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国際熱核融合実験炉イーターの建設サイトから日本への大量データの高速転送を実証―1万キロ離れた日本からのイーター遠隔実験実現に向けた基盤整備が大きく進展―

掲載日:2016年9月27日更新
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発表のポイント

  • 平成28年8月30日から9月5日にかけて、イーターの初期実験で想定される1実験当たり1テラバイト(TB)のデータを、想定される実験間隔内(30分内)で繰り返し安定して送信し、最終的に50時間で105TB(1日当たり50TB)の大量データをフランスのイーターサイトから1万キロ離れた青森県六ヶ所村の遠隔実験センターへ高速転送(毎秒約7.9ギガビット(7.9Gbps))できることを初めて実証。
  • 今回達成した1日当り50TBの転送量は、大陸間級の長距離サイト間転送量として、世界最大クラスであり、国内研究機関及びイーター機構が共同し、世界最先端の情報科学技術と核融合研究におけるネットワークを利用した遠隔実験技術を結実させた成果。
  • この成果により、日本国内の研究者が、六ヶ所村の遠隔実験センターを拠点として、イーターサイトと同じ環境で実験参加できる見通しを得た。

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫、以下、「量研」という)は、日欧で進めている幅広いアプローチ活動1)(以下、「BA活動」という)の実施機関として、大学共同利用機関法人自然科学研究機構核融合科学研究所(所長 竹入康彦、以下、「核融合研」という)、大学共同利用機関法人情報・システム研究機構国立情報学研究所(所長 喜連川優、以下、「NII」という)、及びイーター国際核融合エネルギー機構(機構長 ベルナール・ビゴ)と共同で、現在建設中の国際熱核融合実験炉イーター2)(以下、「イーター」という)の南フランスのサイト及びBA活動に基づき青森県六ヶ所村の国際核融合エネルギー研究センター(以下、「IFERC」という)事業3)で整備中のイーター遠隔実験センター(以下、「REC」という)に設置された一対一のサーバ間を専用ネットワークにより結び、イーターの初期実験で想定される1実験当たり1テラバイト(1TB)のデータを、想定される実験間隔内(30分内)で繰り返し安定して高速転送(毎秒約7.9ギガビット(7.9Gbps))できることを初めて実証しました。これによって、1万キロ離れた日本からのイーター遠隔実験参加の実現に向けた基盤整備が大きく進展しました。また、大陸(フランス〜日本間)をまたぐサイト間での長距離伝送における1日当たりのデータ転送量としては、世界最大クラス(1日当たり50テラバイト)であり、RECの構築に向けた大きな一歩となりました。
 科学技術データは、欠損なく送信することが必要なためTCP転送プロトコルが広く用いられていますが、データ送信の確認を頻繁に行うため、長距離では転送速度が著しく低下することが課題でした。そこで、NIIが先端科学技術分野の国際協力に向けて開発した世界最速レベルの転送プロトコル(MMCFTP)4)を導入するとともに、NIIが本年4月から運用を開始した「SINET5」5)による日本から欧州への直通回線を用いることで通信距離を縮め、通信容量の大きい回線(10Gbps)をイーターサイトからRECまで構築しました。この回線により、核融合研のLHD装置で生成された大量実験データを用いて、イーターで想定される全データの想定実験間隔内での転送を実証することに成功したものです。これは、量研が、BA活動のために整備した広帯域ネットワークを、SINET5のネットワークに接続し、イーター機構の協力を得て実現した成果です。今後、産業界等で生み出される大量データを遠距離で活用するためのミラーサイトや巨大災害発生時に備えた遠距離でのバックアップの開発に役立つことが期待できます。
 本成果は、本年10月のIAEA核融合エネルギー会議(京都)で発表する予定です。

研究開発の背景と目的

 幅広いアプローチ活動(以下「BA活動」という)の一環として、青森県六ヶ所村においてイーター遠隔実験センター(以下「REC」という)を整備しています。RECを用いることで、現在、南フランスに建設中の国際熱核融合実験炉イーター(以下「イーター」という)に、イーター現地だけでなく、六ヶ所村から実験の実施を可能とします(図1)。また、実験データの転送・保管により、国内の研究者は、RECを拠点として、イーターの全実験データの解析を少ない時間遅れで行うことが可能となります。 このためには、イーターの全実験データをRECまで転送することが必要ですが、TCP転送プロトコルの制限とネットワーク帯域幅の制限から、長距離通信時の転送速度が上がらないことが課題になっていました。

