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光による量子制御 第6回 量子を支える光技術

掲載日:2023年6月1日更新
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光による量子制御
第6回 量子を支える光技術

応用範囲広いマイクロ波

 「超スマート社会」では、現実空間と仮想空間を高度に融合することで社会の様々なニーズに的確に対応し、全ての人がキメ細かいサービスを受けられる。実現には量子コンピュータや量子センサといった量子技術が不可欠である。ここで重要となるのがマイクロ波と呼ばれる高い周波数の電波である。米国のIBMやグーグル、日本の理化学研究所で開発が進む量子コンピュータでは、超伝導状態の電子の制御や読出しにマイクロ波は不可欠だ。高感度な磁場や温度計測を実現するダイヤモンド中の窒素―空孔(NV)センターによる量子センシングでも、電子スピン操作や読出しにマイクロ波が使われる。

 量子技術の実用化には、超伝導電子や電子スピンの正確な操作、確実な読み取りが必須であり、それには高品質なマイクロ波が不可欠である。しかし、量子コンピュータの超伝導状態はマイナス250℃といった低温である。室内で発生させたマイクロ波を金属配線で低温の超伝導部へ導入すると、熱遮蔽、接続部での減衰やノイズ除去といった面倒な問題が出てくる。地底探査や海底探査などに量子センシングを用いる場合も、地上からマイクロ波を測定場所まで送る間にマイクロ波が減衰してしまう。

 そこで登場するのが光である。レーザーはエネルギーの揃ったフォトンの集まりであり、半導体にあてるとフォトンのエネルギーを吸収して電子(電流)が発生する。レーザー強度を特定の周波数で変調させた場合、半導体中に発生する電流もレーザーに合わせて規則正しく増減し、その結果、レーザーの強度変調と同じ周波数のマイクロ波を発生できる。こうして発生したマイクロ波が量子センサの読み出しなどに利用できるならば、直接利用するには問題がある状況でも、レーザーにすることで解決できると考えられる。すなわちレーザーを用いた場合、超伝導状態の低温領域へ直接光を入射させて導入することや、光ファイバを用いることで長距離や回路内の伝送も可能となり、より広範囲に応用が広がる。

 実際には、半導体やレーザーの選択、電流を引き出す電極の設計・作製、十分な強度のマイクロ波を発生する技術など多くの開発要素がある。QSTでは量子技術の成功を握るともいえるレーザーを活用した高品質なマイクロ波発生技術の開発を進めている。

光誘起マイクロ波発生の概念図

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子技術基盤研究部門
高崎量子応用研究所
量子機能創製研究センター
センター長

大島 武(おおしま・たけし)

第95回著者

宇宙用の太陽電池や電子デバイスの放射線劣化・誤動作や、放射線を活用した材料の機能化、例えば、粒子線によるダイヤモンドや炭化ケイ素(SiC)中に量子ビットや量子センサ形成に関する研究に従事。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年6月1日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(96)光による量子制御 量子を支える光技術(2023/6/1 科学技術・大学)