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関西光科学研究所 | トピックス:SPring-8量研機構専用ビームラインでの研究が日本物理学会英文論文誌の「注目論文」に選ばれました。

掲載日:2017年2月20日更新
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トピックス

SPring-8量研機構専用ビームラインでの研究が日本物理学会英文論文誌の「注目論文」に選ばれました。

 

メスバウアー回折で結晶サイト選択的メスバウアースペクトルの測定に成功

量子科学技術研究開発機構、帝京大学、岡山大学、京都大学、京都産業大学から成る研究グループの共同研究成果が、日本物理学会発行の英文誌「Journal of the Physical Society of Japan」の2017年2月号に掲載され、注目論文に選ばれました。

研究グループは、大型放射光施設SPring-8の量子科学技術研究開発機構専用ビームラインBL11XUに設置している放射光メスバウアー分光装置(図1)を利用したメスバウアー回折計を開発し、典型的なFe 複サイト化合物として高温相マグネタイト(Fe3O4)を取り上げ、初めて結晶サイト選択的メスバウアースペクトルの測定に成功しました。この成功は核モノクロメーターで単色化された放射光が、エネルギー幅15.4neV、ビームサイズ1.6mm(水平)×0.4mm(垂直)、発散角3秒、密封線源の10万倍の輝度という優れた特性を持つことによってもたらされたものです。

図2にマグネタイト(Fe3O4)の結晶構造を示します。同じ鉄原子でも周囲にある酸素原子の配置によって化学結合状態の異なる二種類の鉄原子があります(図では赤い鉄原子をAサイト、青い鉄原子をBサイトとしています)。従来は各々のサイトにある鉄に起因するスペクトルが重なり合って、精密な解析が困難でした。本研究では、ブラッグ角46.48度の10 10 0反射による核共鳴散乱ガンマ線を検出することでAサイトの、ブラッグ角32.26度の666反射による核共鳴散乱ガンマ線を検出することでBサイトの鉄原子に固有のスペクトルを得ることに成功しました。それによって、鉄の電子状態、局所構造、磁気構造、緩和状態をサイト毎に区別して議論できるようになりました。

放射光を用いたメスバウアー回折は、今後、多くの複サイトFe 化合物に適用されて、その磁性・電子状態の研究により新規材料開発にも繋がります。さらに、マルチフェロイクスやスピントロニクスといった鉄系機能性薄膜材料への適用も計画されており、今後の研究の展開が期待されます。

なお、本件は2月17日付けの科学新聞にも掲載されました。「放射光メスバウアー回折計開発 ―結晶サイト選択的スペクトル測定―」

量研機構専用ビームラインBL11XUの放射光メスバウアー分光装置
図1 量研機構専用ビームラインBL11XUの放射光メスバウアー分光装置

マグネタイトのメスバウアー回折の概念図
図2 マグネタイトのメスバウアー回折の概念図
A、B、OはそれぞれAサイト鉄、Bサイト鉄、酸素の各原子を表す。

原論文(1月30日公開済)

  • Crystal-Site-Selective Spectrum of Fe3O4 Obtained by Mössbauer Diffraction
  • Shin Nakamura, Takaya Mitsui, Kosuke Fujiwara, Naoshi Ikeda, Masayuki Kurokuzu, and Susumu Shimomura
  • J. Phys. Scc. Jpn. 86 (2017) 023706

問合せ先:
中村 真一(帝京大学理工学部)
三井 隆也(量研機構放射光科学研究センター)