フランスのイーターサイトと日本の六ケ所遠隔実験サイト間の遠隔実験の概念図
図1.遠隔実験概念図

 これまで、核融合研では2009年9月にイーターとの間で高速データ伝送実験を行い、最大3.5Gbpsの転送速度を205秒間維持(データ転送量86GB)することに成功しました。しかし、イーターの実験1日あたりのデータ量を転送するには、十分とは言えませんでした。
 また、イーターでは、1回の実験毎に大量の実験データが発生し、30分から1時間程度毎に実験と実験データの解析を繰り返すことが特徴であり、実験の合間にRECへデータの転送を終えることが必要とされていました。

研究の手法と成果

 この状況を変えたのは、NIIが構築・運用する学術情報ネットワークの新バージョン「SINET5」の運用が本年4月から始まったことです(図2)。日本から欧州への直通の広帯域回線(20Gbps)を新設し、欧州との通信距離が短くなりました。
 量研は、BA活動のために六ヶ所サイトに整備した広帯域ネットワークを、SINET5の国内・国際ネットワークに結合しました。また、イーター機構との協力により、イーターサイトでの試験環境が整いました。さらに、六ヶ所村からイーターまでを、欧州及びフランスの学術ネットワーク運用者GÉANT・RENATERの協力を得て、専用の閉領域ネットワーク(L2VPN)で構築することにより、高いセキュリティーを保ったまま、安定した広帯域のネットワークを構築できました。

SINET新日欧回線と従来の回線の図
図2.SINET新日欧回線(a)では遅延時間が従来の米国回り(b)に較べ約2/3となる200ミリ秒未満に短縮された。

 さらに、実際の核融合装置で発生する様々なデータを含んだ実験データを模擬するために、本試験では核融合研が進めている大型核融合実験装置LHDで実際に繰り返し発生する大量実験データを用いました。
 TCP転送プロトコルは、パケット送信毎に正しく送れた事の確認の返事を受け取り、その後、次のパケットを送信します。これにより、通信の信頼性を確保していますが、長距離間の通信においては、一つのパケット送信から確認の受け取りまでに時間を要し、結果として大量のデータを送るには、長時間を要していました。NIIは、先端科学技術分野の国際協力に必要なビッグデータの長距離高速転送に向けて、世界最速レベルの長距離超高速ファイル転送プロトコル(MMCFTP)を開発しており、同時に多数の通信を行い、各通信の送信量がほぼ均等になるように接続回線を分割し、それらを束ねることで大量データの長距離高速データ通信を可能としました。そこで、このMMCFTPを核融合分野に応用することにより、利用可能な通信容量の最大限まで利用し、イーターで想定される実験間隔内で、全ての実験データ(1TB)のデータ転送が可能となりました。
 その結果、イーターサイトとRECに設置した一対一のサーバ間を広帯域の専用ネットワークで結んで、30分毎に1.05TBの大量データを50時間に亘って高速転送(最大約7.9Gbps、平均7.2Gbps)することができました。これによって、1万キロ離れた日本からのイーター遠隔実験参加の実現に向けた基盤整備が大きく進展しました。今回達成したデータ転送量は、1日当たり50TB(50時間で105TB)であり、これは、大陸をまたぐサイト間での長距離伝送における1日当たりのデータ転送量としては、世界最大クラスであり、イーター遠隔実験センターの構築に向けた大きな一歩となりました。(図3)
これにより、イーターの全ての実験データを直ちに転送できることになり、1万キロ離れた日本からのイーター遠隔実験の全データの参照及び解析が可能となりました。これは、遠隔実験参加の実現に向けた大きな技術課題を克服できたことになります。

イーターから遠隔センターへのデータ転送速度のグラフ
図3 イーター(フランス)から遠隔センター(六ヶ所)へ高速転送速度(最大約7.9Gbps、平均7.2Gbps)で30分毎にデータ(1.05TB)を送信し、50時間で105TB(1日当たり50TB)の大量データを一対一のサーバで転送した初めての成果。

