発表のポイント
- 日本発の重粒子線がん治療が海外にも広がり、外国人医師の関心も一層高まっている
- 今までの外国人医師の来訪は短期が多く研修内容にも制約があったが、今回、千葉市の国家戦略特区の枠組により研修の可能性がひろがった
- 本特例を全国で初めて活用した第一号研修者が、2018年5月にインドから来日予定
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長平野俊夫 以下「量研」)と千葉市(市長熊谷俊人)は、連携して量研放射線医学総合研究所(放医研)病院において、国家戦略特区の特例を活用して初めてとなる重粒子線治療に係る外国人医師の研修を開始します。
量研放医研は、1994年に世界初の重粒子線治療装置を建設し、現在も世界最多の治療患者数を誇る重粒子線治療の世界的中核機関です。一方、国家戦略特区に指定されている千葉市は、昨年5月に診療用粒子線照射装置海外輸出促進事業(粒子線治療の研修に係る出入国管理及び難民認定法施行規則の特例)の認定を受け、量研を事業の実施に携わる機関に指定しました。量研放医研病院は、これにより粒子線治療に係る外国人医師等の研修期間を従来の1年から2年まで延長することができるようになりました。今回、本特例を全国で初めて活用した第一号の研修医師がインドから来日し、本年5月15日より研修を開始することが決まりました。
研修医師は、インド・コルカタ市に設立されたインド最新鋭病院の一つTata Medical Center(以下、タタMCという。センター長Mammen Chandy博士)に勤務する37歳の放射線腫瘍医です。2016年に馳文部科学大臣(当時)がインド政府に重粒子線治療を紹介した際に、インド政府は、このインド未導入の先進治療の調査を担当する医療機関にタタMCを指名しました。以降、タタMCは量研放医研との交流を進め、2017年に安倍首相が訪印した際にタタMCと量研は協力に関する取り決めを締結しました。現在、タタMCは、インド国内への重粒子線治療導入計画を作成しており、今回の研修も、将来の導入に向けた準備の一環です。
本年に入り日本で開発された重粒子治療装置が、海外へ相次いで輸出されることが発表され、外国人医師の関心も一層高まっています。全ての日本製の重粒子線治療装置は、重粒子線治療研究の中核機関としての量研放医研の研究開発成果によるもので、量研放医研病院は、メーカーを問わずこのような研修に最適な病院といえます。今後も多くの国の医師が研修目的で来訪することが期待されています。また、本研修を通じて重粒子線治療の知識や技術を身に付けた外国人医師が増加することは、この治療の普及と関連装置の輸出の促進につながることも期待されています。
補足説明資料
国家戦略特別区域診療用粒子線照射装置海外輸出促進事業の概要
Tata Medical Centerの概要
Tata Medical Centerは、インド大財閥の1つTata Groupの寄付により先端的医学研究と福祉向上を目的として2005年にインド・コルカタ市に設立された非営利、最新鋭の医療機関である。病院は予防、診断および治療、さらにリハビリならびに緩和研究を促進する最先端の全がんケアセンターを目指している。現在のセンター長は、Mammen Chandy医学博士。病床数は約430床で、2011年から2016年の間に、55000名以上の新規登録患者を治療するとともに、基金やインド政府の助成金を得て100編以上の研究論文を発表するなど活発に研究活動を行っている。
タタMCと量研の協力に関する取り決めの概要
タタMCと量研は、重粒子線がん治療に関する研究分野での相互協力を推進し、その成果の普及を促進することにより、科学の発展・継承に寄与することを目的として2017年9月14日に協力に関する覚書を締結した。
協力範囲は、
- 重粒子線及び光子線がん治療の臨床研究
- 医学物理及び放射線生物学の基礎研究
- 放射線科学の人材育成プログラムの開発
- その他両者が合意した範囲
であり、下記の項目を合意事項として含んでいる。
- 科学情報の交換
- 科学者及び専門家の交流
- 人材育成
- 施設及び設備の相互利用
- 共同研究
- その他両者が合意した事項