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量子ビーム科学部門

超省エネスマホ 第7回陽電子で電子スピン分析

掲載日:2022年6月13日更新
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量子科学技術でつくる未来 超省エネスマホ
第7回 陽電子で電子スピン分析

物質中の特定部位だけ観察

 物質に対して反物質があると言うと、何やらSFの世界と思われるかも知れない。しかし、これは現実のことである。陽電子は電子の反物質で、質量以外、性質は全て電子と反対だ。つまり、電子と反対のプラス電荷を持ちスピンは逆向きに回転している。

 この陽電子を使うと、光や中性子とは全く異なる方法で物質中の電子のスピンを捉えることができ、次世代の量子スピントロニクス物質の研究開発において画期的な分析手法となる。量子科学技術研究開発機構(QST)では、陽電子を用いた電子スピン分析技術を世界に先駆けて開発している。

 陽電子の最大の特徴は、電子スピンの観察を、物質中の特定部位だけ選択的に行えることにある。その最たる例を三つ紹介する。一つ目は、物質表面の原子一層である。エネルギーの低い陽電子で、物質表面の原子一層にある電子スピンを捉えることができ、スピントロニクスデバイスで重要な現象である物質最外層のスピン流や、新しいスピン伝導物質として期待されるグラフェンなどに適用できる。

 二つ目は、物質の内部である。エネルギーの高い陽電子で、物質奥深くや二つの物質が接合した界面にある電子スピンを捉えることができる。これは、特異な振る舞いを示す電子スピンを持つトポロジカル物質や、デバイス応用においてカギとなる界面に凝縮された電子スピンの観測に有用である。

 三つ目は、物質中の原子が抜けた孔(原子空孔と呼ばれる場所)である。多くの物質には原子空孔があり、ここに電子スピンが溜まることで磁化することがある。陽電子も原子空孔に溜まる性質があるため、そこにある電子スピンを直接検出できるのである。

 このように、陽電子を使うことで、今まで見えなかった電子スピンの新たな側面が解明できると期待される。QSTでは、さまざまなスピントロニクス物質中にある電子スピンを直接捉えることに成功してきた。ただ、これまでは電子スピンの動きやすさに関係するエネルギーに関する情報は得られなかった。写真は、現在開発している最新鋭の装置であり、表面一層にある電子スピンのエネルギー計測を可能にするものである。(木曜日に掲載)

物質最表面電子スピンエネルギー分析装置

執筆者略歴

第28回著者

量子科学技術研究開発機構(QST)
量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所
先端機能材料研究部 プロジェクトリーダー

河裾 厚男(かわすそ・あつお)

陽電子を用いた新しい分析技術の開発と応用に加えて、陽電子と物質の相互作用に関する基礎研究に従事。

本記事は、日刊工業新聞 2021年12月16日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(28)超省エネスマホ 陽電子で電子スピン分析(2021/12/16 科学技術・大学)