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量子科学技術でつくる未来 光による量子制御(連載記事 全7回)

掲載日:2023年6月8日更新
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連載企画「量子科学技術でつくる未来」(第91回-第97回)について

量子科学技術研究開発機構が進める事業や研究開発を広く一般の方にご紹介するため、2021年5月から日刊工業新聞の「科学技術・大学」面にて毎週木曜日に「量子科学技術でつくる未来」を連載しています。

光による量子制御」に関する連載(第91回-第97回)では、レーザーを用いた量子技術の実用化に向けた研究として、レーザーの「波」の形を制御することによってできる10兆分の1秒より短い「極短パルス」レーザーの特徴や利用用途などをわかりやすく紹介します。今までレーザー研究やレーザー加工などに馴染みの無かった皆様にも関心をもっていただける内容となっておりますので、ぜひご覧ください。

その他の連載については、こちらのページ(これまでの連載記事)に掲載していますので、ぜひご覧ください。

※新聞掲載版は各リンク先(日刊工業新聞HP)をご参照ください。

※日刊工業新聞社の承諾を得て掲載しております。
※新聞連載記事とは内容が一部異なる場合があります。


光による量子制御 第7回
軟X線レーザーで超微細加工

アブレーションによる直接加工の概念図​ 情報化社会を支える情報通信技術やスマート社会の基盤をつかさどる人工知能技術などを利用するための手段として、パソコンやスマートフォンなどの電子機器が活用されている。量子コンピュータが実用化されるころには、社会に流れる情報量は今よりも飛躍的に増大するだろう。電子情報機器に求められる処理性能はますます向上することになる。

 電子デバイスの要となる半導体回路は、微細化によって性能が向上してきた。その製造には、原図の回路パターンをシリコンウェハ上に縮小露光するリソグラフィ技術が利用されている。シリコンウェハ上に塗布した感光材料に焼き付けた後、化学処理を施すことで目的とするパターンを得ている。電子回路の微細化に対応するため、リソグラフィの露光波長の短波長化が進み、現在は波長13.5ナノメートルの極端紫外線を使ったEUVリソグラフィ(本連載シリーズ第5回(5月25日)掲載)が最先端技術として実用化されている。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 X線超微細加工技術研究プロジェクト プロジェクトリーダー 石野 雅彦(いしの・まさひこ)

■日刊工業新聞 2023年6月8日(連載第97回) 軟X線レーザーで超微細加工

光による量子制御 第6回
量子を支える光技術

光誘起マイクロ波発生の概念図 「超スマート社会」では、現実空間と仮想空間を高度に融合することで社会の様々なニーズに的確に対応し、全ての人がキメ細かいサービスを受けられる。実現には量子コンピュータや量子センサといった量子技術が不可欠である。ここで重要となるのがマイクロ波と呼ばれる高い周波数の電波である。米国のIBMやグーグル、日本の理化学研究所で開発が進む量子コンピュータでは、超伝導状態の電子の制御や読出しにマイクロ波は不可欠だ。高感度な磁場や温度計測を実現するダイヤモンド中の窒素―空孔(NV)センターによる量子センシングでも、電子スピン操作や読出しにマイクロ波が使われる。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 高崎量子応用研究所 量子機能創製研究センター センター長 大島 武(おおしま・たけし)

■日刊工業新聞 2023年6月1日(連載第96回) 量子を支える光技術

光による量子制御 第5回
究極のリソグラフィー技術

極端紫外(EUV)リソグラフィ露光機の模式図​ スマートフォンやパソコンに搭載されるCPUやメモリなどの半導体の性能は、素子の微細化によって集積度が3年ごとに2倍増えるというムーアの法則に従って、30年以上にわたって向上し続けてきた。

 一般的なリソグラフィ露光機では、原図であるマスク上の電子回路パターンを写真の原理を使ってシリコンウェハ上に縮小して焼き付ける。光は波の性質を持つので、焼き付けパターンの幅は波長程度となる。最近実用化された露光機では、極端紫外(EUV)光と呼ばれる、極めて短い波長(13.5ナノメートル)の光を使い、原子数十個程度(数ナノメートル)のサイズの究極の電子回路が作られるようになった。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 X線超微細加工技術研究プロジェクト 専門業務員 佐々木 明(ささき・あきら)

