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粒子線の「リアルタイム見える化」を実現する新手法~飛跡に沿って発生する制動放射線に着目~

掲載日:2017年3月28日更新
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量子プレス 2017年03月28日

粒子線の“リアルタイム見える化”を実現する新手法
~飛跡に沿って発生する制動放射線に着目~

発表のポイント

  • 粒子線を制動放射線による“リアルタイム見える化”する新たな手法を考案。
  • 本手法を実際の陽子線がん治療装置を用いて実証。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長平野俊夫、以下「量研」という。)量子ビーム科学研究部門高崎量子応用研究所プロジェクト「RIイメージング研究」の山口充孝主任研究員と河地有木プロジェクトリーダーらは、群馬大学(学長平塚浩士)、名古屋大学(総長松尾清一)、名古屋陽子線治療センター(センター長溝江純悦)、早稲田大学(総長鎌田薫)と共同で、粒子線がん治療に用いる陽子線の飛跡を、陽子線が水中を通り過ぎるときに瞬時に発生する放射線の計測によって“リアルタイム見える化”する方法を考案し、その実証に世界で初めて成功しました。
物質に入射した粒子線の飛跡をモニタリングする方法には、飛跡に沿って発生する陽電子の分布を撮像する方法があります。しかし、粒子線が物質内を通り過ぎてから陽電子が発生するまでには時間がかかります。この問題を回避しリアルタイムでの“見える化”を実現するために、私達は、粒子線が標的内を通り過ぎるときに発生する電子から放出される放射線に着目しました。これは電子制動放射線1)と呼ばれ、エネルギーが低いため計測が容易であることに加え、瞬時にたくさん発生するため、粒子線がん治療ビームの“リアルタイム見える化”への応用が期待されます。そこで、この放射線の発生メカニズムについて研究し、粒子線の飛跡から十分な量の電子制動放射線が放出されることを計算機シミュレーションによって明らかにするとともに、実際の陽子線がん治療装置を用いて、“見える化”の実証に世界で初めて成功しました(関連成果1)。さらに、がん治療に用いられているビーム強度に対しても、本手法が適用可能であることを示しました(関連成果2)。
本手法は医療現場の診断で用いられている放射線イメージング装置(ガンマカメラ)を用いて実施可能です。測定効率および位置分解能の高い既存装置の利用可能性を検討することで、粒子線がん治療の現場への広範な普及が期待できます。

本研究の背景

粒子線がん治療において、治療ビームの体内飛跡や到達位置を非侵襲的にその場で正確に観測、つまり、“リアルタイム見える化”できれば、治療計画通りに照射が行われたかどうかを治療中に確認できる可能性がでてきます。そのため、治療ビームを“リアルタイム見える化”する手法の開発研究が世界各国で精力的に進められています。
 代表的なものとして、治療ビームに沿って体内に生成される放射性同位元素から放出される陽電子の分布を測定し、測定結果から治療ビームの飛跡や到達位置を求める手法があります。治療ビームを“見える化”する手法の中では一番初めに提案されており、現在は臨床研究の段階に到達しています。
しかし、陽電子を放出する放射性同位元素は、数分から数十分程度の比較的長い寿命を持つために陽電子が発生するまでには時間がかかり、“リアルタイム見える化”には適していません。この問題を解決できる手法として、寿命の短い放射性同位元素から放出される、高いエネルギーを持つ放射線を計測する手法(即発ガンマ線イメージング法)が考えられますが、こうした高いエネルギーの放射線を十分な精度でイメージングすることは技術的に非常に困難です。
そこで我々は、従来注目されてこなかった低いエネルギーの放射線に着目しました。通常、治療室内で放射線の測定を行うと、高エネルギーの放射線が元となって発生するノイズ成分が低エネルギー放射線の信号をかき消してしまうため、これまで、治療時に体内で発生する低エネルギーの放射線を“見える化”技術の対象にした研究はありませんでした。しかし、我々は、逆転の発想で、あえて高エネルギー放射線が測定されないように検出装置を設計することで、ノイズ成分が大幅に減り、低エネルギー放射線の信号がきれいに観測できるようになるのではないかと考えました。治療ビームが体内を通り過ぎるときには、電子制動放射線1)という低エネルギー放射線が瞬時にたくさん発生することが一般に知られているため、この工夫でノイズ成分を減らすことができれば、従来とは全く異なるアプローチで治療ビームの“リアルタイム見える化”技術を実現できると予想しました。

