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~同一患者の追跡で初めて解明、タウ蓄積を抑える治療が症状進行の抑制につながる根拠に~

プレスリリース

難病「進行性核上性麻痺」で脳内タウ蓄積が速く進む人ほど症状も速く進行することを実証
~同一患者の追跡で初めて解明、タウ蓄積を抑える治療が症状進行の抑制につながる根拠に~

掲載日:2026年9月5日更新
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QST横ロゴ2026年9月5日
国立研究開発法人​量子科学技術研究開発機構(QST)


ポイント

  • 進行性核上性麻痺(PSP)1)では、脳内に異常なタウタンパク質2)(以下、タウ)が蓄積しますが、同一の患者を追跡し、タウ蓄積量や分布の経時的変化を高精度に捉えて、症状の進行との関係を示した研究はありませんでした。
  • 独自開発のタウPET3)技術で、同一PSP患者を初回と約1年後に評価し、脳深部の淡蒼球でタウ蓄積の増加が速い患者ほど症状の進行も速いことを、世界で初めて生体脳で明らかにしました。
  • 本成果は、タウ蓄積の増加を抑えられれば症状進行も抑えられる可能性を示すもので、進行を客観的に捉える画像指標として、タウを標的とする治療薬開発やその薬効評価への活用が期待されます。

概要

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫、以下「QST」)量子医科学研究所脳機能イメージング研究センターの知識柔一実習生(主所属:千葉大学大学院医学研究院脳神経内科学)、遠藤浩信主幹研究員らは、進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy: PSP)患者の生体脳に蓄積するタウが経時的に増加・拡大する様子を可視化し、脳深部の淡蒼球におけるタウ蓄積の増加量が大きい患者ほど症状の進行も速いことを世界で初めて示しました。

 PSPは中高年で発症し、転倒しやすさや体の動かしにくさ、眼球運動障害、認知機能障害などが進行する神経難病です。現在、病気の進行を抑える根本的な治療法はなく、治療薬開発において症状の進行を客観的に評価できる指標の確立が重要な課題となっています。

 これまで、PSP患者の死後脳研究により脳内の主要な病理変化としてタウ蓄積が認められることが知られていました。しかし、死後脳では同一患者において時間を追って観察することができないため、タウ蓄積の量や分布が時間の経過とともにどのように変化し、それが実際の症状の進行とどのように関連しているかは明らかではありませんでした。近年では、PET(陽電子断層撮像法)により生体脳でもタウ蓄積を可視化できるようになり、経時的変化を追跡する試みも行われてきました。しかし、これまでのタウPET研究ではタウ蓄積の経時的な増加を捉えても、それが症状の進行と関連することを示すには至っていませんでした。そこで本研究では、QSTが独自に開発した高感度タウPETプローブを用いて、同一のPSP患者26名の初回と約1年後のPET画像を比較し、脳の様々な領域におけるタウ蓄積の経時的変化を解析しました。

 その結果、PSP患者の大脳基底核、前頭頭頂葉、小脳においてタウ蓄積の経時的な増加や広がりが認められ、PSPで最も典型的かつ頻度の高い病型であるリチャードソン症候群では、大脳基底核の淡蒼球におけるタウ蓄積増加量が実際の症状進行の程度と強く相関していることがわかりました。これらの知見は、同一患者におけるタウ蓄積が進行する速さがPSPの症状の進む速さを規定していることを追跡評価して示したもので、タウを標的とした治療でその蓄積を抑えることができれば症状進行の抑制につながりうることを示唆しています。さらに、PETを用いたタウ蓄積の経時的評価により、個々の患者の病状進行を客観的に捉えられる可能性を示しています。

 本研究により、タウ病理と症状進行との関係を時空間的に捉えられるようになり、病態の解明が進むことが期待されます。また、本研究で用いた画像評価法は、PSPの病状進行を客観的に評価する新たな指標となるだけでなく、タウが関与する他の神経難病や認知症にも応用できる可能性があります。これにより、タウを標的とした治療薬の開発や、その効果を評価する臨床試験への活用が期待されます。

 本成果は、神経学分野の国際学術誌「Movement Disorders」に2026年9月5日(土)00:00(日本時間)に掲載されました。

研究開発の背景と目的

 進行性核上性麻痺(PSP)は、脳内に異常なタウが蓄積することで神経細胞の機能が障害されるタウ関連疾患の一つであり、歩行障害や転倒、眼球運動障害、姿勢保持障害などの運動障害に加え、認知機能障害も生じる進行性の神経変性疾患です。患者数は人口10万人当たり10~20人程度と推定される希少疾患ですが、アルツハイマー病と並び、タウの異常蓄積が病気の発症・進行に深く関わる代表的な疾患として知られています。アルツハイマー病は症状が年単位でゆっくり進行するのに対し、PSPは数年という比較的短期間で症状が進行することから、タウが時間とともにどのように広がり、症状の悪化につながるのかを明らかにするうえで重要なモデル疾患と考えられています。

