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量研が企業とのアライアンス事業を開始~産業界の課題解決に向け、複数企業と連携~

掲載日:2017年11月13日更新
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その他の分野 2017年11月13日

量研が企業とのアライアンス事業を開始-産業界の課題解決に向け、複数企業と連携-

発表のポイント

  • 特定の分野に技術やノウハウ、大型の施設・設備を擁する量研が、複数の企業とタッグを組み、業界に存在する技術的課題を解決するための事業を開始した。
  • 機能性材料の開発、精神・神経疾患治療薬の開発、MRI1と新規造影剤開発の3つの分野でアライアンス事業を開始。大手企業20社が参加し、イノベーション創出が期待される。

概要

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫。以下、量研)は、産業界に存在する技術的課題を解決し、そのブレークスルーによって当該業界にイノベーションを創出するため、量研と特定分野の企業“群”が共同で研究開発を行うアライアンス事業を準備計画してきました。この度本年度において参加が予定されていた延べ20社の民間企業と1つの研究開発法人の参加申し込みが完了しましたので、これをアライアンス事業の開始と位置づけ、ご報告申し上げます。本年度に開始したアライアンスは、以下の3つですが、本発表を機に、より多くの企業、大学・研究機関が参加されることを期待しています。

  • 先端高分子機能性材料アライアンス
  • 量子イメージング創薬アライアンス「脳とこころ」
  • 量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」

この事業は、量研が特定分野の研究開発を行うための「アライアンス」を設定し、これに関心を持つ企業が「会員」として入会しますが、基本的な仕組みとして3つの段階を経て研究開発を推進します。

  • 第1段階は量研と全会員で当該分野における技術的課題の抽出やその解決に向けた情報交換・ディスカッションを行い、優先して開発すべき目標を定める。
  • 次に第2段階として、この開発目標に特に興味をもつ少数の会員と量研が実際に技術的課題解決のための研究開発を行い、様々な成果を得る。
  • さらに第3段階として少数の会員と量研、あるいは会員と量研が1対1で契約を結び、第2段階までに得られた研究成果を基に市販化される製品や実務に役立つ技術の開発を行い、最終的な技術的課題の解決とそれを基にしたイノベーション創出を目指す。

本事業では、第1及び第2段階(アライアンスの性格により第1段階を除く)までを「協調領域」、第3段階以降を「競争領域」と呼び、それぞれ「量研と企業群が協調して開発に取り組む段階」、「量研と個別企業が排他的に特定の開発を実施する段階」と位置づけて、事業の進展に応じて開発フェーズを明確に区切ることを目指しています。
 このアライアンス事業を進める事により、各企業は最新の研究開発動向を効率よく入手できるだけでなく、新規参入によって生じる投資リスクを低減しつつ効率的に技術開発に取り組めると共に、最終産物である製品や技術をより早期に世の中に送り出すことが可能になります。とりわけ、量研が持つ加速器、放射線イメージング装置、高磁場MRI装置とその周辺技術については、初期投資が極めて高額となり、その有効活用には技術的蓄積・更新が欠かせないため、単独企業では参入が困難な技術分野です。またアライアンス会として量研が仲立ちをすることで、特定分野における企業間の連携も図りやすくなることが期待できます。
一方、量研は自らが持つ知識や施設・設備を我が国の産業発展のために生かすと共に、企業が考えるニーズや企業が持つ技術シーズや知識を活用する事も可能となり、より先端的な研究開発に生かすことができます。なお、アライアンス事業には、民間企業だけでなく大学や研究開発法人などのアカデミアにも門戸を開いており、今後の産業界とアカデミアの広範かつ深いコラボレーションにも期待できます。
このアライアンス事業の進捗や成果については随時量研のホームページ等で公開していく予定です。


背景と目的

企業活動がグローバル化し世界的な競争が激化する中、産業界には解決すべき様々な技術的課題が存在します。これら技術的課題を解決するには、自社技術だけでなく幅広い分野の結集が必要となる場合も多く、また開発を行うための施設・設備の他、多額の研究資金が必要となります。これら全てをひとつの企業で賄うことは大企業であっても困難で、また開発に失敗した場合のリスクに対する懸念から、容易には開始できません。複数の企業が共同で取り組むことも考えられますが、異分野間ではマッチングできる機会が少なく、また同じ分野の企業は、お互いにライバル関係にあるため調整が難しいのが現状です。このように多分野連携が必要となる開発での課題解決においては、オープンイノベーションの必要性が指摘され、今後、実効的な成果が上がる取り組みが民間だけでなく、国立の研究機関にも求められています。
国立研究開発法人である量研は、製品開発は行っていないものの、材料開発分野や画像診断研究分野などを代表とする様々な分野で最先端の研究開発を行っており、豊富な人材と最新の研究施設・設備を擁してします。
 そこで量研は、産業界に存在する技術的課題を解決するため、特定分野の企業群と量研が共同で研究開発を行う仕組みであるアライアンス事業を開始しました。


