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量子デバイスに囲まれる生活 第2回 イオン操り量子コンピューター

掲載日:2023年6月22日更新
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量子デバイスに囲まれる生活
第2回 イオン操り量子コンピューター

大規模化・高ノイズ耐性両立

 2019年10月に「世界最高のスーパーコンピュータでさえ1万年かかる計算をわずか3分で」という量子コンピュータのすごさと可能性を端的に表す結果がGoogleによって発表されたことは記憶に新しい。現在、世界各国で量子コンピュータの開発が精力的に進められている中、量子科学技術研究開発機構(QST)でも量子コンピュータの実現に向けた研究・開発を行っている。

 極微の世界の物理法則である量子力学を演算に使う量子コンピュータの実現には2つの課題がある。ひとつは大規模化である。超並列処理を可能にする量子ビットと呼ばれる演算の基本単位が少なくとも100万個必要となる。もうひとつは量子ビットの演算精度の向上である。量子ビットはノイズに弱く、エラーが発生しやすいため、ノイズに強い量子ビットを開発する必要がある。

 量子コンピュータを実現するためにQSTが取り組んでいるのは、自然が作った量子ビット「イオン」を用いるイオントラップ方式だ。この方式では、真空中にほぼ静止状態で直線状に並べたイオンを1個1個量子ビットとして利用する。イオンの一番低いエネルギー状態を0、次に低い状態を1として、このエネルギー差に相当するレーザー光を照射して量子ビットを制御、即ち演算を行う。QSTでは、数あるイオンの中でも133バリウムイオンに着目している。133バリウムイオン量子ビットは、(1)原子核が持つ量子力学的特性によりノイズに強く、演算精度が高い、さらに(2)制御・測定に用いる光が可視光のため、光ファイバー等の光技術と相性が非常によく、複数のイオントラップを光ファイバーで接続することによる大規模化が可能という特徴から、先に述べた課題を解決し、量子コンピュータの実現を加速できる可能性を持っている。

 QSTでは、イオンビーム開発やレーザー技術開発で培った知見や技術を基に133バリウムイオン量子ビットを用いた量子情報処理を実現するための研究開発を進めている。今後は、産官学の関係するコミュニティとも連携し、ハードウェアだけではなく、ソフトウェア開発、アプリケーション開発をオールジャパン体制ですすめ、イオントラップ型の量子コンピュータ実現を目指す。

イオントラップの模式図

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
​量子技術基盤研究部門
高崎量子応用研究所
レーザー冷却イオンプロジェクト
プロジェクトリーダー

鳴海 一雅(なるみ・かずまさ)

第99回著者

イオンビームと固体との相互作用、イオンビームを用いた材料改質・分析に関する研究に従事。現在、イオントラップを用いた量子コンピュータの実現を目指した基盤技術開発を主導。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年6月22日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(99)量子デバイスに囲まれる生活 イオン操り量子コンピューター(2023/6/22 科学技術・大学)