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~レーザー駆動中性子源や医療用放射性同位体の生成応用に期待~

プレスリリース

重水素イオンを加速可能な 「ブーストクーロン爆発」の発見
~レーザー駆動中性子源や医療用放射性同位体の生成応用に期待~

掲載日:2026年7月3日更新
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ロゴQSTロゴ2026年7月3日
国立大学法人大阪大学
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)


ポイント

  • 大強度レーザーを重水※1の層を持つ金属ターゲットに照射した実験で、これまで知られていない機構で重水素イオンがレーザー照射側で加速されることを発見。
  • 加速されたイオンは、準単色※2で最大50MeVまで加速され、かつ、通常は存在するエネルギーが低い部分が非常に少ないという他の加速機構にはない特徴を有することも明らかに。
  • レーザーの入射波と金属ターゲットから反射した反射波の干渉によって、電子が部分的に弾き飛ばされ、イオンがクーロン力で爆発的に加速されたと推定されることから「ブーストされたクーロン爆発」と命名。
  • 準単色の重水素イオンを加速することで、使い勝手の良い中性子パルスや医療用放射性同位体※3の生成など幅広い分野への応用に期待。

概要

 大阪大学レーザー科学研究所の有川安信准教授、余語覚文教授、量子科学技術研究開発機構のWei Tianyun博士らが、大阪大学レーザー科学研究所の大強度レーザーLFEX(エルフェックス)※4を薄い重水の層を持つ金属薄膜に照射したところ、準単色の重水素イオンがレーザーの照射面側(図1参照)でも加速されることと、ピークエネルギーが最大約50MeV(メガ電子ボルト※5)まで加速されることを発見しました。さらに、これまでの実験結果と比較して、低エネルギー成分が非常に少ないという特徴が明らかになりました。

 大強度レーザーを金属薄膜等に照射し、イオンを加速するレーザーイオン加速の研究が過去20年以上にわたり世界で精力的に研究されてきました。これまで、加速機構として、クーロン爆発とターゲットノーマルシース加速が主に研究されています。クーロン爆発ではイオンは四方に加速され、ターゲットノーマルシース加速では、イオンはレーザーの照射面の反対側に加速されます。また、これらの加速機構では加速されたイオンのエネルギーは連続分布を持ちます。

 この加速機構を解明するために、シミュレーション計算を行った所、次のように加速されていると推察されました。まず、入射したレーザーパルスがターゲットで反射を始め、まだ入射中のレーザーパルスと重なった領域で干渉波を形成します。干渉波はその領域の電子を瞬間的に弾き飛ばします。プラスの電荷を持つ重水素イオンが残され、プラスとプラスの電荷の間のクーロン斥力によって干渉波の方向に重水素イオンが爆発的に加速されます。この特徴から、この加速機構を「ブーストされたクーロン爆発」と命名しました。

 準単色の重水素イオンが加速できれば、世界で開発が進められているレーザー駆動中性子源※6において、準単色の中性子パルスの生成が期待できます。また、世界で研究が開始されたレーザーによる医療用放射性同位体の生成にも応用可能性があります。本加速機構は原理的に他の元素にも適用可能で、多種多様なイオンを用いた広い分野に応用できます。

 本研究では、レーザー入射波と反射波の干渉波が重要な役割を果たすことを発見し、より高エネルギーのイオンを加速する手法の発見につながると期待されます。

 本研究成果は、英国科学誌「Nature Communications」に、5月29日(金)18時(日本時間)に公開されました。

研究の背景

 大強度レーザーを金属薄膜などの表面に集光すると、レーザーパルスが金属に接触した段階でプラズマを生成し、そのプラズマとレーザーパルスが相互作用して、様々な現象を起こすことが知られています。このようなプラズマとレーザーの相互作用により高エネルギーのイオンを加速する機構の研究が約20年前から世界で精力的に行われてきました。

 現在では、イオンの加速機構として、ターゲットノーマルシース加速(以後、シース加速)と、クーロン爆発と呼ばれる加速機構がよく知られており、様々な研究に用いられています。シース加速では金属薄膜ターゲットにレーザーパルスが集光されると、ターゲットの反対側に電子が染み出て、電子の鞘(さや、シース)を形成します。この時、電子の鞘とターゲットの陽イオンの間に、瞬間的に非常に強い静電場が形成され、この静電場で陽イオンがレーザー照射面の反対側に加速されます(図1)。

