数年を要する間欠的なバースト現象(数回のバースト)を現実的な時間で再現することができ、バーストの発生原因を世界で初めて明らかにしました。その成果が評価され、今回 Nature Communicationsに掲載されました。

図3 数値計算手法の模式図の画像
図3 数値計算手法の模式図
図2の区間(1)-(3)を高速モデル、低速モデルで交互に解く。

成果の意義

核融合プラズマ研究の観点

 シミュレーションモデルの妥当性が確認されたことにより、イータープラズマの閉じ込め性能の評価や予測に対する信頼性が大きく向上しました。これにより核融合炉の安定した運転方法の糸口が得られました。また、イータープラズマ解析標準コードとして、国産のコードの地位を高めることができました。

自然界におけるバースト現象解明の観点

 バースト現象(例えば、太陽フレアー、地震等)は自然界で多く観測されており、その発生機構は必ずしも十分理解されていません。バースト現象の発生機構は異なる時間スケールを有する物理現象が関与しており、それぞれの現象を独立して取り扱う仮定は成り立たないという一例を示したシミュレーション結果といえます。したがって、バースト現象に対するシミュレーション研究の方向性を示唆する重要な成果といえます。

計算科学の観点

 異なる時間スケールの事象を扱うために開発した数値計算手法が、間欠的に起こる突発的な現象に対して適用できることをシミュレーションにより示したものであり、今後、他分野(例えば宇宙プラズマ分野等)への応用も期待できます。これまで困難であったバースト現象のシミュレーションができるようになった点は、計算科学の観点においても重要な成果といえます。

論文名

題目:Simulations tackle abrupt massive migrations of energetic beam ions in a tokamak plasma
著者:ビアワーゲ アンドレアス(量研)、篠原孝司(量研)、藤堂泰(核融合研)、相羽信行(量研)、石川正男(量研)、松永剛(量研)、武智学(量研)、矢木雅敏(量研)掲載誌:nature communications(オープンアクセスジャーナル)掲載巻:9記事番号:3282(2018)
掲載年月日:2018年8月16日18時00分JST
URL:https://rdcu.be/4BZx
DOI:10.1038/s41467-018-05779-0

今後の展開

 イーターは2025年に運転を開始します。イータープラズマの性能評価・予測は原型炉開発を目指す上で重要な研究課題になります。イーターにおいて間欠的バースト現象が起こるのかどうか、シミュレーションにより予測し、それを回避する安定した運転方法を構築していきます。

用語解説

  1. 国際熱核融合実験炉イーター
    制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉です。1988年に日本・欧州・ロシア・米国が共同設計を開始し、2005年にフランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設することが決定しました。2007年には、日本、欧州連合、中国、インド、韓国、ロシア、米国の7極が参加し、国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)」が発足しました。現在、イーターが格納される建屋の建設が進められており、また、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。2025年頃からのプラズマ実験の開始を目指しています。イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力500MW、エネルギー増倍率
    10を目標としています。
  2. 核融合専用スーパーコンピュータ
    六ヶ所核融合研究所に設置されていたスーパーコンピュータです(愛称は六ちゃん)。1号機は2012年〜2016年の5年間運用されました。LINPACK 性能値は1.237ペタフロップスであり、核融合専用スーパーコンピュータとしては、当時世界最大規模でした。現在は、2018年6月からより高性能(LINPACK 性能値 2.787ペタフロップス)の2号機(六ちゃんーII)が稼働しています。
    JFRS-1 - Cray XC50, Xeon Gold 6148 20C 2.4GHz, Aries interconnect | TOP500 Supercomputer Sites
  3. ノード
    計算機の構成単位であり、いくつかのCPUから構成されます。各ノードはネットワークに接続されてクラスターを構成します。核融合専用スーパーコンピュータの場合、1ノードは2CPUから構成されており、256ノードは全システムの約1/8規模、理論性能として約200テラフロップスに相当します。今回のシミュレーションは、この計算資源をほぼ1年間占有して初めて可能となったものです。
  4. 数値トカマク実験計画(NEXT 計画:Numerical EXperiment Tokamak)
    六ヶ所核融合研究所・プラズマ理論シミュレーショングループにおいては、高度計算科学の応用研究の一環として、数値トカマク実験(NEXT)計画を進めており、スーパーコンピュータを利用して超並列計算手法を駆使した基本原理に基づく大規模シミュレーションにより、炉心プラズマ及びダイバータ(周辺)プラズマの多面的で複雑な振る舞い(マルチスケール・マルチフィジックス)の解明を目指しています。
    JT-60ホームページ
  5. 数値実験炉研究プロジェクト
    核融合研では、核融合プラズマの物理機構解明・体系化を目指した研究として、スーパーコンピュータの能力を最大限に駆使した大規模シミュレーション研究を実施しています。数値実験炉研究プロジェクトでは、これまでの炉心プラズマから周辺プラズマまでの研究を実験や理論と連携しながら更に発展させ、核融合磁場閉じ込め装置全体のプラズマ挙動を予測することのできるヘリカル数値試験炉の構築へとつながる大規模シミュレーション研究を推進しています。
    数値実験炉研究プロジェクト