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~世界の公衆被ばくにおける影響評価の基礎データとして国連科学委員会に採用~

プレスリリース

世界の宇宙線被ばく線量地図を改定
~世界の公衆被ばくにおける影響評価の基礎データとして国連科学委員会に採用~

掲載日:2026年4月13日更新
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QST縦ロゴJAEAロゴ2026年4月13日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
​国立研究開発法人日本原子力研究開発機構


ポイント

  • 原子放射線の影響に関する国連科学委員会1)が公表した最新報告書(UNSCEAR 2024 年報告書)の宇宙線被ばく線量計算において、従来の簡易モデルに代わり、JAEA が開発した PARMA モデル2)が採用されました。
  • さらに、QST が PARMA モデルを用いて算出した公衆の宇宙線被ばく線量が、同報告書に採用されました。採用された値は、世界中のあらゆる地点における宇宙線被ばく線量に、詳細な人口分布データを組み合わせることで、国・地域ごとのより実態に即したものとなりました。
  • これにより、過去の UNSCEAR 報告書と比較して格段に信頼性の高い「世界の宇宙線被ばく線量地図」が完成し、世界の公衆被ばくにおける影響評価の基礎データとして利用されていくことが期待されます。

概要

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)と国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下「JAEA」)は、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)が 2026 年 2 月 12 日に公表した最新「UNSCEAR 2024 年報告書(Vol.II)」において、JAEA が開発した宇宙線挙動解析モデル「PARMA」が採用され、QST がこのモデルを用いて世界の宇宙線被ばく線量の全面的な再評価を行い、宇宙線による公衆被ばく線量値の改定に貢献しました。
 地表に到達する宇宙線の量は、高度(標高)、緯度(地磁気の影響)、さらに太陽活動によって大きく変動します。従来の手法ではこれらの複雑な要因を網羅的に反映させることが困難で、これまでの UNSCEAR 報告書(2000 年、2008 年等)における宇宙線による全世界平均実効線量は、限られた実測値から単純な仮定に基づいて概算した値が使用されていました。
 JAEA が開発した PARMA モデルは、地球上のあらゆる地点の高度、緯度・経度、及び日付に対する宇宙線強度や被ばく線量を導出できます。UNSCEAR 2024 報告書では、PARMA モデルが「現在利用可能な最も信頼性の高いモデル」として採用されました。この方針を受け QST は PARMA モデルを用い、世界各地の居住環境における宇宙線線量を詳細に計算・解析しました。
 その結果、これまでと比べ格段に信頼性の高い「世界の宇宙線被ばく線量地図」が完成し、数値的根拠として UNSCEAR 報告書に使用されました。宇宙線による全世界平均年間実効線量は、従来の推定値(0.38 mSv/年)よりも低い「0.30 mSv/年」(屋内外・遮蔽を考慮した全世界平均)に改定されています。
 自然放射線による被ばく線量は、放射線影響評価の最も重要な基礎データです。今回の成果は、世界の公衆被ばく評価の根拠となる UNSCEAR 報告書の信頼性向上に大きく貢献するものであり、今後は航空機乗務員の被ばく管理や民間宇宙旅行での被ばく評価など、放射線防護における国際的な基準作りへの波及効果が期待されます。QST と JAEA は今後も連携し、科学的根拠に基づいた正確な放射線防護や影響に関する情報の提供を通じて、安全・安心な社会の実現に貢献してまいります。

研究開発の背景

 私たちは日常的に放射線にさらされており、どの程度放射線に被ばくしているかを正確に知ることは、放射線のリスクを判断する上で重要となります。原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、放射線影響の評価において最も重要な基礎データの一つである、自然放射線による被ばく線量についても最新の科学的知見に基づいて定期的に見直しています。
 自然放射線による被ばくは、空気中や食品に含まれる天然放射性核種の吸入および摂取による内部被ばくと、地表そして宇宙からの放射線による外部被ばくがあります。このうち、宇宙からの放射線(宇宙線)が地表に到達する量は、高度(標高)、緯度(地磁気の影響)、そして太陽活動によって大きく変動します。
 これまでの UNSCEAR 報告書(2000 年、2008 年等)では、緯度帯の代表値で宇宙線強度を与え、緯度帯ごとの人口割合と、代表的な高度補正係数を組み合わせる手法で推定した値が用いられてきました。しかし、この手法では居住高度を高く見積もり過ぎてしまうため、宇宙線による世界平均実効線量が過大に評価されていました。

