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量子科学技術でつくる未来 未来のクルマ(連載記事 全6回)

掲載日:2022年7月21日更新
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連載企画「量子科学技術でつくる未来」(第49回ー第54回)について

量子科学技術研究開発機構が進める事業や研究開発を広く一般の方にご紹介するため、2021年5月から日刊工業新聞の「科学技術・大学」面にて毎週木曜日に「量子科学技術でつくる未来」を連載しています。

未来のクルマに関する連載(第49回ー第54回)では、地球環境を守るために脱炭素化をさまざまな要素から進めることが必要とされています。水素貯蔵材料や燃料電池触媒など、さまざまな装置・機器の要素となる「材料」の開発ついて紹介しています。記事内容を掲載しますので、ぜひご覧ください。

その他の連載については、こちらのページ(これまでの連載記事)に掲載していますので、ぜひご覧ください。

※新聞掲載版は各リンク先(日刊工業新聞HP)をご参照ください。

※日刊工業新聞社の承諾を得て掲載しております。
※新聞連載記事とは内容が一部異なる場合があります。


未来のクルマ 第6回
光電子分光を顕微化

顕微光電子分光 自動運転車などによるバリアフリー社会の実現にはスマート化を支える電子デバイスの高性能化が必要だ。デバイスの高性能化には、ノイズ源となる欠陥や不純物の特定、さらにはそれらの制御・除去が欠かせない。これまで、欠陥などの分析では、顕微手法による存在の検知と形状観察が主に行われてきた。

 しかし、最終的なデバイス特性に影響を与える、個々の欠陥などの周辺の「電子の性質」については不明だった。デバイス特性は、電気を運ぶ電子の性質(電子の密度や移動しやすさなど)に左右される。この電子の性質を精度良く分析できるのが光電子分光という計測手法だが、顕微観察性能がこれまでは不十分だった。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 次世代放射光施設整備開発センター 上席研究員 (併任)関西光科学研究所 放射光科学研究センター 岩澤 英明(いわさわ・ひであき)

■日刊工業新聞 2022年7月21日(連載第54回) 光電子分光を顕微化​

未来のクルマ 第5回
鉄表面の磁気構造解明

顕微磁気計測 未来の車社会では、人工知能(AI)が人に代わり目的地までの運転から駐車場での入出庫まで完全に自動運転しているだろう。これを実現する人工知能には、リアルタイム性が求められるため、超高速かつ低消費電力の記録デバイスが不可欠であり、そのカギを握るのが、物質中の電子が持つ「電荷(電気の素)」と「スピン(磁気の素)」の両方を利用する次世代「スピントロニクス」デバイスだ。

 現在応用が検討されているスピントロニクスデバイスは、さまざまな金属を厚さ数ナノメートル(ナノは10億分の1)で層状に積み重ねた多層膜構造をしている。このような多層膜デバイスでは表面および金属膜間界面近傍の磁気特性がその性能を決定する。そのため、表面や界面近傍の磁気特性を原子層レベルで正確に計測できれば、そのデータをデバイス設計に生かすことで、より早期の高性能デバイス開発の実現に繋がる。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 関西光科学研究所 放射光科学研究センター 磁性科学研究グループ 上席研究員 三井 隆也(みつい・たかや)

■日刊工業新聞 2022年7月14日(連載第53回) 鉄表面の磁気構造解明

未来のクルマ 第4回
水素貯蔵を低コスト化

水素化構造の模式図 水素社会実現のための課題の一つが、気体でかさばる水素の貯蔵の問題だ。このかさばる水素をコンパクト、かつ安全に蓄える技術の一つとして、水素吸蔵合金と呼ばれる材料を使う方法がある。この材料は水素原子を固体の金属原子間に吸蔵するため、気体の状態に比べて1000分の1程度の体積で水素を蓄えることができる。従来の水素吸蔵合金は水素と反応しやすいレアメタルが使われているため、高コストであることが課題となっている。