本研究成果は、2016年10月17日—22日に京都で開催されるIAEA核融合エネルギー会議で発表する予定です。

今後の展開

 この成果は、今回用いた技術を発展させ、より高速化することによって、イーターの実験が本格化(1実験当り50TB)した後のイーター遠隔実験参加の実現に向けた展開の可能性を示しています。
 イーターで得られた大量の実験データは、貴重なデータベースです。これを、日本(六ヶ所)の遠隔実験サイトに転送・保管し、データ・ミラーサイト(複製サイト)を日本に構築することにより、日本における核融合関連ビッグデータの解析拠点形成にも役立つことが期待できます。
 またこれは、距離が大きく離れた場所への、貴重で膨大なデータのバックアップにより、実験施設が巨大災害に見舞われた場合のデータ損失のリスク回避になることが期待されます。

用語解説

1)幅広いアプローチ(BA(Broader Approach))活動

日欧の国際協力の下、国際熱核融合実験炉であるイーター(次項参照)を補完すると共に、イーターの次のステップである原型炉の早期実現を目指した研究開発プロジェクトです。この活動は国際核融合エネルギーセンター(IFERC)、国際核融合材料照射施設の工学実証・工学設計活動、サテライト・トカマク計画の3つの事業を日欧共同で実施しているものです。BAに関するホームページ

2)国際熱核融合実験炉(イーター)

制御された核融合プラズマの維持と長時間燃焼によって核融合の科学的及び技術的実現性を実証することを目指したトカマク型(超高温プラズマの磁場閉じ込め方式の一つ)の核融合実験炉です。1988年に日本・欧州・ロシア・米国が共同設計を開始し、2005年にフランスのサン・ポール・レ・デュランスに建設することが決定しました。2007年に国際機関「イーター国際核融合エネルギー機構(イーター機構)」が発足し、日本、欧州連合、中国、インド、韓国、ロシア、米国の7極が参加しています。現在、イーターが格納される建屋の建設が進められており、また、各極が調達する、イーターを構成する様々な機器の調達取決めが締結されて、各極で機器を製作しています。2025年頃からのプラズマ実験の開始を目指しています。 イーターでは、重水素と三重水素を燃料とする本格的な核融合による燃焼が行われ、核融合出力500MW、エネルギー増倍率10を目標としています。
イーター計画に関するホームページ (日本語)、イーター機構のホームページ (英語)

3)国際核融合エネルギー研究センター(IFERC)事業

国際核融合エネルキ゛ー研究センター(International Fusion Energy Research Centre)事業(以下、IFERC事業)は、原型炉設計・研究開発調整センター(DEMO Design and Research and Development Coordination Centre)、核融合計算シミュレーションセンター(Computational simulation Centre)、及ひ゛ITER遠隔実験センター(ITER Remote Experimentation Centre)の3副フ゜ロシ゛ェクトから構成されており、核融合原型炉に必要な研究開発の中心的拠点としての役割を果たすことを目指して、青森県六ヶ所サイトて゛推進されている事業です。
IFERC事業に関するホームページ (英語)

4)長距離超高速ファイル転送プロトコル(MMCFTP)

Massively Multi-Connection File Transfer Protocol。同時に多数の通信を行い、トラフィックがほぼ均等になるように接続回線を束ね、大量データの長距離高速データ通信を可能とするファイル転送プロトコルです。巨大データを転送する際、同時に非常に多くのTCPコネクションを使用することが特徴です。ネットワークの状況(遅延の大きさやパケットロス率)に応じてTCPコネクション数を動的に調整することで、安定した超高速データ転送を実現します。
MMCFTPに関するニュースリリース http://www.nii.ac.jp/userimg/press_20150513.pdf(日本語)

5)SINET5

NIIが構築・運用する日本の学術情報ネットワーク(Science Information NETwork)の最新バージョン。国内の大学や研究所など約850の機関が利用しています。初代のSINETは1992年に運用が始まり、本年4月に移行したSINET5では全都道府県を100Gbpsの高速回線でつないだほか、米国回線も100Gbpsに増強、20Gbpsの欧州回線を新設しました。
SINET5に関するホームページ (日本語)