■日刊工業新聞 2023年5月25日(連載第95回) ​究極のリソグラフィー技術

光による量子制御 第4回
レーザーで生体反応観察​

レーザーを利用した生体の電子状態観測 植物やラン藻などの微生物は「光」から光合成過程によりエネルギーを得る。光化学系と呼ばれるクロロフィル(色素分子)-タンパク質複合体がアンテナとして光を受容し、そのエネルギーを反応中心に運ぶことで光合成過程のエネルギー伝達が開始される。そのエネルギー効率は、ほぼ100%と特異的に高いため、その反応や伝達には量子性の寄与が推測されている。

 その過程を詳しく調べると、複合体内に存在する一つのクロロフィルが光を吸収して電子が励起され、その電子エネルギーが複数の色素分子を介して反応中心に伝達されているのだが、なぜ高い効率が実現されているのかはわかっていない。その機能の理解は人工光合成物質の合成に必須であり、直面しているエネルギー問題や光合成による二酸化炭素削減等のカーボンニュートラルへの貢献が期待される。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト 上席研究員 坪内 雅明(つぼうち・まさあき)

■日刊工業新聞 2023年5月18日(連載第94回) レーザーで生体反応観察

光による量子制御 第3回
究極の光スイッチ実現​

レーザーを利用したスピン流生成デバイスのイメージ 情報通信技術の重要な性能指標として処理速度がある。処理速度とは情報の伝達速度であるため、最も速い粒子である光を利用した情報処理が理想である。しかし、現在「光」の役割は長距離伝送であり、情報処理は「電子」により行われている。光伝送をチップ内やチップ間まで短距離にした「光電融合技術」を実現することで大幅な性能向上が期待されている。もう一つ重要な性能指標として電力効率がある。情報を一時保存する記録(メモリ)は電子の電荷を用いており、電源を切ると情報が損失する揮発性である。揮発性メモリでは電力消費が大きく電力効率向上に大きな課題となる。解決策として研究されているのが電子の持つ磁気である「スピン」を利用した技術、スピントロニクスである。このスピンを利用したメモリでは待機電力「ゼロ」、動作電力も通常の1/100程度と大きなブレークスルーが見込まれる。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト 上席研究員 乙部 智仁(おとべ・ともひと)

■日刊工業新聞 2023年5月11日(連載第93回) 究極の光スイッチ実現

光による量子制御 第2回
極短パルス軟X線光源開発​

水の光励起ダイナミクス(提唱例)と計測方法の概念 軟X線領域の光を用いると、さまざまな化学反応、例えば、触媒反応や光合成過程に関与する軽元素(炭素、窒素、酸素など)や遷移金属元素(チタン、マンガンクロム、鉄など)近傍の構造や電子状態などを敏感に反映する計測が可能になる。一方で軟X線光源は大型の放射光施設(仙台で建設が進む「ナノテラス」など)以外での利用が進んでいなかった。

 近年進んだ技術革新により、レーザーを用いた軟X線発生が可能になり、実験室規模で運用可能な軟X線光源として世界で研究開発が進められている。レーザーベースの軟X線は、アト秒(100京分の1秒)からフェムト秒(1,000兆分の1秒)といった極めて短い時間だけ光る極短パルス光源である特徴がある。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト 上席研究員 石井 順久(いしい・のぶひさ)

■日刊工業新聞 2023年4月27日(連載第92回) 極短パルス軟X線光源開発​

光による量子制御 第1回
量子技術支えるレーザー

量子技術を支えるレーザーと計測・理論​ 光(レーザー)技術は、量子技術をさまざまな面で支えている。光は「粒子」と「波」の二重性を持つが、レーザーを利用する多くの場合、「波」の性質が用いられる。量子力学の世界では、物質中の状態は波として記述されるが、レーザーはそれらを人が直感しやすい古典力学の世界と繋いでくれる。

 例えば、レーザー分光は、物質内の原子レベルの波である量子状態を電磁波である光で読み出すことに相当する。物質中の量子状態の観測や制御・操作をする上でレーザーの果たす役割は大きい。本連載(全7回)は、レーザーを用いた量子技術の実用化に向けた研究、主にレーザーの「波」の形を制御することによってできる10兆分の1秒より短い「極短パルス」レーザーの利用について紹介する。​​→続き

執筆者: 量子科学技術研究開発機構 量子技術基盤研究部門 関西光量子科学研究所 量子応用光学研究部 超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト プロジェクトリーダー 板倉 隆二(いたくら・りゅうじ)

■日刊工業新聞 2023年4月20日(連載第91回) 量子技術支えるレーザー