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プレスリリース

微生物は紫外線下で長期間生存可能:国際宇宙ステーション曝露実験

掲載日:2020年8月26日更新
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国際宇宙ステーションで2015年から実施された「たんぽぽ計画」で微生物を宇宙空間で紫外線照射下で3年間暴露した微生物の生存が測定され、微生物が火星と地球を移動する最短時間、生存可能であることが示された。この結果はパンスペルミア仮説を支持している。最初の生命はRNA生物であるという実験的証拠が集まっているが、生命の起原に関しては未知の部分が多い。地球で生命が誕生したのかどうかも分かっていない。生命が惑星間を移動可能であるならば、地球上の生命は火星で誕生した可能性もある。今後、火星探査により化石あるは現存する生命が発見されるなら、多くの情報が得られることになる。

概要

 「パンスペルミア」という仮説は、宇宙空間を生命が移動するのでは無いかという仮説である。この仮説を検証するため、東京薬科大学・国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構の山岸明彦名誉教授等の共同研究グループは、国際宇宙ステーション曝露部で放射線耐性微生物Deinococcus radiodurans (デイノコッカス・ラジオデュランス)を宇宙空間に3年間曝露する実験を「たんぽぽ計画」として実施した。本論文では、3年間暴露した微生物の生存の時間経過を測定することから、紫外線が当たった条件で数年、紫外線が当たっていない環境では数十年、微生物が生存可能であることを初めて検証した。自然現象での火星と地球の行き来には平均すると数百万年かかるが、移動する軌道によっては数ヶ月から数年で火星と地球の間を移動する場合がある。したがって、惑星間移動の他の過程(惑星からの脱出、移動の確率、他の惑星への着陸、他の惑星での増殖)の可能性を含めて考える必要があるものの、最短の移動時間を考えるなら、今回の微生物宇宙曝露実験で得られた結果は、火星と地球の間の移動の間、微生物が生存可能であることを示した。国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(量研)のQST未来ラボ宇宙量子環境研究グループの小平聡グループリーダー等は、3年にわたる宇宙放射線の計測・線量評価を担当し、放射線による生物影響の観点から貢献した。

 

論文公表時間 2020年8月26日13:00(日本時間) 06:00 AM(スイス時間).

 

研究の経過

 「たんぽぽ計画」は2007年国際宇宙ステーション(ISS)曝露部第二期利用計画共用ポート利用実験として採択された。その後、様々な検討の後JAXA(宇宙航空研究開発機構)と東京薬科大学の共同研究として2015年より、量研を含む26研究機関の参加を得て実施された(研究代表:山岸明彦)。本論文はISSで3年間実施された微生物曝露実験の結果を報告するものである。

研究の背景

 微生物が宇宙空間を移動するのではないかという仮説が100年以上前に提案され「パンスペルミア」とよばれている。これを検証するため、欧州とロシアの研究者によってISSで微生物の胞子を宇宙空間に曝露する実験が行われてきた。その結果、紫外線を遮断すれば胞子は長期間宇宙空間で生存できることが示された。その結果から、「リソパンスペルミア(リソは岩石の意)」が提唱された。

今回の成果

 本研究では放射線耐性菌デイノコッカスの菌体を塊として太陽紫外線の当たる宇宙空間に暴露し生存を調べた。その結果、この微生物が紫外線があった状態で数年、あたらない状態では数十年生存できることを明らかにした。火星と地球の間の移動は平均すると数千万年かかるが、最短で移動した場合には数ヶ月から数年で移動可能である。今回の結果は、微生物が紫外線に当たる条件でも火星と地球を移動する時間、生存可能で有ることをしめした。この過程は、マサパンスペルミア(マサは塊の意味)と呼んでいる。

研究の次段階

 今回の実験は地球周回低軌道(400km上空)で実施されたが、バンアレン帯の下であるので、放射線は防御されている。放射線耐性菌は放射線に対する強い耐性を持っているが、今後バンアレン帯の外側で微生物曝露実験を行えば、パンスペルミア仮説のより良い検証が可能なはずである。

