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光による量子制御 第2回 極短パルス軟X線光源開発

掲載日:2023年4月27日更新
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光による量子制御
第2回 極短パルス軟X線光源開発

化学反応・量子状態解明に活用

 軟X線領域の光を用いると、さまざまな化学反応、例えば、触媒反応や光合成過程に関与する軽元素(炭素、窒素、酸素など)や遷移金属元素(チタン、マンガンクロム、鉄など)近傍の構造や電子状態などを敏感に反映する計測が可能になる。一方で軟X線光源は大型の放射光施設(仙台で建設が進む「ナノテラス」など)以外での利用が進んでいなかった。

 近年進んだ技術革新により、レーザーを用いた軟X線発生が可能になり、実験室規模で運用可能な軟X線光源として世界で研究開発が進められている。レーザーベースの軟X線は、アト秒(100京分の1秒)からフェムト秒(1,000兆分の1秒)といった極めて短い時間だけ光る極短パルス光源である特徴がある。

 これまで、フェムト秒光パルスにより分子のダイナミクス計測(1999年ノーベル化学賞、アハメッド・ズウェイル)が盛んにおこなわれているが、時間分解能がアト秒になることによって価電子や内殻電子の量子状態の計測とそのダイナミクスを追跡することが可能となる。

 物質の量子状態(電子状態)の光励起とその緩和過程の解明は、光化学反応における量子制御への第一歩であり、未解明である水の光化学反応の解明や光触媒反応、人工光合成における効率化への指針となる。

 研究所の特色である高出力極短レーザー技術により、日本の総電力消費量の約1000分の1に相当する100億ワットの電力を光電場が数サイクル振動する間(50兆分の1秒程度)に集中させることができる。これを直径100マイクロメートル(マイクロは100万分の1)程度の領域で気体に集めることにより、光の波長を短くすることが可能になり、紫外線や軟X線領域におけるコヒーレント光を得ることが可能になる。

 スペクトル帯域が広く時間分解能が非常に高いレーザーによる軟X線光源は、大型放射光施設の軟X線光源と相補的な性質を示し、また、一般的な実験室の中に納まるコンパクトな装置として有望視されている。これらの特色を活かして、極短パルス軟X線光源利用の裾野を拡げることで量子技術の実用化に向けた応用研究への貢献を目指す。

水の光励起ダイナミクス(提唱例)と計測方法の概念

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子技術基盤研究部門
関西光量子科学研究所
量子応用光学研究部
超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト
上席研究員

石井 順久(いしい・のぶひさ)

第92回著者

超高速高強度レーザー開発とその分光応用が専門。現在は量子生命関連の分光計測装置における光源開発やレーザーによる軟X線発生と水の光化学反応の極初期過程に興味がある。博士(理学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年4月27日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(92)光による量子制御 極短パルス軟X線光源開発(2023/4/27 科学技術・大学)