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光による量子制御 第1回 量子技術支えるレーザー

掲載日:2023年4月20日更新
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光による量子制御
第1回 量子技術支えるレーザー

光を創り、もの観て操る

 光(レーザー)技術は、量子技術をさまざまな面で支えている。光は「粒子」と「波」の二重性を持つが、レーザーを利用する多くの場合、「波」の性質が用いられる。量子力学の世界では、物質中の状態は波として記述されるが、レーザーはそれらを人が直感しやすい古典力学の世界と繋いでくれる。

 例えば、レーザー分光は、物質内の原子レベルの波である量子状態を電磁波である光で読み出すことに相当する。物質中の量子状態の観測や制御・操作をする上でレーザーの果たす役割は大きい。本連載(全7回)は、レーザーを用いた量子技術の実用化に向けた研究、主にレーザーの「波」の形を制御することによってできる10兆分の1秒より短い「極短パルス」レーザーの利用について紹介する。

 瞬時にエネルギーが集中する極短パルスレーザーは、非線形効果と呼ばれる高強度の光に特有な現象を起こす。様々な媒質に極短パルスレーザーを照射すると元の波長(色)とは異なる波長が発生し、それらをうまくそろえるとパルスをさらに短くできる。非線形効果をうまく使うことで、電波と光の境界であるテラヘルツ波(波長300マイクロメートル程度)から赤外、可視、紫外(波長100ナノメートル程度)と幅広い波長領域において、パルス長の限界である1周期程度の波しかないパルス光が実現でき、その1周期内で駆動される電子の挙動の観測も可能になっている。

 さらに、放射光施設が得意とする軟X線(数ナノメートル)領域も、実験室規模のレーザーによる光源が実現しつつある。レーザーの強みは、パルス幅が短く、他の波長のレーザーと高精度に時間同期が取れる点にある。物質内に存在する電子の速い動きを観測し、制御・操作することを志向したレーザー軟X線光源は、高精度な構造・電子状態解析を志向した高輝度な次世代放射光施設(ナノテラス)と相補的となる。

 量子科学技術研究開発機構・関西光量子科学研究所は、最先端の極短パルスレーザー光源とそれを用いた計測技術に加え、物質内の電子の挙動をシミュレーションする技術を有している。それらを基盤として、量子機能性材料の評価や開発、レーザー加工、量子生命科学の学理探求、医療応用を進め、外部機関の研究者に開かれた研究拠点となることを目指している。

量子技術を支えるレーザーと計測・理論

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子技術基盤研究部門
関西光量子科学研究所
量子応用光学研究部
超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト
プロジェクトリーダー

板倉 隆二(いたくら・りゅうじ)

第91回著者

極短レーザーパルスを用いて、さまざまな物質内の量子レベルの電子の動きを観測し、制御する研究に従事。博士(理学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年4月20日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(91)光による量子制御 量子技術支えるレーザー(2023/4/20 科学技術・大学)