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プレスリリース

植物は、弱いガンマ線でも積極的に反応して変異の発生を抑制し、DNAを守る―モデル植物シロイヌナズナへの長期間照射試験で発見!―

掲載日:2020年3月10日更新
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発表のポイント

  • 植物にガンマ線を少量ずつ長期間照射した際に生ずる、次世代以降にも伝わるDNA変異の発生数や種類を世界で初めて調べた。
  • DNA変異の発生数は増えないが、DNAが修復された痕跡(DNAの配列が置き換わる変異の種類の変化)が見られる線量域があることを発見した。
  • この実験から、植物が弱いガンマ線にも積極的に反応してDNA変異の発生を抑制していることがわかった。
  • DNA変異の種類の変化は、植物が受けたガンマ線の量を高感度で評価する指標になると考えられる。

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 平野俊夫。以下「量研」という。)量子ビーム科学部門高崎量子応用研究所放射線生物応用研究部プロジェクト「イオンビーム変異誘発研究」の長谷純宏上席研究員らは、1時間あたり1mGy程度の弱いガンマ線にも植物が積極的に反応して変異の発生を抑制し、DNAを守っていることを発見しました。

 植物にガンマ線を照射するとDNAに傷が生じ、この傷が誤って修復された場合にDNAに変異が発生します。植物にガンマ線を少量ずつ長期間照射した際にどのような変異が発生し、世代を超えて受け継がれるのかは、これまでほとんどわかっていませんでした。研究チームは、モデル植物シロイヌナズナの長期間照射試験を実施し、変異の発生数や生じた変異の種類を、ゲノムDNA配列の全域にわたって世界で初めて調査しました。その結果、1時間あたり1 mGy程度のガンマ線を照射しながら育てたシロイヌナズナの変異の発生数は、照射しないで育てたシロイヌナズナと変わりませんでしたが、DNAの配列が置き換わる変異の種類は変化していることを発見しました。変異の種類の変化はガンマ線で生じたDNAの傷を植物が修復したことを示しますが、変異の総数は照射していない植物と変わらなかったことから、植物がDNAを守る能力を高めて変異の発生を抑制したと考えられます。この結果から、植物が弱いガンマ線にも積極的に反応してDNAに生じた傷を修復し、変異の発生から守っていることがわかりました。DNA変異の種類の変化は、植物が受けたガンマ線の量を高感度で評価する指標になると考えられます。

 この成果は、植物科学誌「Frontiers in Plant Science」のオンライン速報版に2020年3月6日(金)に公開されました。

研究の背景

 ガンマ線等の放射線によって生じる変異を利用した植物の品種改良技術は、数十年以上前から現在に至るまで世界中で広く使われています。ガンマ線を使って変異を導入する方法としては、設定した線量を数分から数時間の間に一度に照射するのが一般的ですが、植物を育てながら数日から数か月かけてじわじわと照射する「緩照射」と呼ばれる方法も行われています。本研究チームは、これまで明らかになっていなかった「緩照射」で生じる変異の特徴を分子レベルで解析する研究の過程で、1時間当たり1 mGy程度の弱いガンマ線にも植物が積極的に反応し、DNA変異の発生を抑制していることを発見しました。

研究の手法と成果

 高崎量子応用研究所のガンマ線照射室で、モデル植物シロイヌナズナの長期照射試験を実施しました。照射していない植物に比べて正常に実る種子の割合が約30%低下する線量率(500 mGy/h)、植物の外観や種子の形成に影響が見られない程度の線量率(73~100 mGy/h)、ここから約1/100に低減した線量率(0.6~1.9 mGy/h)、さらに約1/500に低減した線量率(2~4 µGy/h)の4つの条件で5世代にわたって育成し、6世代目の植物に生じていた変異を調査しました(図1)。各世代での照射期間は、種子を播いて1週間後から花茎の伸長が始まるまでの約2週間としました。対照区として自然に生じる変異の数を調査するため、通常の植物育成室でガンマ線を照射せずに育成した6世代目の植物に生じていた変異を調査しました。

試験方法の概要

図1 試験方法の概要

 

