令和7年7月7日
医療被ばく研究情報ネットワーク
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
発表のポイント
- 医療被ばく研究情報ネットワークJ-RIMEが全国調査に基づき、放射線検査における線量の最適化のための指標となる「日本の診断参考レベル(2025年版)」を公表しました。
J-RIMEホームページURL:https://j-rime.qst.go.jp - CTやマンモグラフィ等、複数の画像診断法における線量調査を統一した手法で実施することにより、本版では診断参考レベルの値がより実態に即した線量値に改定されました。
- 第2版(2020年版)に比べて、一部の画像診断法において診断参考レベルの値が低くなっており、今後も「診断参考レベル」を用いた線量の最適化を継続することで放射線検査の安全性と質が向上し、患者の被ばく線量の低減が期待されます。
概要
量子科学技術研究開発機構(QST)が事務局を務める医療被ばく研究情報ネットワーク(Japan Network for Research and Information on Medical Exposure:J-RIME)は、全国の関係学協会との連携のもと、「日本の診断参考レベル(2025年版)」(Japan DRLs 2025)を策定し、2025年7月7日に公表いたしました。これは2015年、2020年に続く第3版であり、我が国における放射線検査の安全性と質の向上を目的とした重要な指標です。「日本の診断参考レベル(2025年版)」は、J-RIMEホームページ(https://j-rime.qst.go.jp)にて公開されています。
診断参考レベル(Diagnostic Reference Level; DRL)は、放射線検査において用いられる線量が適切かどうかを評価するための「最適化のための指標」であり、ICRP(国際放射線防護委員会)やIAEA(国際原子力機関)などの国際機関においてもその重要性が強調されています。DRLは線量限度ではなく、各医療施設が自らの線量水準を見直すための参考基準であり、より安全で安心な放射線検査を実現するための道しるべとなるものです。
2015年に初めて策定されたDRL(DRLs 2015)は、J-RIMEの場に集まった各学協会・研究者が各々の知見を持ち寄り、全国の医療機関を対象とした線量調査を実施することにより透明性・客観性を高めた上で策定されたもので、国内初の放射線検査における線量の最適化のためのツールとして広く認知されました。2020年には第2版が公表され、同年4月に施行された医療法施行規則の改正と相まって、医療被ばくの管理が法的にも明確化され、各医療機関における最適化の取り組みが一層加速しました。
第3版となる「診断参考レベル(2025年版)」の改定では、過去の2回の線量調査の経験を活かし、複数の画像診断モダリティ(CT、一般X線撮影、マンモグラフィ、血管造影等)における線量調査を統一フォーマットで実施し、回答の標準化と効率化が図られました。このことにより、過去2回の調査と比べ、より多くデータ収集と精度の高い分析が可能となり、より実態に即したDRL値が反映される結果となりました。一部の調査項目においては、前回に比べて線量が低減している傾向も確認されています。これは、DRLの策定などによる医療現場における安全管理意識の高まりや、装置の技術進歩による線量低減機能の進化が大きく寄与していると考えられます。今後も、DRLを用いた線量の最適化と技術革新による低線量・高画質の放射線検査がさらに普及することにより、患者の被ばく線量の低減が期待されます。
また、国際的な視点から見ても、欧州では法令によりDRLの導入が義務づけられていますが、日本ではJ-RIMEと学協会による自主的な取り組みが先行し、それが法制度に結びついたという独自の発展を遂げています。このような背景を踏まえ、日本のDRLsの策定プロセスや活用事例は、近年ではアジア・アフリカ諸国の関係者からも高く評価され、国際的な情報共有の場でも注目されています。
J-RIMEは今後も、定期的な線量調査とDRLの見直しを継続しながら、医療現場における線量の最適化の支援を行ってまいります。「診断参考レベル(2025年版)」が全国の医療施設における診療の質と安全性の向上に資することを願うとともに、よりよい放射線医療の実現に向けて、引き続き多くの関係者の皆様との協働を進めてまいります。
※医療被ばく研究情報ネットワーク(J-RIME)
J-RIMEは2010年3月、国内外の研究者・専門機関との連携を強化しながら、医療被ばくに関する研究情報の収集と共有を目的として独立行政法人放射線医学総合研究所(当時、現QST)が主導的となり関連学協会に参加を呼びかけて設立されました。放射線検査における施設・機器・撮影頻度・被ばく線量・リスク評価に関するデータを収集し、我が国の医療被ばくの実態を明らかにするとともに、より適切な医療被ばく管理体制を国内に築くことを目指しています。そのため、行政、医療従事者、医療機器メーカー、放射線防護専門家などの知見と力を結集し、オールジャパン体制で活動を展開しています。
ホームページ:https://j-rime.qst.go.jp
【J-RIME参加学協会】
医療放射線防護連絡協議会
日本医学物理学会
日本医学物理士会
日本医学放射線学会
日本インターベンショナルラジオロジー学会
日本核医学会
日本核医学技術学会
日本画像医療システム工業会
日本がん検診・診断学会
日本歯科放射線学会
日本CT検診学会
日本消化器がん検診学会
日本消化器内視鏡学会
日本小児心臓CTアライアンス
日本小児放射線学会
日本診療放射線技師会
日本整形外科学会
日本乳がん検診精度管理中央機構
日本脳神経血管内治療学会
日本放射線影響学会
日本放射線技術学会
日本放射線腫瘍学会
日本保健物理学会