現在地
Home > 分類でさがす > お知らせ・ご案内 > その他 > 量子技術基盤 > > 光による量子制御 第7回 軟X線レーザーで超微細加工

光による量子制御 第7回 軟X線レーザーで超微細加工

掲載日:2023年6月8日更新
印刷用ページを表示

光による量子制御
第7回 軟X線レーザーで超微細加工

スマート社会に貢献

 情報化社会を支える情報通信技術やスマート社会の基盤をつかさどる人工知能技術などを利用するための手段として、パソコンやスマートフォンなどの電子機器が活用されている。量子コンピュータが実用化されるころには、社会に流れる情報量は今よりも飛躍的に増大するだろう。電子情報機器に求められる処理性能はますます向上することになる。

 電子デバイスの要となる半導体回路は、微細化によって性能が向上してきた。その製造には、原図の回路パターンをシリコンウェハ上に縮小露光するリソグラフィ技術が利用されている。シリコンウェハ上に塗布した感光材料に焼き付けた後、化学処理を施すことで目的とするパターンを得ている。電子回路の微細化に対応するため、リソグラフィの露光波長の短波長化が進み、現在は波長13.5ナノメートルの極端紫外線を使ったEUVリソグラフィ(本連載シリーズ第5回(5月25日)掲載)が最先端技術として実用化されている。

 その一方で、EUVリソグラフィと同様の波長をもつ軟X線レーザーを使って、ナノメートルスケールの構造体を材料表面に直接加工することも可能となりつつある。高出力レーザーを物質表面に集光すると、照射部が気化・蒸発し、表面から原子や分子などが飛散する「アブレーション」が起こる。軟X線レーザーによるアブレーションを表面加工に応用すれば、リソグラフィで必須の化学処理を行うことなしに、低環境負荷でナノメートルスケールの高精細な電子回路を基板表面に直接形成する加工技術の実現が期待される。

 量子科学技術研究開発機構では、軟X線レーザーを用いて物質表面にナノメートルスケールのパターンを直接形成するX線超微細加工技術の開発研究を行っている。これまでにシリコン表面に2ナノメートルの深さをもつ穴構造の直接加工を実現している。さらに技術開発を進めることで、物質表面にナノメートルの「量子サイズ」の構造物を加工することや、軟X線レーザーのもつ可干渉性を活用して電子回路などのナノパターンを一括描画する加工技術も実現できる可能性も秘めている。量子科学技術の発展とともにスマート社会を支える基盤技術となる超微細加工の技術開発を進めている。

アブレーションによる直接加工の概念図

執筆者略歴

量子科学技術研究開発機構(QST)
​量子技術基盤研究部門
関西光量子科学研究所
量子応用光学研究部
X線超微細加工技術研究プロジェクト
プロジェクトリーダー

石野 雅彦(いしの・まさひこ)

第97回著者

軟X線光学素子と軟X線顕微鏡の開発を経て、現在は軟X線レーザーの利用研究に従事している。研究の対象が変わっても、ナノメートルが一貫した研究のキーワードとなっている。博士(工学)。


本記事は、日刊工業新聞 2023年6月8日号に掲載されました。

■日刊工業新聞 量子科学技術でつくる未来(97)光による量子制御 軟X線レーザーで超微細加工(2023/6/8 科学技術・大学)