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光による量子制御 第5回 究極のリソグラフィー技術

掲載日:2023年5月25日更新
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光による量子制御
第5回 究極のリソグラフィー技術​

ナノサイズの電子回路作製

 スマートフォンやパソコンに搭載されるCPUやメモリなどの半導体の性能は、素子の微細化によって集積度が3年ごとに2倍増えるというムーアの法則に従って、30年以上にわたって向上し続けてきた。

 一般的なリソグラフィ露光機では、原図であるマスク上の電子回路パターンを写真の原理を使ってシリコンウェハ上に縮小して焼き付ける。光は波の性質を持つので、焼き付けパターンの幅は波長程度となる。最近実用化された露光機では、極端紫外(EUV)光と呼ばれる、極めて短い波長(13.5ナノメートル)の光を使い、原子数十個程度(数ナノメートル)のサイズの究極の電子回路が作られるようになった。

 EUVリソグラフィ技術は、量子科学技術研究機構(量研)も含む、大学、研究機関、企業での10年以上をかけた研究開発を経て実用化されている。

 それまでの紫外線の場合と全く異なる、レーザー光で金属ターゲットを照射して生じるプラズマを用いた光源が開発された。物質を透過しないEUV光を扱うために、レンズに代わって凹面鏡を使って集光する光学系が使われるようになった。感光材料であるフォトレジストは、EUVでは光の粒(量子)としての効果が大きくなるため、粒子が細かく一様でかつ吸収率が大きい金属含有レジストが使われるようになってきた。

 EUVリソグラフィでは、マスク基盤やウエハの露光・現像後、およびエッチング後のパターンのナノメートル程度の誤差が、素子の品質に直結するようになり、マスク基盤品質やパターン品質を確認するために、走査電子顕微鏡や暗視野顕微鏡などに新技術が導入され、実用化されている。現在の最先端の半導体技術は、ナノメートルレベルの「量子の世界」における最先端計測技術を基盤として成り立っている。将来が期待されている量子コンピュータの分野でも、これらの最先端技術の可能性に注目したシリコン量子ビットなどの新技術の研究が進められている。

 量研では、このような量子技術の今後の微細化における重要性に注目し、加速器技術による大出力、短波長のビヨンドEUV光源を用いた、高コヒーレンス光による干渉露光技術や、超短パルス光によるフォトレジストの精細なパターンの形成等の実験、理論・シミュレーション研究を進めている。

極端紫外(EUV)リソグラフィ露光機の模式図

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子技術基盤研究部門
関西光量子科学研究所
量子応用光学研究部
X線超微細加工技術研究プロジェクト
専門業務員

佐々木 明(ささき・あきら)

第94回著者

計算機シミュレーションを用い、X線レーザーや極端紫外リソグラフィ光源を対象として、高温のプラズマ中の原子から発生する光やX線とその応用の理論研究を行っている。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年5月25日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(95)光による量子制御 究極のリソグラフィー技術(2023/5/25 科学技術・大学)