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-QSTのこれまでの実績が高評価-

プレスリリース

ジャイロトロンシステム20機をITER機構より受託
-QSTのこれまでの実績が高評価-

掲載日:2026年5月20日更新
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2026年5月20日

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
キヤノン電子管デバイス株式会社
ジャパン スーパーコンダクタ テクノロジー株式会社
京セラ株式会社
東京電子株式会社
株式会社NAT
株式会社トヤマ


発表のポイント

  • QSTはITER機構より20機のジャイロトロンシステムの追加調達を2025年5月に受託した。
  • これまでに、QSTはジャイロトロンシステム8機をITER機構に納品、その実績がITER機構より高く評価された。
  • その後、本年3月に設計・製造を行う国内企業6社とQSTが契約を締結。
  • 今後、QSTの設計技術と国内企業の製造技術のさらなる向上と、国産ジャイロトロンの国際競争力の強化が期待される。

概要

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 小安 重夫。以下「QST」という)は、南フランスに建設中の核融合実験炉ITER1)でプラズマの加熱に用いる高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」2)及び周辺機器で構成されるジャイロトロンシステムについてITER機構から追加20機の調達を2025年5月受託し、その後、本年3月に設計もしくは製作を行う国内企業6社との契約を締結しました。

 ジャイロトロンとはマイクロ波によりプラズマを加熱する装置のことで、170GHz(ギガヘルツ)3)という非常に高い周波数かつ1000kWという大電力のマイクロ波を発生させるための装置であり、高度な技術が求められるものです。QSTはジャイロトロンについて、世界に先駆けて8機をITER機構に納品してきました。このたびの追加調達の決定は、この実績が高く評価されたものです。また、本件には、前回システムと比べてジャイロトロン1機あたりの出力を1000kWから1200kWに増力するなど、さらなる性能向上が求められています。QSTは、これまで培ってきた設計技術とノウハウを基に、各機器の設計改良を行い、これらの要請に対応していきます。本取組を通じて、QSTにおける設計技術の一層の高度化が期待されるとともに、製造を担う国内企業においても、製造技術の向上が見込まれます。

 QST及び国内企業は、20機調達に向けた量産体制の構築に取り組みます。これにより、原型炉4)などの将来の核融合発電炉で必要とされる100機以上のジャイロトロンシステム量産に向けた技術とノウハウの獲得が期待できます。

ITERジャイロトロンシステムの開発実績

 ジャイロトロンとは、磁場に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源として、高出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管です。ITERに向けた国際的なジャイロトロンの研究開発競争は1990年頃から始まりましたが、電子からマイクロ波へのエネルギー変換効率の向上、電力効率の向上、ジャイロトロン内部で散乱するマイクロ波の低減、高出力かつ長時間運転によって生じる熱負荷に耐える構造、除熱能力の向上など、多くの技術課題に対して各国が苦戦しました。そうした中、QSTは国内メーカーと連携し、世界に先駆けてITERの要求性能を満たすジャイロトロンの開発に成功してきました。この実績がITER機構に高く評価された結果、QSTが当時の発注機数の1/3にあたる8機のジャイロトロンシステムを調達することになりました。

 ジャイロトロンは、所要の高性能を達成するために、電子ビームの軌道を詳細に調整、所定の位置を通過させ、その上で、さらに電子ビームの電流、電子の回転運動エネルギー等の運転条件を最適化する必要があります。また、同一の仕様で製作された装置であっても、個体差が存在するため、高度な専門知識と経験を要します。QSTは、那珂フュージョン科学技術研究所内にあるジャイロトロン試験設備を用いた長年の技術開発の蓄積があるため、このような複雑な最適化を実現する高度な技術を有しております。そのため、それぞれのITERジャイロトロンに対して、数ヵ月にわたる調整、最適化作業を行い、2024年に全8機の製作、性能試験を完了することができました。全てのジャイロトロン及び周辺機器で要求性能を満たしたことは、製造元である国内企業が有する高い技術力やノウハウと、QSTの高度な研究開発能力が結集された成果と言えます。2025年には、ロシア及び欧州に先駆けて全8機のジャイロトロンシステムをITER機構に納入しました。

 これらの実績がITER機構に高く評価された結果、QSTがITER機構から追加20機の調達を受託することに至りました。今回の受託契約には更に4機の追加調達のオプションが含まれており、最大24機を製作する可能性があります。これらの追加ジャイロトロンの製作には、5年間を要する見込みであり、日本の産業基盤の強化及び関連産業の振興への貢献も期待されます。

ITERジャイロトロンシステムの構成機器

 ITERでは、プラズマを1億度以上に加熱することで、莫大なフュージョンエネルギーを生み出します。現在、ITERでは3種類のプラズマの加熱方法を組合せますが、ジャイロトロンのマイクロ波を用いた加熱が主力となっております。そして、ジャイロトロンシステムが上記の高周波数かつ大電力を達成するには、国内企業が有する高度な技術力が不可欠となります。

 ITERジャイロトロンは電子管の一種であり、全長約3メートル、最大箇所で内壁直径約40センチメートル、重さ約800キログラムに及ぶ装置であり、内部の高真空(10-8 Pa(パスカル)以下)を維持するために、フランジ等を用いない封じ切り管構造の密閉された筒形状を採用しています。ジャイロトロン内部ではマイクロ波の損失をできる限り減らす必要があるため、主材料には電気伝導度の高い銅が使用されています。しかしながら、銅は溶接による接合が困難であることから、ろう付けによる接合が採用されています。このろう付けによる接合においては、部位によって公差0.1ミリメートルという高い組立精度が要求されます。この高い組立精度によって、QSTが設計するジャイロトロンの内部機器が高い性能を発揮することができます。他にも、電子ビームを生成する機器である電子銃は、ジャイロトロンに特化した製造工程を必要とします。そこで、これらに求められる高度な技術力を有する、キヤノン電子管デバイス株式会社が、ITERジャイロトロンの製造を担当します。

