関西光科学研究所 >> プレス発表 >> 世界初 レーザー駆動陽子線照射によるヒトがん細胞のDNA2本鎖切断を実証 ―超小型粒子線がん治療装置の臨床実証へ大きく前進―
プレス発表
平成21年4月23日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
国立大学法人大阪大学
兵庫県立粒子線医療センター
財団法人電力中央研究所
日本アドバンストテクノロジー株式会社
株式会社新日本科学
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎 俊雄)と、国立大学法人大阪大学(総長 鷲田 清一)、兵庫県立粒子線医療センター(病院長 菱川 良夫)、財団法人電力中央研究所()、日本アドバンストテクノロジー株式会社(代表取締役社長 河口 雅弘)、株式会社新日本科学(代表取締役社長 永田 良一)の共同研究グループは、レーザー駆動陽子線1)を生きた生物細胞に照射する装置を世界で初めて開発し、ヒトの肺腺がん細胞に照射することで、DNA2本鎖切断2)を発生させることに成功し、その装置の有効性を実証しました。
従来より、粒子線がん治療装置3)には、高周波型の加速器が利用されていますが、近年になり、高強度のレーザーを利用して加速した粒子線(レーザー駆動粒子線)を用いることで、装置の小型化を図る研究が世界各国で進められています。レーザー駆動の原理では、従来の加速器に比べて、より高電流で短い時間幅の、パルス状に粒子を加速できます。しかし、このようなレーザー駆動粒子線を、がん細胞に照射するといった生物的効果に関する研究は、レーザー駆動粒子線を安定して連続的に発生させる技術や、粒子線の種類とエネルギーを選別する手法などが困難であったため、これまで行われていませんでした。
本研究では、これまで技術的に困難であった、粒子線を安定供給するためのターゲットや粒子線を選別する技術、生きた状態の細胞に真空中で粒子線を照射する手法などの開発に成功し、レーザー駆動粒子線が体内のがん細胞と衝突する状態を再現することができる実験装置を開発しました。この装置を用いると、レーザー駆動の原理によって、従来よりもピーク電流値が7桁高く、パルス時間幅が7桁短い陽子線を安定的に連続発生させ、エネルギーを選別した後、これを生きた細胞に照射することができます。今回は、培養状態(in vitro)のヒト由来肺腺がん細胞株(A549)に対してレーザー駆動陽子線を照射することで、放射線損傷の一種である、DNAの2本鎖切断が発生することを実証しました。これは、レーザー駆動陽子線が、従来の加速器による陽子線と同様に、がん治療効果を有することを示唆する結果です。今後は、この装置を使って生物的効果に関する基礎データを網羅的に収集することで、レーザー駆動陽子線ならではの治療効果や適応疾患の確立をめざします。
本研究は、文部科学省科学技術振興調整費先端融合領域イノベーション創出拠点の形成「光医療産業バレー拠点創出」の一環として実施され、併せて文部科学省特別教育研究経費・連携融合研究「ペタワットレーザー駆動単色量子ビームの科学」の助成を受けました。
なお、本成果は、米国物理学会出版の論文誌Applied Physics Letters(issue18, vol. 94)に掲載され、同誌の表紙に採用される予定です。
詳細は下記をご参照ください。(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構のサイトへリンク)
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