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プレスリリース

世界初のヘルメット型PET 装置を製品化 -小型・高性能を実現、脳の検査がもっと身近に-

掲載日:2022年1月18日更新
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発表のポイント

  • 検査薬が放つ放射線を正確に捉える世界最速クラスの検出器を半球状に配置し、座ったまま検査できる新しいスタイルの頭部専用 PET 装置を共同開発・製品化し発売開始。
  • コストのかかる検出器の数を 1/4~1/5 に減らしても高画質を維持できる小型装置で、脳PET 検査の普及に貢献。
  • 製品(実機)を令和 4 年 1 月 18 日(火)に報道関係者向けに公開。

 国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(理事長:平野俊夫、以下「量研」)と株式会社アトックス(代表取締役社長:矢口敏和、以下「アトックス」)は、世界で初めて半球状の検出器配置を採用した、小型・高性能なヘルメット型の陽電子放射断層撮影 1)(PET)装置を開発し、製品化しました(図 1)。「頭部専用PET装置  Vrain™」(以下、Vrain)と名付けた本装置は、アトックスが令和 3 年 10 月 7 日に医療機器承認を取得し、令和 4 年1月 18 日より国内で販売します。

 PET は、がんなど患部に集まる検査薬を注射し、検査薬が放つ放射線を検出器で捉えて病巣を画像化します。全身をみることができる従来の装置は、横になって大きな検出器のトンネルをくぐる形のため、大型・高価であり導入できる病院も限られていました。一方で、PET による認知症診断が注目されており、頭部検査に特化した高精度で小型な普及型装置が求められてきました。

 そこで開発チームは、光の速度で飛行する放射線をより正確に捉えるため、世界最高クラスの時間分解能を持つ検出器を開発しました。しかし、検出器はコストがかかることから、PET は円筒型という常識を覆す半球状配置を採用することで、最も少ない検出器で頭部をカバーできるようにしました。これらにより、Vrainは、従来装置と比べて少ない検出器数でありながらも、高画質な脳画像の撮像が可能です。さらに患者目線で PET 装置を見直し、座ったまま検査できるようにしたことで、従来装置に比べて圧倒的にコンパクトできたのもVrain の特徴です。今回の開発では、量研は基本設計や検出器開発などの基礎パートを、アトックスはこれまで蓄積した技術・ノウハウを生かして詳細設計やシステム開発などの実用化パートを中心に担当し、相互の得意分野を持ち寄って開発を進めました。

 開発装置は、これまでの脳腫瘍やてんかんの検査の高精度化に加えて、認知症の診断にも役立つと期待されます。アルツハイマー型認知症は、アミロイド β やタウと呼ばれるタンパク質の異常な蓄積が病気の進行に関わっているとされており、脳に蓄積されるごく初期の段階を捉えることができるようになると考えられます。さらに、今後有効な治療薬が開発された際の治療開始時期の判断にも役立つと期待されます。

「頭部専用PET装置 Vrain」(左)と側面イラスト図(右)。

図1 「頭部専用PET装置 Vrain」(左)と側面イラスト図(右)。座ったままリクライニングした後、帽子をかぶるように検出器部分がゆっくり降りてきて検査が始まる。

開発背景

 PET は、検査薬からほぼ 180 度反対方向に同時に放たれる 2 本の放射線をそれぞれ検出器で捕まえて(同時計数 2))、検査薬の位置を検出器同士の結ぶ線分上に特定します(図 2 左)。放射 線の出る方向はランダムなため、取り逃がさないように体を囲むようにたくさん検出器を並べ ます。PET 検査の主流は、糖ががんに集まる様子を調べる検査薬を使った全身のがん診断です。そのため、従来装置の検出器リングは直径 80cm くらいあり、患者さんは専用のベッドに横になって検出器のトンネルをくぐります。PET 装置はどうしても大型で高価になり、導入できる病院も限られてしまいます。

 一方で、アルツハイマー型認知症の進行に関わるとされる物質の検出に特化した PET 検査薬の開発も進んでいます。そこで、頭部に特化した、高精度でありながら普及に適したコンパクトな装置が切望されてきました。

 PET の同時計数(左)における時間分解能を 245 ピコ秒にして、検査薬の位置を 3.7cm の線分上に特定できるようにした(右)

図2 PET の同時計数(左)における時間分解能を 245 ピコ秒にして、検査薬の位置を 3.7cm の線分上に特定できるようにした(右)。このような線分の集合体を画像処理して、3mm 以下の分解能を達成した。

