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物質の機能を可視化する 第4回 ビームラインで分光駆使

掲載日:2023年1月12日更新
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物質の機能を可視化する
第4回 ビームラインで分光駆使​

超伝導体など性質解明へ

 蓄積リングと呼ばれる円形加速器をほぼ光速で周回する電子から、シンクロトロン放射と呼ばれる現象を利用して高輝度な光を発生させ、各種実験に利用する一連の装置を放射光ビームラインと呼ぶ。NanoTerasuには、最大28本のそれぞれ特色ある放射光ビームラインが設置可能である。ここに世界中の科学者や技術者が入れ替わり立ち替わり研究試料を持ち込んで、最先端の学術研究から製品開発に直結する応用研究まで、多彩な研究を展開する。

 ビームラインの起点は、蓄積リング内に設置されるアンジュレーターやウィグラーと呼ばれる挿入光源である。挿入光源で発生した強力な放射光は、水冷スリットなどを経て、厚さ約1mにもなる鉄筋コンクリート製の遮蔽壁で隔てられた実験ホールへと導かれる。実験ホールには、何枚もの反射鏡や分光器などから構成されるビームライン光学系が、長さ数十mにわたって並べられている。研究試料は、その先のエンドステーション装置で測定に供される。光源からエンドステーションまで、放射光が空気によって減衰しないように、ビームラインの経路は真空導管等でつながる。強力な放射光やその散乱光が実験者に当たるようなことが万が一にも起こらないように、インターロックと呼ばれる安全装置もビームラインには備えられる。また、ビームラインの一部は、鉛と鉄でできた遮蔽ハッチで囲われ、放射線が周囲に散乱することを防ぐ。光源や光学系に加え、これら安全装置を含めた全体が放射光ビームラインである。

 NanoTerasuでは、幅広い波長領域の放射光が利用できるが、最も輝度が高いのは、X線の中でも比較的波長の長い(0.5から5ナノメートル程度)軟X線と呼ばれる領域である。軟X線は、分光という手法により、物質の性質を直接反映する電子状態を調べるのに適している。2024年度から運用が開始される10本のビームラインのうち、課題公募・成果公開の原則に基づいて運用される共用ビームラインとしては、軟X線ナノ吸収分光ビームライン、軟X線ナノ光電子分光ビームライン、軟X線超高分解能共鳴非弾性散乱ビームラインが量研により整備される。これら3本の軟X線ビームラインにおいて、分光手法を駆使し、超伝導体や磁性体など科学的にも産業的にも重要な物質の性質の解明が進められるようになる日はもうすぐである。

ビームライン概要図

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門
次世代放射光施設整備開発センター
​高輝度放射光研究開発部
次長

高橋 正光(たかはし・まさみつ)

第77回著者

青森県に生まれ、秋田県で育つ。大学進学のため上京し、学位取得後、兵庫県(SPring-8)で放射光研究に従事。現在、東北に戻り、ナノテラスの放射光ビームライン整備に携わる。


本記事は、日刊工業新聞 2023年1月12日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(77)物質の機能を可視化する ビームラインで分光駆使(2023/1/12 科学技術・大学)