関西光科学研究所 >> プレス発表 >> 水の新たな姿を明らかに ―水の不思議な性質の解明にまた一歩前進―
プレス発表
平成22年3月29日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎 俊雄)の量子ビーム応用研究部門の池田研究副主幹と片山研究主幹らは、高温下での水の構造の解明に成功し、通常の水とは異なる新たな姿を明らかにしました。これは大型計算機を用いた第一原理分子動力学計算1)と「大型放射光施設SPring-82)」を用いた放射光X線回折実験による研究成果です。
水は我々に最も身近な液体ですが、実は、他の液体とは違った性質を示す特殊な液体です。たとえば、普通の液体は温度の上昇とともに膨張しますが、水は0度から約4度までは収縮します。また、同じような重さの他の分子からなる液体と比べ、非常に高い温度まで沸騰しません。これは、水は隣り合う水分子の間に水素結合3)を形成するため、液体中の分子配列に固体状態である氷に類似した秩序が残るからだと考えられています。しかし、このような特殊な配列がさらに高温でどう変化するかは、その解明に密度を一定にしておくための高い圧力が必要であるため、よくわかっていませんでした。
今回、本研究チームは、通常の水と同じ密度でも、高温高圧下では分子が極めて高速に回転するため、水素結合が安定に形成されず、分子の配列が普通の液体のようになることを、理論的な計算によって明らかにしました。さらに、大型放射光施設SPring-8で、1万気圧近い圧力を加えて密度を通常の水と同じに保ったまま400度以上の高温条件を実現してX線回折実験を行うことに成功し、このような配列を実験で確かめることができました。本成果は、高温高圧の地球内部で物質の分解・合成に重要な働きをしていると考えられている水の役割の解明に役立つと期待されます。
本研究は、科学研究費補助金 新学術領域研究「高温高圧中性子実験で拓く地球の物質科学」によるものです。
本研究成果は、2010年3月26日(現地時間)に米科学誌「Journal of Chemical Physics」の電子版に掲載されました。
詳細は下記をご参照ください。(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構のサイトへリンク)
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