アライアンス3分野について

29年度は、以下の3分野でアライアンス事業を開始します。


1. 先端高分子機能性材料アライアンス

高分子機能性材料とは、電子やイオンを伝達することで導電性を示したり、電気エネルギーや光エネルギーなどの変換作用を持つ高分子及びその複合材料を指しており、例えば燃料電池の高分子電解質膜、ハイブリッドカーのセパレーターなど、現在では極めて幅広い分野でより機能性の高いものが求められています。高分子機能性材料の分野では、その機能性の制御や性能向上のためのパラメータが無機材料よりも多いことから、新たな材料の創出に向けた開発に膨大な試験が必要となる点が課題となっています。量研高崎量子応用研究所ではプラスチックや繊維に放射線を照射することで新たな機能性を示す高分子をその中に導入できる放射線グラフト重合技術2)をもとにこれまで多くの製品化に貢献してきました。そこで、材料の構造データや物性データと機能性の相関関係を、人工知能を含む統計手法により解明し、その知見をもとに新たな高機能性材料を予測するマテリアルズ・インフォマティクス(MI)3)を活用することで、放射線グラフト重合による先端機能性を有する高分子材料の迅速な創出を目指します。
主な研究開発拠点:高崎量子応用研究所(群馬県高崎市)
研究代表者:前川康成(先端高分子機能性材料研究グループリーダー)
参加企業(50音順):倉敷紡績(株)、住友化学(株)、ダイハツ工業(株)、和光純薬工業(株)

参加企業の企業ロゴ

2. 量子イメージング創薬アライアンス「脳とこころ」

精神・神経疾患治療薬の開発はここ数年間停滞していますが、その原因は主に、疾患の病態解明が不十分で、客観的診断法がなく、治療効果を反映するバイオマーカーが特定されていないため、薬剤開発の成功率が低く、投資した開発費が回収できないことにあります。本年7月に日本学術会議から出された「精神・神経疾患の治療法開発のための産学官連携のあり方に関する提言」において企業単独では解決困難なバイオマーカー開発、患者層別化技術開発等については、研究者間-企業間の壁を越えて競争前フェーズから連携する、Public Private Partnerships (PPPs)が必要であるとの認識が示されています。脳の機能を非侵襲的に測定可能な画像バイオマーカーはモデル動物からヒトまで同じ指標での評価が可能で、特に薬の作用部位をヒトで直接画像化できるPETは、薬の評価における重要性が認識されています。本アライアンスでは、量研放射線医学総合研究所で現在までに培ってきた脳機能イメージング4)に関する小動物からヒトまでの一気通貫の双方向トランスレーショナルリサーチ5)技術を基盤に、複数の製薬企業と連携して薬の効果の評価や予測に有用で、各社が共通に使用できるPETトレーサーをはじめとする画像バイオマーカーの創製、およびそれを活用した薬効指標や疾患の病態解析を通じてヒトの病気に近いモデル動物の開発を目指します。企業共通のニーズに合わせた競争前連携フェーズをPPPsが担うことで、治療法開発のための共通のツールを重複せずに連携して開発することにより、競争フェーズの資金が有効に活用され、効率的、効果的に治療法が開発されます。競争前連携フェーズで得られた成果は、かかわる企業および量研が活用し、次の競争フェーズへと発展させることができます。また本アライアンスは国際神経精神薬理学会(CINP)および日本神経精神薬理学会(JSNP)合同・向精神薬開発Public Private Partnerships (PPPs)タスクフォースにおける製薬企業との約2年にわたる議論を基盤としており、学会との強い連携のもとに運営されます。

精神・神経疾患の治療法開発のための [PDFファイル/857KB]

主な研究開発拠点:放射線医学総合研究所(千葉県千葉市)
研究代表者:須原哲也(脳機能イメージング研究部 部長)
参加企業(50音順):
アステラス製薬(株)、エーザイ(株)、大塚製薬(株)、小野薬品工業(株)、
塩野義製薬(株)、第一三共(株)、大正製薬(株)、大日本住友製薬(株)、
武田薬品工業(株)、田辺三菱製薬(株)、中外製薬(株)、
ノバルティスファーマ(株)、ファイザー(株)、Meiji Seikaファルマ(株)