ターゲットノーマルシース加速
​図1.ターゲットノーマルシース加速

 クーロン爆発は、分子・原子の集合体であるクラスターにレーザーを照射する実験などで実証されています(図2)。レーザーがクラスターターゲットに照射されると、最初に電子が四方に弾き飛ばされ、陽イオンが残されます。残された多数の陽イオンはそれぞれプラスの電荷を持つために、互いにクーロン力によって反発し、この反発によって陽イオンが四方に爆発的に加速されます。​

クーロン爆発によるイオン加速機構の模式図。
​図2.クーロン爆発によるイオン加速機構の模式図。

 これらの加速機構は様々な優れた特徴を有しますが、応用研究の目的によっては適していない場合があります。そのため、新しいレーザーイオン加速機構の理論的提案と実験的検証が世界で行われています。このような背景の中、本研究グループは新しいレーザーイオン加速機構を発見しました。​

実験方法

 本研究では、大阪大学レーザー科学研究所のLFEX(エルフェックス)レーザーを用いて実験を行いました(図3)。まず、重水を含有しているプラスティックの球状ケースを、アルミニウムターゲットの近くに約40分間設置しました。ケースにはナノサイズの穴が開いており、重水素を含む水分子が穴を経由して揮発し、ターゲットの表面に付着しました。このような手法で、数十nmの厚さの重水の層を作りました。

 次に、重水を含む球を取り除いた後に、パルス幅が1.5psでエネルギーが約600Jのレーザーパルスを重水層側からターゲットに照射しました。ターゲットから放出されたイオンの種類とエネルギーをトムソンパラボラ検出器で計測しました。

実験の模式図。
​図3.実験の模式図。

発見された新しいレーザー加速の特徴

​​計測された重陽子のエネルギースペクトル[図4(a)]には次の4つの特徴があることが判明しました。

  1. エネルギーが準単色。中心エネルギーに対するピークのエネルギーの幅(半値幅)は、dE/E=15~30%と比較的狭い。一方、通常のシース加速では、エネルギーは連続的であり[図4(b)]、クーロン爆発でも連続エネルギー分布を持つ。
  2. これまで、準単色の重陽子の最大エネルギーは、シース機構で加速された約11MeVであったが、準単色の重陽子のピークエネルギーが最大50MeVまで加速。
  3. これまでの加速機構でも様々な工夫を行うことで準単色のイオン加速を行った例があるが、同時に低エネネルギーのイオンも多数加速されていた。一方、本加速機構では、低エネルギー部分が極めて少なく、図4(a)の例では、7~30MeVの重陽子はほとんど測定されていない。
  4. シース加速ではイオンはレーザー照射面の反対側に加速され、クーロン爆発では全方向にイオンが加速される。一方、本実験結果では、イオンはレーザー照射面側で加速されるという特徴と、発散角度が10度以下の狭い領域にコーン状に加速されるという特徴があった。

本実験で得られた重陽子のエネルギースペクトルの例など
図4.(a)本実験で得られた重陽子のエネルギースペクトルの例。約35MeVのピークエネルギーと、約6MeVの半値幅を持つ(dE/E~17%)。(b)シース加速による陽子のエネルギースペクトルの例。

​​シミュレーション計算による新しいレーザー加速機構の理解

 今回、測定された高エネルギーイオンのエネルギー分布や放出方向の分布は、従来の加速機構で加速されたイオンの特徴とは著しく異なります。そこで、その機構を解明するために粒子(PIC)シミュレーション計算を行った結果、イオンは次のような過程で加速されると推定されました。

 重水素の薄い層を持つアルミニウムターゲットに、重水素の層のある面からレーザーパルスが入射すると[図5(a)]、先行するレーザーのプリパルスは重水の層にエネルギーを与えて密度の低いプラズマに変化させます。レーザーのメインパルスはこのプラズマを通過して[図5(b)]、金属ターゲットの表面から反射を始めます。反射したレーザーパルスと、まだ入射し続けているレーザーパルスが重なった領域で、ターゲット面に垂直な方向に干渉波が生成されます。この干渉波によって、この領域の電子が瞬間的に弾き飛ばされます[図5(c)]。残された陽イオンの集団の中で、プラスとプラスの電荷の間のクーロン斥力が働き、陽イオンが電子の無い方向に瞬間的に加速されます[図5(d)]。なお、通常のクーロン爆発では、電子が存在しているとイオン加速が阻害されます。本機構では干渉波によって局所的に電子が追い出されたために、クーロン力によるエネルギーが一定方向に集中し、高いエネルギー加速と狭い発散角度を実現したと推定されました。

