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プレスリリース

光と加熱で、金属と絶縁体を行ったり来たり -高性能な光応答イットリウム化合物薄膜を世界で初めて作製-

掲載日:2022年4月7日更新
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要点

○イットリウム酸水素化物のエピタキシャル薄膜に紫外光を照射すると、電気抵抗が7桁以上減少し、温度依存性が金属状態になることを発見(光誘起金属化)

〇紫外光照射と加熱により、絶縁体状態と金属状態の変換を繰り返す事に成功

〇電子状態計算により、光照射による金属化は薄膜内水素の局所状態変化による余剰電子に起因することを解明

概要

 東京工業大学 物質理工学院 応用化学系の清水亮太准教授、小松遊矢 大学院生(博士後期課程2年)らの共同研究グループ※は、イットリウム・酸素・水素の化合物(YOxHy)の結晶方位を揃えたエピタキシャル薄膜(用語1)を世界で初めて作製し、光照射と加熱によって絶縁体と金属の繰り返し変化に成功した。

 光センサや光メモリなどの光エレクトロニクス(用語2)応用に向けて、光照射により電気的物性が大きく変化する物質の開発が望まれている。しかしながら、電気抵抗が温度下降に伴い増加する「絶縁体・半導体」から、温度下降に伴い減少する「金属」への変化を、光照射によって達成した報告はなかった。本研究では、絶縁体であるYOxHyエピタキシャル薄膜に光を照射することでその電気抵抗が大幅に減少した「金属」状態を発現させ、当該金属状態を数日スケールで保持することに成功した。従来のガラス基板上の多結晶体(用語3)のYOxHyでは、太陽光照射により電気抵抗が1桁程度減少するが、エピタキシャル薄膜化により3桁以上の減少を達成した。さらに、エピタキシャル薄膜に紫外レーザ光を照射すると電気抵抗は7桁以上も減少し、絶縁体からの金属化を実現した。この結果を説明するために、局所構造・化学組成の高分解能計測から構造モデルを構築し、これを基に電子状態を計算した結果、薄膜内の水素が光応答して余剰電子が生じ金属化に至る微視的機構を明らかにした。

 本研究の成果を活用することで、高性能な光メモリ・スマートウィンドウ等のデバイス応用につながる。また、薄膜内水素の密度・結合・荷電状態を高度に制御することで、さらなる光エレクトロニクスの進展が期待される。

 研究成果は4月7日に、米国化学会誌「Chemistry of Materials(ケミストリーオブ マテリアルズ)」にArticleとしてオンライン掲載(オープンアクセス)される。

※各機関の役割と研究グループメンバー

・東京工業大学:試料作製、データ測定、論文作成

物質理工学院 応用化学系  清水亮太 准教授

小松遊矢 大学院生(博士後期課程2年)

一杉太郎 教授

物質理工学院 材料系          宮内雅浩 教授

・東京大学:データ測定、理論計算・解析、論文作成

大学院理学系研究科            佐藤龍平 特任研究員

(研究当時。現 東北大学 特任助教)

常行真司 教授

生産技術研究所   ビルデマーカス 特任教授

福谷克之 教授

・日本原子力研究開発機構:データ測定、論文作成

松村大樹 研究主幹

・量子科学技術研究開発機構:データ測定、論文作成

齋藤寛之 グループリーダー

・総合科学研究機構:データ測定、論文作成

杉山純 サイエンスコーディネータ

背景

 光センサや光メモリに代表される光エレクトロニクスデバイスは、光を受けた時の物性変化によって機能を発揮する。たとえば、光がない状態では電気抵抗が大きく電流が流れないが、光が当たると電気抵抗が小さくなり電流が流れる物質を用いることで、光が当たったときだけ動作するデバイスをつくることができる。このような光応答性を示す物質は、様々な用途に展開できるため大きな注目を集めているが、今後の応用拡大を鑑みると、より大きな電気抵抗変化が求められる。これを達成するためには、電気抵抗が温度下降に伴い増加する「絶縁体・半導体」から、温度下降に伴い減少する「金属」に変化する物質の開発が重要である。

 これまで、光照射によって絶縁体から金属化し、その金属状態を長期間保持できる物質は存在しなかった。モット絶縁体(用語4)において光誘起金属化が報告されているが、その金属状態はごく短時間(ピコ秒(10-12秒)程度)しか保持できない。また、光照射による低抵抗状態を長期間(数日)保持できる例として、12CaO・7Al2O3が知られているが、この物質は半導体(室温の電気抵抗率:~100 Wcm)にまでしか変化しない。つまり、光照射による「金属化」およびその金属状態の長期間保持と、任意のタイミングで「再絶縁化」できる物質は存在しなかった。