参加企業の企業ロゴ

3. 量子イメージング創薬アライアンス「次世代MRI・造影剤」

海外では創薬において、生体の形状(形態)、機能、そして代謝を詳細に調べることが出来るMRIの活用が盛んで、各製薬メーカーは独自に高磁場MRI装置を保有して、創薬の迅速化に生かしています。しかし、国内では装置数と専門の研究者・技術者が少ないこと、有用性の認識が広まっていないこと等から十分に活用されていません。
量研には、(1)臨床装置の2倍以上の磁場強度と感度を持ち、独自に開発した7テスラMRI装置、(2)50ミクロンを超える高分解能で脳やがんの微細構造を安全に計測できる高解像MRI装置、そして、(3)臨床用のMRIと同じ磁場強度を持ち簡便に計測できる1テスラ小型MRI装置の3台が常時稼動し、前臨床応用における高い技術力と多数の研究成果を誇っています。
そこで、量研を「前臨床MRI装置と技術・人材を提供する拠点」と位置付け、創薬を中心とした企業が持つ課題を解決するために、産学の要素技術を結合する「場」であるアライアンス(略称:MRIアライアンス)を提供し、協働で開発を進めることとなりました。
加えて、最近、臨床用のMRI造影剤に対して、潜在的な毒性や環境汚染に対する懸念が指摘され、将来的には、より安心して利用できる、安全性が高く、より高機能なMRI診断薬の開発が求められています。例えば、病気に反応して信号がONになる造影剤、あるいは治療薬と似た構造で病巣への集積を事前にチェックできる「コンパニオン造影剤6)」などの開発も目標の一つです。こうした将来へ向けた研究開発を早い段階で企業、そして大学や他の研究機関と共同で取り組むことで、より実用化を意識した開発の方向性を得ることが出来、また知的財産の共有にも繋がります。
参加企業・団体は、全体および個別会合による議論・情報共有に加えて、企業ニーズあるいは技術シーズに基づく「予備実験」を実施しながら、共同で有望な開発目標の設定を試みます。これまで多数の研究成果を創出してきた量研の高磁場MRIと関連技術を基盤に、多様な疾患に対応し、より高精度に病気を評価できるような「薬剤開発に役立つMRIソリューション」を、企業ニーズに基づき、物理・化学・薬学・生物学を網羅した量研の研究スタッフと共に開発を目指します。また、単に量研と企業間の閉じた関係ではなく、オールジャパンでの要素技術を結集した産学連携による、創造的な開発枠組を構築します。
主な研究開発拠点:放射線医学総合研究所(千葉県千葉市)
研究代表者:青木伊知男(分子イメージング診断治療研究部 チームリーダー)
参加団体(50音順):アステラス製薬(株)、第一三共(株)、帝人(株)、(国研)理化学研究所

参加企業の企業ロゴ

用語説明

  1. MRI
    磁気共鳴イメージング。強力な磁場とFM電波を使って、安全に体内の輪切り画像を得る技術。体内の水に含まれる水素の原子核が、磁場中で電波の力を受け取り、放出する「共鳴現象」を利用する。細胞や組織の種類によって電波の放出時間や周波数が変わることから、臓器や組織の形や特徴、病気などが分かる。磁場が強いほど精細な画像を得られ、血管や脳機能を撮影する方法もある。全国の病院に広く普及し、放射線に被曝しないため子供や妊婦でも安全に検査が可能。
  2. 放射線グラフト重合
    ビニール袋などに使われているポリエチレンなどのプラスチック素材に放射線を照射した後、試薬と反応させて、接ぎ木のように分子の枝を導入し、プラスチックの特性を改良することができる技術です。不織布やフィルム(膜)状の素材に、金属に対して結合力の強い化学構造やイオンを流しやすい化学構造を導入することで、レアメタルなどの有用な金属イオンを捕集する材料や燃料電池に用いられる高分子電解質膜などを作製することができます。
  3. マテリアルズ・インフォマティクス(MI)
    材料の化学・物理的な特性を示す物性データや材料を構成する原子や分子が形作るナノ~マイクロメートルと様々なスケールの構造からなる構造データと目的とする材料の機能性との相関関係を見出すため、人工知能(AI)を含む機械学習などの統計解析を活用する新たな手法です。目的とする機能性に必要な新材料を効率的に探索したり、従来では到達しない新たな高機能性材料の創製が期待されています。
  4. 脳機能イメージング
    生きている脳内の機能を、体を傷つけることなく画像化する技術の総称。脳の安静時の活動、刺激に対応した局所の活動、脳内機能分子をPET(ポジトロンCT)やMRI(磁気共鳴イメージング)等の方法で可視化し、認知、試行、情動、意思決定などの精神活動がどのように行われているのか、また認知症やうつ病などの中枢疾患において脳機能がどのように障害されているのかといった研究に用いられています。
  5. 双方向トランスレーショナルリサーチ
    医学や生物学における双方向トランスレーショナルリサーチとは、基礎研究で得られた成果を臨床に使える新しい医療技術・医薬品の開発につなげると同時に、臨床研究で得られた知見を疾患動物モデルの作製などの基礎研究にフィードバックすることによって、基礎研究と臨床研究が乖離無く進行できる体制を指します。放医研・脳機能イメージング研究部では、マウス・ラット、サルの基礎研究からヒト臨床研究までの双方向トランスレーショナルリサーチの技術基盤が整備されています。
  6. コンパニオン造影剤
    特定の医薬品の有効性や安全性を一層高めるために、その使用対象患者に該当するかどうかなどをあらかじめ検査する目的で使用される診断薬を「コンパニオン診断薬」といい(PMDAのHPより)、MRIやCT等に使用されるコンパニオン診断薬を「コンパニオン造影剤」と定義します。治療薬と似た構造を持ち、治療薬と似た体内分布を持つことで、「治療薬が目的の病巣に、適した濃度で到達しているか」「副作用を生じる部位に多く到達していないか」を、治療開始前に調べることが出来ます。また、治療薬開発と同時に造影剤を開発することでコスト削減も期待でき、特に「ナノ医療」の分野での利用が期待されています。


参考

アライアンス事業のウェブサイト(クリックするとサイトにジャンプします)

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