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量子デバイスに囲まれる生活 第4回 3次元材製に負けない製品

掲載日:2023年7月6日更新
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量子デバイスに囲まれる生活
第4回 3次元材製に負けない製品

実用化への見地・技術活用

 物質と聞くと鉄やガラスなど目に見えるものが思い浮かぶ。物質を原子に近いサイズまで小さくしたものはナノ物質(1ナノメートルは10億分の1メートル)と総称される。ナノ物質はその形状によって、点状のものは量子ドット、棒状のものはナノチューブ、シート状のものはナノシート(以下、2次元材料)などと分類される。2次元材料としては、2004年に発見された炭素原子が蜂の巣のような六角形状に結合したグラフェンが有名である。この発見には2010年にノーベル物理学賞も与えられている。このようにサイズを極限まで小さくしたナノ物質では、量子状態に関連した様々な面白い性質が現れる。

 グラフェン発見を契機として、遷移金属ダイカルコゲナイドや六方晶窒化ホウ素など、グラフェンにはない物理特性を持つ非常に多くの2次元材料が登場、トランジスタ、発光/受光デバイスなど様々な機能デバイスを目指した応用研究が進んでいる。さらに近年では、スピン欠陥やスピン流などの量子が関係する研究も行われている。その中で、機能を持った2次元材料をレゴブロックに喩え、様々な積み重ね方によりそれぞれの機能を統合した全く新しい概念のデバイスが提唱され始めている。量子状態は非常に壊れやすいため、物質中で状態を長時間維持することや、遠くまで運搬することは非常に難しいが、2次元材料は元々原子レベルの厚さしかなく、それを積層してもナノサイズの距離しかないため、量子状態を利用するには適した形状となっている。また、積層するブロックの種類や積層の順番を変えることで全体の機能を変えることもできる。さらに、通常の3次元材料は曲げると壊れてしまうが、2次元材料は曲げに強い上、電気伝導性などはあまり低下しないことが確認されている。

 量子科学技術研究開発機構(QST)では、量子センサなどに利用できる電子が持つスピンという特性やダイヤモンドなどの中に形成した特殊な欠陥に関する研究を行っている。これらの知見や技術を活用し、量子技術の実用化に向けて、2次元材料をベースとしたフレキシブルでありながら3次元材料で作られたデバイスに負けない、あるいは実現が難しい新規量子デバイスの創製に取り組んでいる。

2次元材料の量子デバイス

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
​量子技術基盤研究部門
高崎量子応用研究所
光スピン量子制御プロジェクト
研究統括

山崎 雄一(やまざき・ゆういち)

第101回著者

イオンビームを用いた炭化ケイ素および六方晶窒化ホウ素中のスピン欠陥形成・利用に関する研究に従事。現在、2次元材料を使った新規量子デバイスの研究を行っている。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年7月6日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(101)量子デバイスに囲まれる生活 3次元材製に負けない製品(2023/7/6 科学技術・大学)