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プレスリリース

重イオンビームを活用した効率的なリンドウの育種手法の開発

掲載日:2025年7月18日更新
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ロゴQST横ロゴ2025年7月18日
公益財団法人岩手生物工学研究センター
国立研究開発法人​量子科学技術研究開発機構(QST)


 ​岩手生物工学研究センター、量子科学技術研究開発機構、岩手県農業研究センターは、共同研究により、重イオンビーム(重粒子線)を活用した効率的なリンドウの突然変異誘発技術を開発しました。

 

作物の育種には、自然に生じた少し変わった性質を持つ突然変異体を利用しています。リンドウは、バラやカーネーション等と比べると、花の形や色の種類が多くありません。そのため、品種改良を進める上で、この突然変異体をうまく活用していくことが大切です。しかしながら、貴重な突然変異体を見つけだすことは簡単ではありません。

 そこで、岩手生物工学研究センターが培ってきたリンドウのバイオテクノロジー研究と、作物の突然変異を誘発できる重イオンビーム技術を組み合わせることで、研究グループでは効率的にリンドウの突然変異体を作出できる技術の開発に成功しました。今後、新たな品種や新形質の付与など、リンドウの品種改良の促進が期待されます。

研究成果の概要

 放射線の一種である重イオンビームは、重粒子線治療としてがん治療にも利用されています。そのような重イオンビームを、植物に照射することで、効率的に多様な突然変異を誘発できることが知られています。これまでの共同研究により、リンドウにおいても、花色の変化などの様々な突然変異体を効率よく作り出すことができることが分かっています。しかしながら、これまでは、無菌的な状態で挿し木増殖させる節培養により増殖を行っており、変異体の作出には、1 年以上の時間と膨大な労力を要していました。
 本研究では、わずか1 枚の葉から複数の植物体を得ることができる再分化と呼ばれるバイオ技術を利用することで、最短2 か月で突然変異体候補を作出できる、時短化・省力化技術を開発しました。

今後の展望

 岩手県は、「リンドウ」の生産量が日本一を誇ります。本研究で開発したリンドウ育種手法により、新しい花色・花形や、天候の変化・病気に強く栽培しやすいリンドウ品種を効率的に開発することで、岩手県産リンドウの生産振興や需要拡大に貢献していくこととしています。

重イオンビーム照射中の培養リンドウ
図1 ​重イオンビーム照射中の培養リンドウ
​量子科学技術研究開発機構が有する重粒子線がん治療装置(HIMAC)。多くのがん治療を担うとともに、研究施設としても役割を果たしている。

 

得られた突然変異系統の例
​得られた突然変異系統の例
​左 突然変異系統    右 元品種 
   八重咲き        一重咲き 
​雄しべが花弁化し、八重咲きになり、花サイズが約1.5倍になった。

掲載誌名: Plant Biotechnology  
論文タイトル:    Mutagenesis and production of double-flowered gentians via regeneration from ion beam-irradiated leaves
著者:西原 昌宏・平渕亜紀子・阿部陽・清水元樹・後藤史奈・吉田千春・下川卓志・小澤傑・内藤善美・根本圭一郎
共同研究機関: 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構量子医科学研究所、岩手県農業研究センター
DOI: https://doi.org/10.5511/plantbiotechnology.25.0501a

【謝辞】

 本研究は、重粒子線がん治療装置等共同利用研究とイノベーション創出強化研究推進事業 基礎研究ステージ「中性園芸作物リンドウの開花制御基盤技術の開発」(令和2〜4 年度)による支援を受けて行われました。

【用語解説】

 重イオンビーム:重粒子線ともいう、電離放射線の一種で、広義では加速器により加速された電子より重いイオンのビームのことを示す。本研究では炭素以上を用いた。イオンの通り道に集中的にDNA損傷が生じることより、突然変異を誘発する。