研究の意義

 生命の起源は科学的最大の謎である。最近の研究からRNAワールドという考え方が提案されている。RNAワールドとは最初の生命が自然界で合成されたRNAが遺伝情報の複製を開始したという考え方である。沢山の不明点が残されているが、とりわけどの程度の頻度で生命が誕生するかについて科学者で大きな相違がある。生命は宇宙でただ一回誕生したという考えと、生命の誕生は容易で適当な環境があれば必ず生命が誕生するという考えの両方がある。もし、パンスペルミアが可能ならば宇宙での生命存在確率はどちらにしてもはるかに高い事になる。

研究の発展方向

 火星やその他の太陽系天体での生命探査が非常に大きな発展方向となる。もし地球外生命が発見されたなら、その生命がDNAを持っているか、もしもっているならAGCUTを持っているかを調べる。また、その生命がタンパク質を持っているか、もし持っているなら20種のアミノ酸をつかっているかを確かめる。これらを調べることから、生命の誕生が容易かどいうかの情報を得ることができる。その結果、太陽系外での生命探査、知的生命探査の容易さ困難さの情報をえることができる。

 

論文情報

https://www.frontiersin.org/articles/10.3389/fmicb.2020.02050/abstract

表題:DNA damage and survival time course of deinococcal cell pellets during three years of exposure to outer space

掲載雑誌:Frontiers in Microbiology           DOI: 10.3389/fmicb.2020.02050

著者

Yuko Kawaguchi1, Mio Shibuya1, Iori Kinoshita1, Jun Yatabe1, Issay Narumi2, Hiromi Shibata3, Risako Hayashi1, Daisuke Fujiwara1, Yuka Murano1, Hirofumi Hashimoto4, Eiichi Imai5, Satoshi Kodaira6, Yukio Uchihori6, Kazumichi Nakagawa3, Hajime Mita7, Shin-ichi Yokobori1, Akihiko Yamagishi1,4*

1 School of Life Sciences, Tokyo University of Pharmacy and Life Sciences, Hachioji, Tokyo, Japan

2 Faculty of Life Sciences, Toyo University, Itakura, Gunma, Japan

3 The Institute of Scientific and Industrial Research, Osaka University, Ibaraki, Osaka, Japan

4 Institute of Space and Astronautical Science, Japan Aerospace Exploration Agency (JAXA), Sagamihara, Kanagawa, Japan

5 Nagaoka University of Technology, Kamitomioka, Nagaoka, Niigata, Japan

6 National Institute of Radiological Sciences, National Institutes for Quantum and Radiological Science and Technology, Inage, Chiba, Japan

7 Department of Life, Environment and Applied Chemistry, Faculty of Engineering, Fukuoka Institute of Technology, Higashiku, Fukuoka, Japan

Abstract

The hypothesis called “panspermia” proposes an interplanetary transfer of life. Experiments have exposed extremophilic organisms to outer space to test microbe survivability and the panspermia hypothesis. Microbes inside shielding material with sufficient thickness to protect them from UV-irradiation can survive in space. This process has been called “lithopanspermia,” meaning rocky panspermia. We previously proposed sub-millimeter cell pellets (aggregates) could survive in the harsh space environment based on an on-ground laboratory experiment. To test our hypothesis, we placed dried cell pellets of the radioresistant bacteria Deinococcus spp. in aluminum plate wells in exposure panels attached to the outside of the International Space Station. We exposed microbial cell pellets with different thickness to space environments. The results indicated the importance of the aggregated form of cells for surviving in harsh space environment. We also analyzed the samples exposed to space from one to three years. The experimental design enabled us to get and extrapolate the survival time course to predict the survival time of D. radiodurans. Dried deinococcal cell pellets of 500 µm thickness were alive after three years of space exposure and repaired DNA damage at cultivation. Thus, cell pellets 1 mm in diameter have sufficient protection from UV and are estimated to endure the space environment for two to eight years, extrapolating the survival curve and considering the illumination efficiency of the space experiment. Comparison of the survival of different DNA repair-deficient mutants suggested that cell aggregates exposed in space for three years suffered DNA damage, which is most efficiently repaired by the uvrA gene and uvdE gene products which are responsible for nucleotide excision repair and UV-damage excision repair. Collectively, these results support the possibility of microbial cell aggregates (pellets) as an ark for interplanetary transfer of microbes within several years.

 

 

参考写真

国際宇宙ステーション(JAXA/NASA)

国際宇宙ステーション

 

宇宙曝露実験装置(たんぽぽチーム)

宇宙曝露実験装置(たんぽぽチーム)