 上記を踏まえて本研究では、光照射により電気抵抗が減少する物質の1つであるイットリウム酸水素化物(YOxHy)に着目した。YOxHy は太陽光照射によって可逆的に着色・脱色する性質(フォトクロミズム)を示し、同時に電気抵抗も可逆的に変化することが知られている。しかしながら、YOxHy 薄膜における太陽光照射時の電気抵抗減少はたかだか1桁にすぎなかった。その要因としては、従来のYOxHy 薄膜はガラス上で作製された多結晶体であり、ランダムに並んだ結晶の粒界抵抗の影響を強く受けていることが考えられる。そのため、より方位の揃ったYOxHy 結晶を用いた物質本来の光応答性の評価が望まれていた。

研究成果

 本研究では、結晶方位の揃ったYOxHyエピタキシャル薄膜作製に世界で初めて成功し、太陽光による電気抵抗の減少率として、従来比で100倍大きい応答性を見出した。

 YOxHy 結晶と類似の結晶構造を有するイットリア安定化ジルコニア基板を用い、基板温度や水素ガス分圧等の薄膜作製条件を最適化することで、YOxHyエピタキシャル薄膜の作製に成功した。このエピタキシャル薄膜に太陽光を30分照射したところ、電気抵抗率が>1.3×103 から1.0×100 W cmに変化し、3桁以上の減少を示した(図1(a))。従来の多結晶体では電気抵抗率の減少はたかだか1桁であり、光応答性が従来比で100倍向上している。

 さらなる低抵抗状態の実現に向け、より高強度の紫外レーザ(波長:193 nm)を照射したところ、電気抵抗率は1.7×104 から6.2×10-4 W cmまで7桁以上減少した(図1(a))。この低抵抗状態では、温度下降とともに電気抵抗が減少するので、「金属状態」が発現したことがわかった(図1(b))。実際に、光照射した薄膜の外観は、黄色透明から黒色へと変化し、自由電子の生成による着色と合致した。このレーザ照射後の金属状態は室温下において数日スケールで長期間保持された。

 金属状態が保持される中でも、電気抵抗は微増していることを確認した。そこで、電気抵抗上昇を加速させるために125°C、2時間加熱処理を行うと、急激に電気抵抗値が大きくなり元の透明な絶縁体へと戻った。さらに驚くべきことに、紫外レーザを再照射すると、再び金属化した。すなわち、光照射によって絶縁体から金属への繰り返し制御を達成した(図1(c))。

図1:(a) 太陽光照射(黒色)および紫外レーザ照射(波長:193 nm)(赤色)による、YOxHyエピタキシャル薄膜の電気抵抗率変化。 (b)紫外レーザ照射(波長:193 nm)後のYOxHyエピタキシャル薄膜における電気抵抗率の温度依存性。正の傾きは金

図1:(a) 太陽光照射(黒色)および紫外レーザ照射(波長:193 nm)(赤色)による、YOxHyエピタキシャル薄膜の電気抵抗率変化。 (b)紫外レーザ照射(波長:193 nm)後のYOxHyエピタキシャル薄膜における電気抵抗率の温度依存性。正の傾きは金属伝導であることを意味する。挿図は紫外レーザ照射後の薄膜の外観(左側半分のみ照射)。(c) 紫外レーザ照射後における電気抵抗の時間依存性。室温下では0-50時間で電気抵抗が微増し、125 ℃、2時間の加熱により再絶縁化する。さらに、紫外レーザ再照射によって電気抵抗は再金属化する。挿図は各状態における薄膜の外観を示している。    

 

 この光照射による金属化と加熱による再絶縁化のプロセスは、酸素や水素を含まない真空中やAr雰囲気中でも同様に起こるため、外界との酸素や水素のやり取りのない「閉じた系」で起きる現象である。これは、同様の光伝導を示すヒドリド(H-)含有12CaO・7Al2O3と類似しているので、同様のH-の光励起メカニズム(H- ⇄ H+ + 2e-)による余剰電子の生成が考えられる。

 そこで金属化の詳細な機構を調べるため、X線吸収微細構造測定(EXAFS)による局所構造解析や、ラザフォード後方散乱(RBS)、弾性反跳検出分析法(ERDA)、核反応分析法(NRA)による組成分析、ベータ崩壊検出核磁気共鳴法(b-NMR)による水素ダイナミクス解析を行った。その結果、Yの面心立方格子(用語5)中において、酸素は四面体サイトThサイト、用語6)のみに存在し、水素が残りの四面体サイトと八面体サイトOhサイト、用語7)に存在することがわかった。これらの実験結果に基づいて第一原理計算(用語8)を行ったところ、八面体のH-が四面体サイトのO2-と結合してOH-を形成し(H-Oh + O2-Th + hn → (OH-)Th + 2e-)(図2(a)、(b))、生成した余剰電子により金属化する描像で今回の結果を説明できることを明らかにした(図3)。

