2026年6月5日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
ポイント
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がんや脳の診断に不可欠なPET1)は、医療用装置で約4mm、実験動物用装置でも1~2mm程度が分解能の限界であり、CTやMRIに比べて画像の細かさが低いことが長年の課題でした。
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微量の放射線を捉えられる感度を維持したまま高解像度化が可能な新型放射線検出器を開発し、これを搭載したマウス頭部専用PET装置により、分解能0.5mmという世界最高性能を実現しました。
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数百マイクロメートルの微細な構造を持つマウスの脳を生きたまま観察して脳の働きや病気の進行をより正確に捉えることにより、創薬研究の効率化に役立つと見込まれます。さらに、本技術を医療用PET装置に展開することで、がんや認知症の超早期診断が期待されます。
概要
量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)量子医科学研究所先進核医学基盤研究部の山谷泰賀次長、カン・ハンギュ主任研究員らは、PET(陽電子断層撮像法)において、世界で最も高い分解能を実現する新技術を開発しました。
がんや脳の病気を調べるために使われるPETは、ごく微量の検査薬の体内分布を画像として捉えることができる重要な検査です。しかし、現在広く使われているPET装置は、画像の細かさ(分解能)がCTやMRIに比べて低いという課題がありました。医療用のPET装置では約4mm、マウスなどの実験動物用でも1~2mm程度が限界で、より小さな変化を捉えることが難しい状況が続いてきました。これは、微量の放射線を捉えるために検出器のセンサー部分を厚くして感度を確保しようとすると、画像のぼけが避けられないためです。このため、感度と分解能を両立させることが、長年にわたり大きな技術課題となってきました。
今回、研究グループは、センサーを多層化することで感度を落とすことなく高い解像度を実現した新型検出器を用いて、マウスの頭部専用PET装置を開発しました。その結果、分解能0.5mmという、世界最高の性能を実現しました。分解能の向上は画像として得られる情報量の大幅な増加につながり、例えば1mmから0.5mmへの改善は、理論上8倍の情報量に相当します。

図1 分解能を実証した実験結果
この装置により、これまで見られなかったマウス脳内の数百マイクロメートルと微細な構造を生きたまま観察することが可能になります。脳の働きや病気の進行をより正確に捉えられるため、新しい薬の開発(創薬研究)を大きく効率化することが見込まれます。さらに、この技術を医療用の一般的なPET装置に応用することで、がんや認知症をこれまで以上に早い段階で見つけられる可能性があり、将来の医療に大きく貢献することが期待されます。
本研究は、核医学のトップジャーナルであるJournal of Nuclear Medicineに令和8年6月5日にオンライン掲載されました。
研究開発の背景と目的
がんや脳の病気を調べるために使われるPETは、ごく微量の検査薬の体内分布を画像として捉えることができる重要な画像診断技術です。
しかし、現在広く使われているPET装置には、画像の細かさがCTやMRIに比べて低いという課題がありました。医療用のPET装置では約4 mm、マウスなどの実験動物用でも1~2 mm程度が限界で、より小さな変化を捉えることが難しい状況が続いてきました。
この背景には、PETが極めて微量の放射線を検出する必要があるという特性があります。検出感度を確保するために検出器のセンサー部分を厚くすると、放射線の検出位置にばらつきが生じ、画像のぼけが避けられなくなります。このため、高い感度と高い空間分解能(以下、分解能)を同時に実現することは、長年にわたりPETにおける大きな技術課題でした(図2)。

図2 従来PETの課題であった感度と分解能の両立を放射線センサー部の多層化により解決するQSTのアプローチ
研究の手法と成果
本研究では、センサーを多層化することで、感度を維持したまま高密度化を可能とし、同時に高い解像度を実現した新型検出器(約12 mm角)を開発しました。センサー部(シンチレータ)は放射線を吸収して微弱な光に変換する役割を担っています。開発した検出器では、シンチレータを3層構造にして、各層のピクセルピッチを0.8 mmとすることで、微細な位置情報の取得を可能にしました(図3)。
図3 開発した装置(直径44mmのリング中央部にマウスが入る)
ピクセル数は、1層目が11×12、2層目が12×12、3層目が13×13と、層が深くなるにつれて増加するピラミッド状の構成としています。この構造により、最下層の受光素子から得られる受光情報から、放射線がどの層・どのピクセルで吸収されたかを特定できるようにしました(図4)。

図4 開発した検出器の構造(受光パターンから放射線を吸収したシンチレータの層を判定できるようにした)
本方式の実現にあたり大きな課題となったのが、1検出器あたり445に及ぶピクセル数の多さです。画像化の過程で処理できる信号数には物理的に制約があります。そこで、光学的に信号を25/445に圧縮し、さらに電気的に4/25まで段階的に信号圧縮を行うことで、検出した全ての光信号の処理を可能にしました。この新型検出器を、1周あたり16個配置したリングを2段連結し、マウスの頭部専用PET装置を開発しました。
その結果、分解能0.5 mmという、世界最高の性能を実現しました(図5上)。分解能の向上は画像として得られる情報量の大幅な増加につながり、例えば1 mmから0.5 mmへの改善は、理論上8倍の情報量に相当します。本装置により、生きたマウスの脳を、これまでPETでは可視化できなかった1mm に満たない微細な構造に至るまで観察することが可能になりました(図5下)。

図5 開発した検出器による性能テスト用模型の撮像結果(上)とマウス頭部撮像結果(下)
今後の展開
本装置により、マウスの脳の機能変化や疾患の進行をこれまでより高い精度で捉えることが可能となります。これにより、脳神経疾患などを対象とした新薬開発をはじめとする創薬研究の大幅な効率化が期待されます。さらに、本研究で確立した高分解能化技術を医療用の一般的なPET装置に応用することで、がんや認知症を、従来よりも早期の段階で検出できる可能性があります。本技術は、診断の高度化や治療効果の的確な評価につながり、将来の医療の発展に大きく貢献することが期待されます。
謝辞
本研究は、科研費(23K17239、25K21601)、中谷財団、AMEDムーンショット型研究開発事業「グリア病態からセノインフラメーションへ発展する概念に基づく認知症発症機序の早期検出と制御」、IEEE Glenn F. Knoll Post Doctoral Educational Grantの助成を一部受けています。
用語解説
1)PET
PETはPositron Emission Tomography(陽電子断層撮像法)の略である。陽電子を放出する放射性薬剤の体内分布を3Dで可視化する分子イメージング技術である。認知症の早期診断法や抜本治療法の確立に向けて、原因タンパクとされるアミロイドβやタウをターゲットにした臨床又は前臨床動物PETイメージング研究が盛んに行われている。
【掲載論文】
タイトル:Sub-0.5 mm resolution PET vs. autoradiography: Comparison of mGluR1 concentrations in mouse brain
著者:Han Gyu Kang1, Hideaki Tashima1, Hidekatsu Wakizaka1, Takeharu Minamihisamatsu2, Tomoteru Yamasaki1, Masayuki Fujinaga1, Ming-Rong Zhang1, Makoto Higuchi2, Taiga Yamaya1
著者所属:1.Department of Advanced Nuclear Medicine Sciences, Institute for Quantum Medical Science
2.Department of Functional Brain Imaging, Institute for Quantum Medical Science
雑誌名:Journal of Nuclear Medicine
DOI: https://doi.org/10.2967/jnumed.125.271600