 現在、病気の進行を抑える根本的な治療法は確立されておらず、新たな治療法の開発が世界的に進められています。そのため、病気がどのように進行するのかを生体内で正確に捉え、治療効果を客観的に評価できる指標(バイオマーカー)の確立が重要な課題となっています。

 これまで、PSP患者の死後脳研究から、淡蒼球や中脳などの脳深部を中心にタウが蓄積することが、PSPの代表的な病理学的特徴として知られていました。また、近年ではPET(陽電子放出断層撮影)を用いることで、生体脳におけるタウ蓄積を可視化できるようになり、QSTではPSPにおける認知症状とタウ蓄積との関係を複数報告してきました(2026年7月プレスリリース)。しかし、死後脳研究およびこれまでのPET研究の多くは病気の一時点での評価にとどまっていたため、タウ蓄積が時間とともにどのように変化し、その変化が実際の症状の進行とどのように関係するのかは明らかではありませんでした。そのため、PETを用いてタウ蓄積の経時的変化を追跡する研究も報告されていますが、これらの研究はタウ蓄積の経時的な増加を示すにとどまり、その変化が病気の進行や症状の悪化を反映しているかどうかは十分には分かっていませんでした。

 そこで本研究では、QSTが開発した脳内のタウを高感度に検出できるPET薬剤18F-PM-PBB3(florzolotau(18F)4))を用いてPSPのタウ蓄積が脳内で時間とともにどのように広がるのかを明らかにするとともに、その変化と症状の進行との関連を検証しました。

研究の手法と成果

 PSP患者26名と健常者10名を対象に、florzolotau(18F)を用いたPET検査を、初回(ベースライン)と約1年後の2回実施しました。MRIを用いて設定した脳内57カ所の関心領域について、タウ蓄積を画像化するためのPET信号のベースライン値および1年間の変化量(2回目と初回の値の差)をPSP患者と健常者の間で比較する多変量解析を行い、PSPに特徴的なタウ蓄積を示す領域を特定しました。

 ベースラインの解析では、これまでの報告と同様に、主に淡蒼球や中脳などの皮質下領域にタウ蓄積が認められました(図1左)。一方、経時的変化の解析では、淡蒼球でさらなるタウ蓄積の増加が認められるとともに、前頭頭頂葉や小脳白質でも有意に蓄積が増加していることが明らかになりました(図1右)。これにより、タウ蓄積が淡蒼球で持続的に増加するとともに大脳皮質や小脳へと広がっていくPSPの病態進行を、生体脳において可視化できることが示されました。

PSPに特徴的なタウ蓄積領域
図1.PSPに特徴的なタウ蓄積領域

 次に、PSPで最も典型的かつ頻度の高い病型であるリチャードソン症候群に着目し、タウ蓄積の経時変化と症状進行との関連を調べました。この病型は進行が速いことが知られており、本研究(18名)においても1年間でPSPの重症度を評価する指標であるPSP Rating Scale score5)の有意な上昇が認められました。

 解析の結果、淡蒼球におけるタウ蓄積の増加量が症状進行の程度と最も強く相関しており(図2左)、タウ蓄積のスピードが速いほど症状も速く進行することが示されました。さらに、患者ごとのタウ蓄積量と重症度の推移を解析したところ、淡蒼球のタウ蓄積量は、軽症から重症まで全経過を通じてPSPの症状進行を一貫して反映していました(図2右)。

淡蒼球におけるタウ蓄積の経時変化と症状進行との関係
図2.淡蒼球におけるタウ蓄積の経時変化と症状進行との関係

​ 本研究により、タウPETによる経時的な画像評価が、PSPの症状進行を客観的に評価できる新たな画像バイオマーカーとなる可能性が示されました。また、タウを標的とした治療によってタウ蓄積を抑制することが、症状進行の抑制につながる可能性を支持する結果であると考えられます。

今後の展開

 本研究により、生体脳においてタウ蓄積の進行と症状進行との関係を時空間的に捉えることが可能となり、これまで十分に把握することが難しかったPSPの病態メカニズムの解明が加速することが見込まれます。今回の解析ではPSPの症状全体の重症度を表す指標を用いて、タウ蓄積の増え方と症状進行との関係を検討しました。今後は、より多くの患者さんを長く追跡し、タウ蓄積の増え方が症状全体の進行や治療への反応をどの程度反映するかを検証するとともに、PSPにみられる多様な症状の変化をより詳しく捉えていくことが重要です。