図2:(a) 光照射前の構造モデルにおけるバンド計算。(単位格子内の3つのOと5つのHを四面体サイト(Thサイト)に、 1つのHを八面体サイト(Ohサイト)に配置した。バンドギャップ(Eg)が~2.0 eVの絶縁体である。 (b) 光照射後の構造モデルにお

図2:(a) 光照射前の構造モデルにおけるバンド計算。(単位格子内の3つのOと5つのHを四面体サイト(Thサイト)に、 1つのHを八面体サイト(Ohサイト)に配置した。バンドギャップ(Eg)が~2.0 eVの絶縁体である。 (b) 光照射後の構造モデルにおけるバンド計算。八面体サイトのHが四面体サイトのOと結合している。フェルミ準位(EF)をYの伝導帯が横切っており、金属的な電子状態であることを表している。 

図3:YOxHyにおける光誘起金属化反応の概念図。

図3:YOxHyにおける光誘起金属化反応の概念図。

 

今後の展開

 本研究で実現した絶縁体からの繰り返し可能な光誘起金属化を利用し、高性能な光メモリ・スマートウィンドウ等のデバイス応用が期待される。また、この極めて大きな光応答性は水素の局所的な結合や荷電状態に由来していることから、薄膜内における水素の密度・結合・荷電状態などの高度な制御により、さらなる光エレクトロニクスの進展へとつながることが期待される。

 

付記

 本成果は日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業(新学術領域研究 「ハイドロジェノミクス」、同 複合アニオン化合物の創製と新機能、同 3D活性サイト科学、基盤研究(B)、特別研究員奨励費)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(さきがけ)、東北大学金属材料研究所、およびAGC株式会社の支援を受けて行った。本成果中のX線吸収微細構造測定は、文部科学省「ナノテクノロジープラットフォーム」による支援の下、大型放射光施設SPring-8(用語9)のQST極限量子ダイナミクスIIビームライン(BL14B1)にて実施した。また、b-NMR測定は、TRIUMF(カナダ)にて実施した。

 

用語解説

(用語1)エピタキシャル薄膜:基板となる単結晶上に成長させた薄膜で、下地の基板と薄膜の結晶方位が揃っているもの。伝導キャリアを散乱させる結晶粒界の密度が小さいため、物質本来の伝導特性の評価が可能になる。

(用語2)光エレクトロニクス:光による外部刺激を利用し、電気特性と組み合わせることで記録や通信、エネルギー変換へと応用する分野のこと。

(用語3)多結晶体:上記エピタキシャル薄膜とは異なり、結晶方位がランダムなものを指す。一般に結晶粒界の密度が大きく、本質的な電気伝導特性の評価には不向きである。

(用語4)モット絶縁体:バンド理論では金属的と予想されるが、固体内の電子が他の電子間における斥力によって局在化し、絶縁体状態となるさま。光照射による電子励起により、伝導電子の割合を変化させることでごく一時的に金属状態を実現できる。

(用語5)面心立方格子:立方体の単位格子にて、各頂点および各面の中心に原子が位置しているもの。イットリウム酸水素化物においては、イットリウム(Y)が面心立方格子を形成し、酸素(O)および水素(H)が格子間サイトに位置することが知られている。

(用語6)四面体サイト:面心立方格子において、最近接原子から構成された正四面体の中心位置を四面体サイトと呼ぶ。格子内のイオンは、このような化合物中の別の原子が形成する位置(サイト)を占有している。

(用語7)八面体サイト:上記の面心立方格子において、各面の中心に位置した原子から構成された正八面体の中心位置を八面体サイトと呼ぶ。

(用語8)第一原理計算:量子力学の基本法則に沿った電子状態理論のもと、固体の性質を計算する手法。実験結果と第一原理計算を照らし合わせることにより新たな学理を構築することや、実験前に結果をシミュレーション予測する際に用いられる。

(用語9)大型放射光施設SPring-8:兵庫県の播磨科学公園都市にある世界最高性能の放射光を生み出す理化学研究所の施設。放射光とは、電子を光とほぼ等しい速度まで加速し、電磁石によって進行方向を曲げた時に発生する、細く強力な電磁波を指す。

論文情報

掲載誌:Chemistry of Materials

論文タイトル:Repeatable Photoinduced Insulator-to-Metal Transition in Yttrium Oxyhydride Epitaxial Thin Films

著者:Yuya Komatsu, Ryota Shimizu, Ryuhei Sato, Markus Wilde, Kazunori Nishio, Takayoshi Katase, Daiju Matsumura, Hiroyuki Saitoh, Masahiro Miyauchi, Jonah R. Adelman, Ryan M. L. McFadden, Derek Fujimoto, John O. Ticknor, Monika Stachura, Iain McKenzie, Gerald D Morris, W. Andrew Macfarlane, Jun Sugiyama, Katsuyuki Fukutani, Shinji Tsuneyuki, Taro Hitosugi

DOI:10.1021/acs.chemmater.1c03450