現在地
Home > 分類でさがす > お知らせ・ご案内 > その他 > 量子技術基盤 > > 光による量子制御 第3回 究極の光スイッチ実現

光による量子制御 第3回 究極の光スイッチ実現

掲載日:2023年5月11日更新
印刷用ページを表示

光による量子制御
第3回 究極の光スイッチ実現

光・スピン融合 処理速度1000倍超

 情報通信技術の重要な性能指標として処理速度がある。処理速度とは情報の伝達速度であるため、最も速い粒子である光を利用した情報処理が理想である。しかし、現在「光」の役割は長距離伝送であり、情報処理は「電子」により行われている。光伝送をチップ内やチップ間まで短距離にした「光電融合技術」を実現することで大幅な性能向上が期待されている。もう一つ重要な性能指標として電力効率がある。情報を一時保存する記録(メモリ)は電子の電荷を用いており、電源を切ると情報が損失する揮発性である。揮発性メモリでは電力消費が大きく電力効率向上に大きな課題となる。解決策として研究されているのが電子の持つ磁気である「スピン」を利用した技術、スピントロニクスである。このスピンを利用したメモリでは待機電力「ゼロ」、動作電力も通常の1/100程度と大きなブレークスルーが見込まれる。

 以上のような処理速度と電力効率の革新的な向上に寄与する次世代技術として光によるスピン制御技術「スピンフォトニクス」の研究が推進されている。スピンフォトニクスでは光の回転情報をスピンの向きに転写することで情報の書き込みを行うスピンメモリに利用するための材料開発が進められている。

 次の目標は光とスピンの融合=究極のスイッチの実現である。この究極の光スイッチが光の電場振動をCPUのクロック周波数として利用するペタヘルツ(1秒に1,000兆回の振動)技術である。現在の技術の1,000倍以上の処理速度向上となる。ペタヘルツ技術は観測ができるようになった段階であり、動作原理から研究していく必要がある。更に新たな技術として電子の持つ「擬似スピン」の操作を行うバレートロニクスは、スピントロニクスを超える高速かつ低エネルギーな次世代技術として期待されている。

 光、電子、スピンの運動を同時に高精度計算できる世界唯一の第一原理計算プログラム「SALMON」をQST、筑波大などと開発し、ペタヘルツスイッチの動作原理の発見や材料の新たな光操作方法の提案を行なっており、「スピンフォトニクス」および「バレートロニクス」の理論研究分野における強力な武器となっている。SALMONによる理論研究と先端材料を用いた光(レーザー)技術を融合させることで究極の情報通信技術実現を目指す。

レーザーを利用したスピン流生成デバイスのイメージ

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子技術基盤研究部門
関西光量子科学研究所
量子応用光学研究部
超高速電子ダイナミクス研究プロジェクト
上席研究員

乙部 智仁(おとべ・ともひと)

第93回著者

博士(理学)。光と物質の超高速非線形相互作用の量子力学に基づく数値計算と解析、その総合的シミュレーションプログラムSALMON(https://salmon-tddft.jp)の開発・研究に従事。


本記事は、日刊工業新聞 2023年5月11日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(93)光による量子制御 究極の光スイッチ実現(2023/5/11 科学技術・大学)