 このように、本加速機構では入射波と反射波による干渉波が重要な役割を果たしていることが判明しました。一方で、いくつかの問題も残っており、シミュレーションでは、50MeV以上の準単色の重陽子の加速を再現した一方、一定数の低エネルギー(10~30MeV)の重陽子も同時に加速されると予想していました。しかし、実際の実験結果では、低エネルギー領域の重陽子の数はほとんど検出されておらず、将来の応用研究も可能であることが分かりました。このように、実際の実験結果の方がシミュレーション結果より優れた特性をいくつか持ち、その理由の解明は今後の研究課題です。

シミュレーションによるブーストされたクーロン爆発機構のメカニズム
​図5.シミュレーションによるブーストされたクーロン爆発機構のメカニズム。

本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 本準単色の重陽子について、次のような応用が期待されます。現在、世界的にレーザー駆動中性子源の開発が進められており、その有力な手法の一つが、大強度レーザーで重陽子を加速してベリリウムターゲットに照射し、核反応で中性子を生成する手法です。適切なエネルギーの準単色の重陽子を照射し、中性子の取り出し角度を制御することで、準単色の中性子パルスを生成できます。

 また、病院内に設置した小型レーザーによって医療用放射性同位体を生成するための研究が世界で開始されており、新しい医療用放射性同位体である64Cu等を加速器の重陽子を用いて生成する手法も研究されています。これらの生成にレーザー加速重陽子を用いることも可能です。また、核融合で重要なd+d反応や、d+t反応の基礎研究にも用いることもできます。

 本研究で発見したイオン加速手法は、金属ターゲットの表面に薄い層を作ることができる元素に応用可能であり、そのような元素を用いたより広い領域への応用が期待されます。

 本研究では、レーザーの入射波と反射波によって生成される干渉波とプラズマの相互作用によって、従来予想していなかった現象が発生することを発見しました。現時点ではまだ完全な理解には至っておらず、さらなる高エネルギー粒子の加速機構の発見につながる可能性があります。また、現在のレーザーでも実験可能な、未発見のレーザーイオン加速機構が隠されている可能性を示した点でも重要な成果です。

特記事項

本研究成果は、2026年5月29日(金)18時(日本時間)に英国科学誌「Nature Communications」に掲載されました。

タイトル:“Quasi-monoenergetic deuteron acceleration via boosted coulomb explosion by reflected picosecond laser pulse”

著者名:T. Wei, Z. Lan, Y. Arikawa, Y. Gu, T. Hayakawa, A. Morace, R. Yamada, K. Yamanoi, K. Honda, M. Kando, N. Nakanii, S. R. Mirfayzi, S. V. Bulanov and A. Yogo

DOI:https://www.doi.org/10.1038/s41467-026-73196-9

用語解説

※1 重水

水素の同位体に陽子1個と中性子1個から原子核が構成される重水素がある。重水とは、通常の水素ではなく重水素と酸素から構成された分子からなる水。通常の水素はHで記述され、水分子はH2Oと記述される。重水素はDと記述され、重水の水分子はD2Oと記述される。
※2 準単色
完全に一つのエネルギーに揃っている(単色)わけではないが、特定のエネルギー付近に粒子が集中し、エネルギーのばらつき(幅)が比較的狭い状態を指す。
※3 医療用放射性同位体        
医療目的に使われるガンマ線やベータ線を放出する数十分から数日の半減期を持つ放射性同位体。特定の部位や腫瘍に吸収されやすい薬剤に放射性同位体を組み込み、患者に投与する。体全体から放出されるガンマ線の分布を計測することで、腫瘍等の位置や大きさを診断できる。また、ベータ線やアルファ線を放出する放射性同位体を含む薬剤を悪性の腫瘍に取り込ませ、腫瘍の細胞を選択的に破壊する治療にも用いられる。
※4 LFEX(エルフェックス)
大阪大学レーザー科学研究所で開発された短いパルスで高出力が得られるレーザー装置。一瞬(1兆分の1秒=1ピコ秒)で、世界中の総発電量をも上回る超高強度出力(2千兆ワット=2ペタワット)が得られる。
※5 メガ電子ボルト
電子ボルト(eV)はエネルギーを表す単位であり、1個の電子が1Vの電圧の電場で加速されて得られるエネルギーに等しい。メガ電子ボルトは、百万電子ボルトに相当する。
※6 レーザー駆動中性子源
大強度レーザーを用いて短パルス・高フラックスの中性子パルスを生成して中性子源とする研究が世界のレーザー施設で進められている。従来の原子炉や加速器駆動中性子源と比較して、条件によって中性子のパルス幅が短い、1ショットの中性子数が多いなどの特徴を有する。