 本研究で確立した画像評価法は、PSPの病状進行や治療効果を客観的に評価する指標として、タウを標的とした新規治療薬の開発や、その有効性を検証する臨床試験への活用が期待できます。さらに、本手法はPSPにとどまらず、タウが関与する他の神経変性疾患や認知症にも応用可能であり、これらの幅広い疾患の克服に向けた研究基盤として、診断・治療法の発展に貢献するものと考えられます。

謝辞

 本研究は、日本医療研究開発機構(AMED)脳神経科学統合プログラム「タウ・ネットワークマッピングとサル遺伝学的回路操作の融合による症状発現回路の特定と介入法の開発」(JP25wm0625307)、「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」(24wm0625001)、「PETをReference Standardとした認知症の背景病理を包括的に評価可能な血液バイオマーカーシステムの開発」(JP24wm0625505)、AMEDムーンショット型研究開発事業「グリア病態からセノインフラメーションへ発展する概念に基づく認知症発症機序の早期検出と制御」(JP24zf0127012)、科学技術振興機構(JST)ムーンショット型研究開発事業「臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて」(JPMJMS2024)、及びJSPS科研費(JP21K15705、JP22K15776、JP23H02825)による支援を受けて行われました。

用語解説

1)進行性核上性麻痺(Progressive Supranuclear Palsy: PSP)
歩行障害、転倒、眼球運動障害、姿勢保持障害などを特徴とする神経変性疾患です。脳内に異常なタウタンパク質が蓄積するタウオパチーの一つに分類されます。
2)タウタンパク質
神経細胞の構造を保つ役割を担うタンパク質です。アルツハイマー病や進行性核上性麻痺(PSP)などの神経変性疾患では、このタンパク質が異常に変化して凝集し、脳内に蓄積することが知られています。
3)タウPET
タウ病変に結合するPET薬剤を投与し、脳内のタウ蓄積を生体内で画像化する検査・研究手法です。
4)florzolotau(18F)(18F-PM-PBB3)
QSTが開発したタウPET薬剤です。PSPを含む多様なタウ病変を高感度に可視化することが期待されています。
5)PSP Rating Scale score
PSPの重症度を表すスコアです。歩行や眼球運動といった運動機能に加え、思考の柔軟性や記憶などの認知機能の両方を包括的に評価することで、PSPの全体的な症状の変化を捉えることができます。

【掲載論文】

タイトル:
Spatiotemporal Tau Accumulation and Its Clinical Impact on Progressive Supranuclear Palsy: Longitudinal Florzolotau (18F) Positron Emission Tomography

著者:
Yoshikazu Chishiki1),2), Kenji Tagai1), Yuko Kataoka1), Ryoji Goto1), Kenta Osawa1),2), Asaka Oyama1), Hideki Matsumoto1),3), Masanori Ichihashi1), Yuki Momota1), Tetsuji Kamada1), Chie Seki1), Kiwamu Matsuoka1), Kosei Hirata1), Shin Kurose1), Sho Moriguchi1), Yuki Komatsu1), Hideo Kato1), Yasuharu Yamamoto1), Yoshikazu Nakano2), Shigeki Hirano1),2), Hitoshi Shinotoh1),4), Hitoshi Shimada1),5), Tokahiko Tokuda1),6), Kazunori Kawamura7), Ming-Rong Zhang7), Keisuke Takahata1), Makoto Higuchi1),6), Hironobu Endo1)

著者所属:
1) Advanced Neuroimaging Center, Institute for Quantum Medical Science, National Institutes for Quantum Science and Technology (QST), Chiba, Japan
2) Department of Neurology, Chiba University Graduate School of Medicine, Chiba, Japan
3) Department of Oral and Maxillofacial Radiology, Tokyo Dental College, Tokyo, Japan
4) Neurology Clinic Chiba, Chiba, Japan
5) Department of Functional Neurology & Neurosurgery, Center for Integrated Human Brain Science, Brain Research Institute, Niigata University, Niigata, Japan
6) Department of Neuroetiology and Diagnostic Science, Osaka Metropolitan University Graduate School of Medicine, Osaka, Japan
7) Department of Advanced Nuclear Medicine Sciences, Institute for Quantum Medical Science, QST, Chiba, Japan

雑誌名:
Movement Disorders

DOI:
https://doi.org/10.1002/mds.70468