 その結果、対照区で1世代あたりに発生した変異の数は、シロイヌナズナのゲノムDNA配列の全長約1億2千万塩基のうち約1ヶ所でしたが、73~100 mGy/hでは約4倍、500 mGy/hでは約25倍に上昇しました(図2)。一方、0.6~1.9 mGy/h及び2~4 µGy/hでは、対照区に比べて変異の発生数に明らかな上昇は見られませんでした。

変異の発生数(1世代あたり個体あたりの数)

図2 変異の発生数(1世代あたり個体あたりの数)

 

 ガンマ線照射では、DNAの配列の1つが別の種類に置きかわる塩基置換という変異が最も多く生じます。DNAの配列は、プリン塩基であるアデニン(A)とグアニン(G)、ピリミジン塩基であるシトシン(C)とチミン(T)という4種類で構成されています。自然に生じる変異では、トランジションと呼ばれるプリン塩基同士(A ⇔ G)またはピリミジン塩基同士(C ⇔ T)が置き換わるものが大部分ですが、ガンマ線照射によって、トランスバージョンと呼ばれる、プリン塩基がピリミジン塩基に(または、ピリミジン塩基がプリン塩基に)置き換わる変異の割合が増えることが知られています。トランスバージョンの増加は、ガンマ線によってDNAに生じた傷を植物が修復したことを示すと考えられます。

 試験の結果、対照区のトランジション/トランスバージョンの比率は3.0であったのに対し、73~100 mGy/h及び 500 mGy/hでは、トランスバージョンの割合が増えるため、その値は0.7~0.8に低下しました(図3)。変異の発生数が上昇しなかった2~4 µGy/hでは、対照区とほぼ同じ値でした。ところが、同様に変異の発生数が上昇しなかった0.6~1.9 mGy/hでは、トランジション/トランスバージョンの比率が1.4に低下していました。このことは、0.6~1.9 mGy/hでは、ガンマ線によって生じたDNAの傷を植物が修復したことを示唆します。さらに、変異の発生数は上昇しなかったことから、植物がDNAに生じた傷に反応してDNAを守る能力を高め、自然に生じる変異の数が対照区に比べて減少したと考えられます。

変異の種類(塩基置換の種類)

図3 変異の種類(塩基置換の種類)

 

 これらの結果から、1時間あたり1 mGy程度の弱いガンマ線に対しても植物が積極的に反応してDNAの傷を修復し、変異の発生を抑制していると考えられます。また、トランジション/トランスバージョンの比率は、植物が受けたガンマ線の量を評価する指標になると考えられます。

今後の展開

 今回の成果は、植物が様々なストレスによって生じるDNAの傷からゲノムDNAを守る仕組みの解明に貢献すると期待されます。

用語解説

1) シロイヌナズナ

アブラナ科に属する一年草で、モデル植物として世界中で利用されています。植物として

初めて全ゲノムDNAの配列が解読されました。

 

2)プリン塩基・ピリミジン塩基

DNAを構成する4種類の塩基のうち、プリンを骨格とするものをプリン塩基、ピリミジン

を骨格とするものをピリミジン塩基と言います。DNAを構成するプリン塩基はアデニンとグ

アニンの2種類、ピリミジン塩基はシトシンとチミンの2種類です。

 

3) トランジション・トランスバージョン

DNAの塩基の種類が置き換わる変異の内、プリン塩基同士が置き換わる変異をトランジシ

ョン(下図、青色矢印)、プリン塩基がピリミジン塩基に、またはピリミジン塩基がプリン

塩基に置き換わる変異(下図、赤色矢印)をトランスバージョンと言います。

トランジション・トランスバージョン

 

4) ゲノムDNA配列

生物の細胞が持つ全てのDNA配列情報のことを指します。

 

論文について

タイトル:Genetic consequences of acute/chronic gamma and carbon ion irradiation of Arabidopsis thaliana

著者:Yoshihiro Hase, Katsuya Satoh, Hajime Seito and Yutaka Oono

所属:Takasaki Advanced Radiation Research Institute, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, 1233 Watanuki, Takasaki, Gunma 370-1292, Japan

雑誌名:Frontiers in Plant Science

 

 

 

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