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量子デバイスに囲まれる生活 第5回 室温で動作の単一光子源

掲載日:2023年7月13日更新
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量子デバイスに囲まれる生活
第5回 室温で動作の単一光子源

ナノ構造使い性能向上

 光の強度を小さくしていくと、それ以上は小さくならない「光子」とよばれる最小単位、すなわち量子となる。光子は、空間を光速で移動することができる、室温や大気中でも量子情報を保持することができる、あるスピン欠陥から別のスピン欠陥へ量子情報を転送する際のつなぎ役としてはたらくなど、量子科学技術の実用化にとって極めて重要な役割を担っている。

 光子を量子情報処理に活用するためには、たった一つの光子、すなわち単一光子を任意のタイミングで生成し、量子操作を行い、さらに検出するためのシステムが必要となる。ここで、最も重要となるのが単一光子源の開発である。単一光子源として現在開発が進められているシステムの多くは極低温でしか動作しないため、室温で量子情報を伝達できるという光子の特徴を活かすことが出来ない。量子科学技術研究開発機構(QST)では、「量子デバイスに囲まれる生活」を目指し、室温で動作し、電気的制御が可能でコンパクトに集積することの出来る単一光子源の開発に取り組んでいる。

 ダイヤモンドや窒化ガリウム(GaN)のような半導体の中に孤立した状態で入り込んだ不純物原子は、一度のイベントで必ず一つの光子を放出する、すなわち、単一光子源として振る舞うことが発見されている。中でもGaNに入り込んだネオジムやプラセオジムといった希土類元素は、放出する光の波長が室温でも良く揃っている、電子デバイス中で電気的に制御することもできる、といった優れた特徴をもっている。一方で、光子を放出する頻度(発光レート)が小さいことが、実用化に向けた大きな課題となっている。QSTでは、高度な微細加工技術や高精度イオンビーム照射技術を用いて、ナノメートルスケールの特殊形状を施したGaNに希土類イオンを精密に注入することにより、希土類の単一光子放出レートや光収集効率を従来よりも20倍以上高めることに成功している。

 今後、更なる発光レートの向上や電子デバイス化などに向けた研究を進めることで、量子コンピュータや量子暗号通信で用いられるオンチップ量子もつれデバイスや、次世代パワー半導体として期待されるGaN内部の診断を行う量子センサなど、単一の光子を操るデバイスの実用化に近づけていく。

単一の光子を操るデバイス

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
​量子技術基盤研究部門
高崎量子応用研究所
希土類量子デバイスプロジェクト
プロジェクトチーフ

佐藤 真一郎(さとう・しんいちろう)

第102回著者

イオンビームや電子線を用いた新規量子デバイスの開発に関する研究、特に単一光子源や量子センサの開発に従事。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年7月13日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(102)量子デバイスに囲まれる生活 室温で動作の単一光子源(2023/7/13 科学技術・大学)