 量子科学技術研究開発機構(QST)では、水素と反応しやすいレアメタルを使わずに、水素と反応しにくい金属同士を組み合わせて水素吸蔵合金を作るという、常識にとらわれない新発想で材料開発を進めた。このような新発想を実現する上で、超高圧・高温の世界は、大気圧付近では想像できないような反応が進行する理想的な環境と言える。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 関西光科学研究所 放射光科学研究センター 高圧・応力科学研究グループリーダー 齋藤 寛之(さいとう・ひろゆき)

■日刊工業新聞 2022年7月7日(連載第52回) 水素貯蔵を低コスト化

未来のクルマ 第3回
燃料電池、低コスト・高出力

アニオン型燃料電池模式図 燃料電池自動車では、燃料の水素を空気中の酸素と反応させて発電する燃料電池が用いられ、その核となる材料が燃料電池膜(電解質膜)だ。現在流通している燃料電池は、「プロトン型」と呼ばれ、水素イオンであるプロトンが電解質膜を通って電極間を移動することによって発電する。しかし、電極触媒の白金が高コストであり、小型化のための高出力化も課題となっている。

 これらの課題を根本的に解決するものと期待されているのが、水酸化物イオンが電解質膜を通って発電する「アニオン型」燃料電池だ。「アニオン型」は電極触媒に廉価な鉄を使用でき、かつ高出力も得やすいが、実現には、高温アルカリ性雰囲気の動作環境でも分解しない電解質膜の開発を必要としている。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 高崎量子応用研究所 プロジェクト「高分子機能材料研究」 主幹研究員 吉村 公男(よしむら・きみお)

■日刊工業新聞 2022年6月30日(連載第51回) 燃料電池、低コスト・高出力

未来のクルマ 第2回
FCV普及、コストがカギ

電極触媒 水素エネルギーはカーボンニュートラル実現の切り札の一つだ。水素を使う燃料電池車(FCV)の普及拡大には、搭載する固体高分子形燃料電池(PEFC)のコスト低減が不可欠であり、そのカギを握るのがPEFC酸素極の酸素還元反応(ORR)触媒という材料だ。量子科学技術研究開発機構(QST)では、量子ビームの一つであるイオンビームを照射した炭素材料に貴金属である白金(Pt)を保持させる新手法を開発し、その性能を2倍以上向上させることに成功した。

 現在のORR触媒には、Pt微粒子を炭素材料に保持させた「Pt微粒子/炭素材料」が大量に必要なため、PEFCのコストは依然として高く、FCVの市場普及がなかなか進まない。Pt使用量を削減してコストを低減するには、ORR活性と耐久性の向上が技術課題と言われている。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 研究企画部長
(併任)高崎量子応用研究所 プロジェクト「先進触媒研究」リーダー 八巻 徹也(やまき・てつや)

■日刊工業新聞 2022年6月23日(連載第50回) FCV普及、コストがカギ

未来のクルマ 第1回
量子ビームで材料開発

磁気分析装置 未来のクルマでは、地球環境を守るために脱炭素化をさまざまな要素から進めることが必要だ。そのため、量子科学技術研究開発機構(QST)では水素貯蔵材料や燃料電池触媒など、さまざまな装置・機器の要素となる「材料」の開発を、「量子ビーム」を用いたユニークな方法で行っている。

 最近、水素貯蔵材料探索では、資源量豊富な金属でかつ難水素化金属の代表でもあるアルミニウムと鉄を組み合わせた合金で水素が蓄えられることを発見し、従来必要としていたレアメタルを使わない新材料の実現の扉を開いた。この発見は、量子ビームの一つである放射光X線という強力なX線ビームで、日常とはかけ離れた高温高圧の世界を見ることによってもたらされたものだ。​​→続き

執筆者:量子科学技術研究開発機構 量子ビーム科学部門 関西光科学研究所 放射光科学研究センター長 綿貫 徹(わたぬき・てつ)

■日刊工業新聞 2022年6月16日(連載第49回) 量子ビームで材料開発