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物質の機能を可視化する 第8回 ナノテラス 開かれた施設に

掲載日:2023年2月9日更新
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物質の機能を可視化する
第8回 ナノテラス 開かれた施設に

実験ホール 非管理区域化

 レントゲンが放射線(X線)を初めて発見したのは、19世紀後半1895年のことである。手指の骨と指輪がくっきりと映った X 線発見を象徴する透視画像は、骨折や病気の画期的な診断法を生み出し、放射線が現在に至っても基礎科学研究から医療、産業に広く利用されるきっかけとなった。また、122年に渡るノーベル賞の歴史で60件近くが放射線に関わる業績であり、最近では、放射光によるリボゾームの構造解析と機能研究(アダ・ヨナス等、2009年化学賞)が記憶に新しい。一方で、放射線は細胞の遺伝子を傷つけ、大量に浴びると健康に影響を及ぼす恐れもあるため、安全に制御・管理して利用する必要がある。

 ナノテラスでは、シンクロトロン放射によって、X線を発生させる。シンクロトロン放射とは、光速に近い速さの電子が磁場によって曲げられた際に光を放射する現象で、その放射された光(X線)を放射光と呼ぶ。ナノテラスでは非常に明るい放射光を発生させるが、そのエネルギーはレントゲン検査等で用いるX線と同等かそれ以下である。放射光が物質を透過する力はエネルギーに依存するため、ナノテラスの場合、比較的薄い鉛等でも遮へいが可能で、利用者が安全に実験できる環境を作りやすい。一方で、電子を加速・蓄積する加速器は、施設外への放射線の漏洩を防ぐために、厚いコンクリート遮へいの中に格納されている。さらに、施設周辺の複数個所に線量計を配置して、運転時に施設外への放射線漏えいの有無を常時モニタリングする予定である。

 ナノテラスでは、“利用者が放射線業務従事者でなくても可能な限り放射光実験に参加できること” を基本方針として、遮へい設計・インタロック等の放射線安全対策を量子科学技術研究開発機構内外の学識経験者及び専門家からの意見を取り入れつつ、慎重に検討し、国内では初めて実験ホールを放射線管理区域から除く放射光施設とした。この実験ホールの非管理区域化については、2022年3月に原子力規制委員会へ許認可申請を行い、同年10月に使用許可証の交付を受けた。 

 この非管理区域化は、従来煩雑だった施設の入構手続きを大幅に簡素化し、より利便性が高い実験環境を利用者に提供する。ナノテラスが多くの国内外の研究者が集う、開かれた放射光施設となることを期待している。

ナノテラスと従来の放射光施設との管理区域設定エリア(塗部)の比較

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門
次世代放射光施設整備開発センター
​高輝度放射光研究開発部​
基盤技術グループリーダー

萩原 雅之(はぎわら・まさゆき)

第81回著者

J-PARCニュートリノ実験施設、次世代放射光施設NanoTerasu等の大型加速器施設の放射線安全設計に従事。博士(工学)、第一種放射線取扱主任者。


本記事は、日刊工業新聞 2023年2月9日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(81)物質の機能を可視化する ナノテラス、開かれた施設に(2023/2/9 科学技術・大学)