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物質の機能を可視化する 第1回 「ナノテラス」24年度運用

掲載日:2022年12月8日更新
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物質の機能を可視化する
第1回 「ナノテラス」24年度運用

「放射光」で観察 幅広く応用

 宮城県仙台市内、東北大学青葉山新キャンパス内に、直径170メートルの巨大な白いドーナツ状の建物が出現している。ナノテラス(NanoTerasu)と名づけられたこの研究施設は、物質を分子や原子のレベルで様々な手法を用いて観察するための「巨大な顕微鏡」であり、2024年度の運用開始を目指して、現在、建屋内の装置の設置作業が急ピッチで行われている。

 物質を細かく観察するためには光が必要である。極めて微小な分子や原子の並び具合やそれらの動きを詳細に見るためには、可視光よりもはるかに波長の短いX線を用いることが有効である。

 光速に近い速度で走る電子がその軌道を曲げられたときに「放射光」と呼ばれる非常に輝度の高いX線が発生する。ナノテラスには、その「放射光」を発生させる直線電子加速器と電子が周回する円形の蓄積リングが設置される。蓄積リングには28箇所の放射光取り出し口があり、そこに建設されるビームライン(第一段階として10本を整備中)において、それぞれの利用目的に沿った各種測定・観察が行われる。

 ナノテラスの運用開始後は、大学や公的研究機関、民間企業などから多数の利用者が来所し、学術基礎研究、産業利用を問わず幅広い分野の方々に使って頂くオープンイノベーションの場となる。その応用範囲は、新素材や触媒・電子デバイス、環境・エネルギー、創薬・医療など多岐に及び、学術における真理探究や、企業における製品開発のみならず、SDGsに代表される種々の社会問題の解決にも大きく貢献することが期待されている。

 ナノテラスは「官民地域パートナーシップ」の枠組みに基づき、国の主体機関として量子科学技術研究開発機構(量研)が、地域パートナーとして光科学イノベーションセンター、宮城県、仙台市、東北大学、東北経済連合会が参画し、あらかじめ定められた分担に沿って密接に協力しながら整備を進めている。

 ナノテラスという名称は公募により決定されたもので、埼玉県在住の甘利友朗氏の提案によるものである。ナノの世界を照らして観察する本研究施設の名称としてふさわしいものであり、ここから得られた成果が日本神話の天照大御神のように、広く世界に光と豊穣をもたらして欲しいという願いが込められている。

ナノテラス全景

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門
次世代放射光施設整備開発センター長

内海 渉(うつみ・わたる)
第74回著者

東京大学物性研究所、日本原子力研究所、日本原子力研究開発機構および量研にて、放射光、中性子、レーザーなど各種量子ビームの利用・運営に関わる。


本記事は、日刊工業新聞 2022年12月8日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(74)物質の機能を可視化する 「ナノテラス」24年度運用(2022/12/8 科学技術・大学)