ジャイロトロン内部では、170GHzでらせん運動する電子ビームのエネルギーの一部が、サイクロトロンメーザーの原理により同じく170GHzのマイクロ波に変換されます。電子ビームのらせん運動を生み出すための強力な磁場は、超伝導コイルシステムを用いることで生成されますが、ジャイロトロンは超伝導コイルの軸中心に挿入して使用されるため、直径24センチメートルの大口径の内径、最大7テスラの強磁場、QSTが設計した磁場分布の実現などの条件を満たす必要があります。そこで、超伝導線を高精度に巻き付ける高度な技術力を有する、ジャパン スーパーコンダクタ テクノロジー株式会社が超伝導コイルシステムの製造を担当します。

 ITERジャイロトロンは、3つの電極(アノード、ボディー、カソード)に数十kV(キロボルト)の高電圧を印加することで、電子銃で生成した電子ビームを加速します。そのため、セラミック円筒を用いることで各電極を絶縁します。セラミック円筒には、各電極との接続部となる同一径のリング状金具が接合されています。なかでも最大径は約30センチメートルに達する大口径になります。そのため、大口径のセラミックを製作する能力があり、かつ、円筒の両端に同じく直径30センチメートルの金具を高精度に接合する技術をもつ、京セラ株式会社が、ITERジャイロトロン用のセラミック円筒の製造を担当します。

 ITERジャイロトロンには、定常出力に加え、ITERのプラズマの安定化を目的としたオンとオフを数kHz(キロヘルツ)で繰り返すオン・オフ運転が求められています。そのため、電子ビームをオン・オフするための高電圧用の高速アノードスイッチが不可欠です。そこで、高速にオンとオフを繰り返しつつ、良好な矩形波を維持した高電圧を安定して出力するための高度な技術力を有する、東京電子株式会社が高電圧電源 (アノード、ボディー)と高速アノードスイッチの製造を担当します。

 電磁波へのエネルギー変換後においても、電子ビームは出力と同程度の高いパワーを持つため、コレクターと呼ばれる水冷された金属円筒で熱として処理します。このとき、このコレクタースイープコイルと呼ばれるコイルで上下に約2Hz(ヘルツ)で電子ビームの軌道を振ることで、コレクターへの熱負荷を分散させることができます。また、高電圧給電装置を用いることで、ジャイロトロンの各電極へ高電圧を安全かつ安定的に供給することができます。これら総重量約2トンの構成機器は、耐震設計が施され、高さ及び水平方向の位置調整が可能な架台に載せて使用されます。特に、約2トンの重量を支持しつつ、精密な位置調整を実現するための駆動機構の構築には、高度な技術力が求められます。そこで、これらに求められる高度な技術力を有する株式会社NATが、コレクタースイープコイル、高電圧給電装置、架台の製造を担当します。

 ITERジャイロトロンから出力されたマイクロ波は、準光学整合器と呼ばれる装置を用いることで、導波管と呼ばれるアルミ円筒に効率良く伝送します。導波管によって約150メートル伝送した後、ITERのプラズマ装置にマイクロ波が入射されます。導波管にマイクロ波を効率良く伝送するため、準光学整合器は精密に角度調整が可能な銅製の2枚のミラーを備えています。これら2枚のミラー形状は、QSTの設計通りに精度良く加工される必要があります。また、内部で散乱してしまう一部のマイクロ波がジャイロトロン側に戻らないよう、準光学整合器内部でマイクロ波を吸収し、その熱を除去する構造及びその製造技術が求められます。そこで、これら要求性能を実現するための高度な技術力を有する株式会社トヤマが、準光学整合器の製造を担当します。

ITERジャイロトロン及び周辺機器の製造担当を示す組立図(前回8機のデザイン)。
図1.ITERジャイロトロン及び周辺機器の製造担当を示す組立図(前回8機のデザイン)

 

ジャイロトロン及び周辺機器の製造担当を示す断面図。
図2.ジャイロトロン及び周辺機器の製造担当を示す断面図

用語解説​

1)核融合実験炉ITER
我が国は、世界7極の国際協力により、実験炉の建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画を推進しています。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が進められているとともに、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。

ITER鳥瞰図
​ITER鳥瞰図

イーター計画に関するホームページ(日本語)​
https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/ 
 
イーター機構のホームページ(英語)​
https://www.iter.org/ 
 
2)ジャイロトロン
 
磁場に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源として、高出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管です。ジャイロトロンの名は、磁場中の回転運動(ジャイロ運動)に由来します。高出力のマイクロ波は、核融合炉内の燃料(水素の同位体ガス)へ入射することにより、プラズマ点火や、効率よく核融合反応が起こる温度への加熱、プラズマ中で発生した乱れの抑制のためなどに用いられます。
 
3)GHz(ギガヘルツ)
 
「ギガ」は109を意味します。「ヘルツ」は周波数の単位で、1秒間の変動数を意味します。電子レンジでは2.45GHzのマイクロ波が用いられています。

4)原型炉

原型炉とは、JT-60SAやITERの成果にもとづいて建設される次期装置であり、フュージョンエネルギーによる発電と経済性を実証する装置です。現在、世界各国で原型炉の概念設計が進められています。