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物質の機能を可視化する 第3回 高密度電子ビーム生成

掲載日:2022年12月22日更新
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物質の機能を可視化する
第3回 ​高密度電子ビーム生成

X線強度 長時間安定維持

 次世代放射光施設NanoTerasuの蓄積リングでは、光速(30万km/s)の99.9%以上で周回する高密度電子ビームに蛇行軌道を与えることで、太陽光の10億倍以上の明るさをもつ高強度X線を生成することができる。この高強度X線を利用した生命科学、物質科学等の実験で高精度のデータを得るには、X線強度を長時間にわたって安定に維持することが不可欠である。そのためには、X線の発生源となる蓄積リングに蓄えられる電子ビーム強度を一定に保たなければならない。これは蓄積リングを周回する電子数を精密に測定し、失われた分だけ線型加速器から新たに電子を生成・供給することで可能になる。

 全長が110mの線型加速器は、電子群を生成する電子銃、生成された電子群を集める集群システム、高密度電子ビームを高エネルギーまで加速する高周波加速装置で構成される。電子銃は、1000˚C以上に熱せられた陰極とその直後に配置したグリッドメッシュ電極の間に高電圧を与えることでパルス状の電子ビームを引き出す。このとき、一度に生成する約60億個の電子群は、ビームコリメータで高品質部分のみを抽出する。この操作は日本酒造りの精米方法である米粒の外側を削り取る「大吟醸」製法に似ている。この大吟醸に相当する選び抜かれた約20億個の高品質電子ビームは、集群システムで1 mm3の空間内に集められる。この集められた高密度電子ビームは「バンチ」呼ばれ、20台の高周波加速装置により、30億電子ボルト(3GeV)まで加速する。

 高周波加速装置では、高周波電力を加速管に入力し、その加速管内で1000万分の1秒(100ns)という短時間の間に加速電場を発生させ、ほぼ光速度で加速内を通過するバンチに加速エネルギーを与える。合計40台の加速管を一瞬で通過するバンチに高効率で、かつ安定に加速エネルギーを付与するには、3兆分の1秒(300 fs)といった高精度で加速タイミングを合わせる必要がある。これには大規模データ高速処理を可能とするデジタル制御システムを使用することで実現する。

 こうした先端技術を用いることで高品質ビーム生成が可能となる。将来、線型加速器で生成した高品質電子ビームに直接、蛇行軌道を与えることによって、NanoTerasuのさらに1億倍以上の高輝度X線を生成する「軟X線自由電子レーザー」への展開も計画している。

NanoTerasuの「3GeV線形加速器」

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門
次世代放射光施設整備開発センター
​高輝度放射光研究開発部
上席技術員

安積 隆夫(あさか・たかお)

第76回著者

次世代放射光施設NanoTerasu加速器の設計・開発研究に従事。2024年度からの利用運転に向けた加速器整備、運転準備を進めている。博士(理学)。


本記事は、日刊工業新聞 2022年12月22日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(76)物質の機能を可視化する 高密度電子ビーム生成(2022/12/22 科学技術・大学)