研究の手法と成果

 JAEA が開発した PARMA モデル(PHITS-based Analytical Radiation Model in the Atmosphere)は、大気中での宇宙線の挙動を物理学的に精緻にシミュレーションし、あらゆる条件下での線量を解析的な数式で与えることができる画期的なモデルです。今回、UNSCEAR は PARMA モデルを「現在利用可能な最も信頼性の高いモデル」として採用しました。
 そこで QST は PARMA モデルを用い、地球上で居住者がいる場所について、1km 四方のグリッドで約 3000 万地点の宇宙線被ばく線量を計算しました。従来の UNSCEAR の手法では、宇宙線の高度による変化を実測データや過去の計算結果に基づく経験的な解析式で求めていましたが、今回は 1km 四方のグリッドごとに高度を求め、その高度に応じた宇宙線被ばく線量を計算しています。さらに欧州委員会共同研究センターが整備した「Global Human Settlement(GHS)人口グリッド(約 1 km2解像度)」を組み合わせて人口重み付けを行い
世界各地の居住環境における宇宙線線量を詳細に再評価しました。
 その結果「世界の宇宙線被ばく線量地図」(図1)が完成し、数値的根拠として全面的に報告書に使用され、宇宙線による全世界平均年間実効線量は、従来の推定値(0.38 mSv/年)よりも低い「0.30 mSv/年」(屋内外・遮蔽を考慮した全世界平均)として改定されました。

宇宙線被ばく線量の国別年間平均(UNSCEAR 2024 年報告書より引用
​図1:宇宙線被ばく線量の国別年間平均(UNSCEAR 2024 年報告書より引用)
​屋内滞在率 80%、住居等による遮へい率 90%を考慮

今後の展開

 2026 年 2 月 12 日に公表された UNSCEAR2024 年報告書では、自然放射線源からの世界平均年間実効線量は約 3.0 ミリシーベルト(mSv)と推定しています。最大の要因はラドン・トロン及びその壊変生成物の吸入(1.8 mSv)であり、食品等からの天然放射性核種の摂取(0.5 mSv)、地殻ガンマ線からの外部被ばく(0.4 mSv)、そして宇宙線による外部被ばく(0.3 mSv)が続きます。本報告書は、自然放射線が依然として世界の公衆被ばくの主要な源であることを再確認するものですが、その中でも変動要因の大きい宇宙線による被ば
く線量評価において、日本の技術が世界標準(グローバル・スタンダード)として活用されたことは、我が国の放射線科学分野における国際的なプレゼンスを示す極めて重要な成果です。

用語解説

1)原子放射線の影響に関する国連科学委員会( United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation: UNSCEAR)

 放射線の人体への影響や環境中の放射線レベルについて科学的な評価を行い、国連総会に報告する委員会です。その報告書は、国際原子力機関(IAEA)の安全基準や各国の放射線防護規制の基礎となる極めて権威ある文書です。今回公表された「UNSCEAR2024 年報告書」では、自然及び人為起源の放射線源からの公衆被ばく評価とそれらが及ぼす影響について最新の知見がまとめられました。

2)PARMA モデル

 JAEA が開発した、大気圏内の宇宙線スペクトル等を推定するための解析モデル。PARMA/EXPACS(*)は、原子力機構が中心となって開発している粒子・重イオン輸送計算コード:PHITS)を用いて実施した大気圏内での宇宙線挙動解析結果に基づいて構築された解析モデルであり、地球上のあらゆる地点の高度、緯度・経度、及び日付を指定すれば、その条件に対する宇宙線強度や被ばく線量を瞬時に導出することができます。
(*)EXPACS のホームページ:https://phits.jaea.go.jp/expacs/jpn.html

UNSCEAR2024 年報告書(Volume.2)

 https://www.unscear.org/unscear/en/publications/2024_2.html​