ヘルメット型 PET について

 同時計数における時間差の情報が分かると検査薬の位置を知ることができますが、放射線は光の速度で飛ぶため、その計測は容易ではありません。開発チームは、世界最高クラスの 245 ピコ秒 3)の時間分解能を持つ検出器の開発に成功しました。これにより、1回の同時計数だけでも検査薬の位置を3.7cm の線分上に特定できるため、PET の画質を高めることができます(図2 右)。一方で、もともと PET 検出器は高価であることから、普及性を高めるためには使う検出器の数を減らすことも大切です。そこで開発装置では、半球状に検出器を並べることで少ない検出器で頭部をカバーできるようにしました(図 3)。これは量研の特許技術であり、従来装置の 1/4~1/5 の検出器数は世界最少です。そして、日常生活と同じように座ったまま検査できるようにすると共に、従来装置には必ず組み込まれていた CT を不要にして、被ばく量を従来のPET 検査の数分の一に抑えた点も特徴です。その結果、装置自体も従来装置の約 1/5 という世界最小サイズとなり、これまで PET を設置する十分なスペースがなかった病院にも導入が可能になりました。開発装置の医療機関への導入設置や保守点検については、アトックスが実施する予定です。

従来の PET 装置(左)と「頭部専用PET装置 Vrain」(右)の比較

図3 従来の PET 装置(左)と「頭部専用PET装置 Vrain」(右)の比較

開発の成果と今後の展望

 ヘルメット型 PET の完成により、高精度な脳 PET 検査の普及が促進されると期待されます。具体的には、すでに保険適用になっている脳腫瘍やてんかんの検査に加え、アルツハイマー病 をはじめとする認知症の診断にも役立つと期待されます。認知症患者の脳内にはアミロイドβ4) やタウ 5)といった異常たんぱく質が蓄積することが知られていますが、アミロイドβを検出する PET 検査薬はすでに実用化されており、タウ PET 検査薬の開発も進んでいます。開発装置の優れた画像化性能により、脳に異常たんぱく質が蓄積するごく初期の段階を捉えることができ ると期待されます。異常たんぱく質の蓄積を抑えるアルツハイマー病治療薬の開発も国内外で 進んでおり、一部は米国で実用化されたことから、開発装置はこうした治療を開始する時期の 判断にも役立つと考えられます。

 国内の認知症患者数は、2020 年時点で 602 万人と推計され、今後の高齢化の進行に伴ってさらに増加することが予想されています。そのため、PET 検査による認知症の早期診断の実現が期待されており、開発装置の需要が見込まれます。高齢化が進む日本において認知症対策は重要な社会課題と捉えてられており、開発装置による認知症の早期発見が社会課題解決に貢献すると期待しています。

※各年齢の認知症有病率が一定の場合。「日本における認知症の高齢者人口の将来推計に関する研究」(平成 26 年度厚生労働科学研究費補助金特別研究事業 九州大学 二宮教授)より引用

アトックスについて

 アトックスはこれまで原子力関連施設のメンテナンスを中心に事業を進めてきましたが、今回新たに医療機器分野への事業展開を企図し、量研との開発を進めました。今後は、CT 装置やMRI 装置、従来 PET 装置を所有している医療機関からの需要を期待し、今後国内での販売を進める予定です。

用語解説

1.)陽電子放射断層撮影(PET)

 Positron Emission Tomography の略。頭文字をとり、PET 検査ともいう。

 身体の中の生体分子の動きをそのままの状態で外から見ることができる画像診断法の一種。18F(半減期約 2 時間)など陽電子放出核種で標識した PET 薬剤を検査対象者に投与し、PET 薬 剤より放射される陽電子に起因するガンマ線を検出することによって、体深部に存在する生体 内物質の分布や量などを画像化する。PET 装置は日本で約 600 台が普及しており、がんや、てんかんを対象にした PET 検査が保険収載されている。1 回の PET 検査の被ばく量は日米飛行機10 往復分程度で、胸部CT 検査の 1/4 程度。認知症に関連すると言われるアミロイドを可視化する PET 検査も注目されている。

 

2.)同時計数

 PET に特有な放射線の計測方法。放出された陽電子は近傍の電子と電気的に打ち消しあい、電子の質量エネルギーと等しい 511 keV の放射線に変わり、同時にほぼ反対方向に向かって飛行する。あらかじめ設定したごく短い時間内に検出された 2 つの 511 keV 放射線をペアとして記録することを指す。

 

3.)ピコ秒

 ピコはミリ、マイクロ、ナノに続いて小さい量を示すのに使う単位で 10 のマイナス 12 乗

(一兆分の一)。

 

4.)アミロイドβ

 アルツハイマー病やダウン症候群にみられる病理学的変化である老人斑、脳アミロイド血管症(アミロイドアンギオパチー)の主成分の 1 つ。アミロイド β 自身も神経細胞に毒としての作用を及ぼすことが報告されている。

 

5.)タウ

 神経系細胞の骨格を形成する微小管に結合するタンパク質。細胞内の骨格形成と物質輸送に関与している。アルツハイマー病をはじめとする様々な精神神経疾患において、タウが異常にリン酸化して細胞内に蓄積することが知られている。