研究手法と成果

我々はまず、水を入れた容器に139 MeVの陽子ビーム(ビーム径 2.4 cm)を入射し、水中のビーム飛跡から放出される30から60 keVの放射線をピンホールカメラで測定することにより、ビームの飛跡の画像化を試みました(図1)。

ピンホールガンマカメラで陽子線ビームをイメージングする実験の様子
図1 実験のセットアップ

得られた画像が図2の右上の図です。縦軸0 cmの高さが、ビームを打ち込んだ高さになります。陽子ビームの飛跡に対応する箇所で画素値が高くなり、飛跡の“見える化”に成功しました。さらにビーム飛跡上の画素値をグラフとして表したものが図2の右下の図です。139 MeVの陽子ビームは水中で13.8 cmの深さまで到達することが既に分かっています。このビームの到達位置に近付くにつれて直線的に値が減少し、到達位置以降ではほぼ一定の低い値をとることが分かり、このグラフの傾きが変化する位置が、ビームの到達位置と一致しました。

実験に用いた水ファントムとピンホール型ガンマカメラによるイメージング結果
図2 (左)実験でい用た水ファントム。(右上)ピンホール型ガンマカメラによる陽子線のイメージング結果。(右下)ビーム飛跡上の画素値のグラフ。ビームの到達位置に近付くにつれて直線的に値が減少し、到達位置以降でほぼ一定の低い値をとる。
さらに、計測している放射線が、確かに電子制動放射線であることを、モンテカルロ・シミュレーションによる解析によって示しました(関連成果 1)。現状の画素サイズは1 cm程度ですが、カメラを水容器に近接できるようピンホールの形状を改良することで、1 mm程度の画素サイズ実現の目処が立っています。
我々は次に、実際にがん治療に用いられているビーム強度に対してビーム到達位置を“見える化”可能であることを示しました。到達位置を“見える化”する装置の実用化のためには、「スリット型検出器の採用による検出効率の増加」と「検出器とビームとの距離の短縮による測定効率の増加」の実現が不可欠です。検出器とビームとの距離の短縮は、ノイズ成分の大幅な増加をもたらすことが予想されていましたが、本研究の結果、ビームから25 cmという短距離に検出器を置いた場合であっても、制動放射線をノイズ成分から分離でき、さらに、グラフの傾きが変化する位置が、ビームの到達位置と一致することが明らかになりました(関連成果2)。
以上のことから、粒子線がん治療に用いる陽子線の飛跡を、陽子線が水中を通り過ぎるときに瞬時に発生する放射線1)の計測によって“リアルタイム見える化”する方法の実証に世界で初めて成功しました。

今後の展開

本手法は、通常は見ることの出来ない治療ビームを“リアルタイム見える化”する全く新しい手法です。今後は、測定効率および位置分解能の高い既存装置の利用可能性を検討することで、粒子線がん治療の現場への広範な普及を目指します。

用語解説

1)瞬時に発生する放射線(電子制動放射線)
 粒子線は標的内を通り過ぎるときに原子の中の電子をはじき飛ばしながら進みます。このはじき飛ばされた電子が、近傍にある原子の電場によって、急激に減速もしくは進行方向を曲げられた時に電磁波を放射します。この電磁波を電子制動放射線といいます。
 はじき飛ばされた電子は透過力が低いので標的内で止まりますが、電子制動放射線は比較的透過力が高く、標的の外に飛び出ることが出来ます(図3)。本手法では、この電子制動放射線を計測することでビームの飛跡を“見える化”します。

電子制動放射線発生の模式図
図3 電子制動放射線の発生

関連成果

[1]山口 充孝a, 長尾 悠人a, 安藤 昂輝c, 山本 誠一c, 歳藤 利行d, 片岡 淳e, 河地 有木a, “Secondary-electron-bremsstrahlung imaging for proton therapy”, Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. A 833 (2016) 199–207.
[2]山口 充孝a, 長尾 悠人a, 佐藤 隆博a, 菅井 裕之b, 酒井 真理b, 荒川和夫b, 河地 有木a, “Monte Carlo simulation of photon emission below a few hundred kiloelectronvolts for beam monitoring in carbon ion therapy”, Rev. Sci. Instrum. (in press.)
a量研, b群馬大学, c名古屋大学, d名古屋陽子線治療センター, e早稲田大学)

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