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物質の機能を可視化する 第5回 超高分解能RIXS開発

掲載日:2023年1月19日更新
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物質の機能を可視化する
第5回 超高分解能RIXS開発

物質中スピン波 特性解明

 ナノテラスで開発中の共用ビームラインに共鳴非弾性X線散乱(Resonant Inelastic X-ray Scattering: RIXS)のビームラインがある。RIXSとは、物質に吸収が起こるエネルギーを持ったX線を照射すると(この条件を共鳴という)、X線と物質が強く相互作用し(この結果、物質中の様々な状態が励起される)、エネルギーを失って(これを非弾性という)、X線が散乱される現象を利用した分光手法である。RIXSでは、入射X線と散乱X線のエネルギー差を測定することによって、電子状態、電子の軌道・スピンや結晶の格子のエネルギー準位、さらには原子や分子の振動のエネルギー準位などを調べることができる。X線を入射し、X線を検出するので、磁場や電場の影響を受けることなく測定可能であり、測定対象・環境に対する柔軟性も高いことから、電子デバイスや電池などが動作している状態での測定にも有効である。ただし、検出できるエネルギー準位は装置のエネルギー分解能に依存する。現在の世界最先端の装置の分解能は20~30 meVであるが、ナノテラスのRIXS装置では、これらを上回る分解能に加え、特別な光学系によって従来比で10倍以上の効率向上を目指している。

 この超高分解能により、例えば、これまで観測できなった微小なエネルギーのスピン波も計測可能となる。スピン波とは、固体中の電子のスピンが首をふりながら回転して波のように伝播する運動のことで、この波の性質を情報の伝達や演算に利用する次世代デバイスの開発が活発に行われている。超高分解能RIXSでは、スピン波の微小なエネルギーを分解して調べ、さらに運動量も特定できることから、物質中のスピン波が伝播する速さ・方向の特性を明らかにできる。このような情報を、特にデバイスの動作中に取得できる手法は非常に限られている。そのため、新物質の探索やより高効率・高速に動作するデバイス開発にRIXSの適用が期待されている。

 RIXSは様々な励起を観測できるので、デバイス開発に限らず、広範な分野において基礎から応用研究まで、ニーズに応じて機能解明に役立つ手法である。量子科学技術研究開発機構では、世界をリードする性能を発揮するべくRIXSビームラインの開発に取り組んでいる。

RIXSでスピン波のエネルギー・運動量を計測するイメージ

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門
次世代放射光施設整備開発センター
​高輝度放射光研究開発部
​主任研究員

宮脇 淳(みやわき・じゅん)

第78回著者

放射光を用いた分光手法の開発、応用に従事。ナノテラスのRIXS装置の開発を担当しており、世界最高峰の性能実現に向けて奮闘している。理学(博士)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年1月19日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(78)物質の機能を可視化する 超高分解能RIXS開発(2023/1/19 科学技術・大学)