プレスリリース
量子プレス 2017年10月04日
薬物代謝の個人差を究明
~薬物代謝酵素の特性を明らかにして副作用を抑えた薬剤開発に道筋~
学校法人同志社同志社女子大学(学長加賀裕郎、以下「同志社女子大学」という)、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長平野俊夫、以下「量研」という)などの研究グループは共同で、人の薬の代謝に関わる薬物代謝酵素(タンパク質)の変異型とそれによって代謝(酸化)される高血圧治療薬(化合物)との複合体結晶を作製し、高分解能の立体構造解析に世界で初めて成功しました。薬物代謝酵素の個人差に重要な役割を果たしているタンパク質の原子配置の情報を初めて明確に捉えたものであり、より副作用の少ない安全で効果的な薬の開発への貢献が期待されます。
人に薬を投与すると、薬は体内で一定の「薬理作用」を果たした後、薬物代謝酵素と呼ばれるタンパク質の働きにより分解され、時間とともに排泄されます。また、薬物代謝酵素により代謝されることで初めて効果を表す薬も存在します。この酵素の一つであるCYP2C9は、現在市販される医薬品の約15%の代謝に関与しており、医薬品の設計と有効性・安全性の観点から重要な酵素です。近年発展したヒトゲノム解析によって、少数(6%程度)の日本人に、この酵素の変異型がみられることが遺伝子レベルで明らかとなり、薬の代謝異常による副作用が懸念されています。このため、原因となる薬物代謝酵素の特性を早急に解明し、副作用を事前に防ぐことが急がれてきました。
今回、茨城県つくば市の高エネルギー加速器研究機構放射光科学研究施設、KEK-PFのX線を用いて、正常型CYP2C9と、2種類の変異型について、高血圧治療薬と結合した酵素の立体構造を解析しました。その結果、変異型では結合する薬剤分子の数や、結合部分での構造が異なるなど、変異型特有の立体構造が明らかとなりました。変異型酵素の構造を解析した例は本研究が世界で初めてであり、今後本成果を基に、変異型酵素を持つ人に対応し、副作用を抑えた高血圧治療薬の開発が進むことが期待されます。
この研究の一部は、文部科学省科学研究費補助金において実施した成果です。なお、本研究成果は、10月4日(水曜日)にアメリカ化学会Biochemistry誌のオンライン版に掲載されます。