放射性核種の製造は、大きく分けて「ターゲットの照射」と「生成核種の分離精製」の2工程に分けられます。まず、ターゲットとなる物質に対して、加速器を用いてビームを照射することで核反応を起こし、核種を生成します。この際に、ターゲットの化学種・形態、成形方法、ビーム照射野への設置方法、ビーム発熱に対する冷却機能など、様々な技術的課題を解決していく必要があります。次に、照射したターゲットから核種を単離するために、化学分離を行います。目的の化学形で、高純度の核種を、高収率で得られるように、スキームを構築していきます。また全体を通して、作業者の負担を減らすために、機械による遠隔操作・自動化していくことも重要です。
当グループでは、様々な物性・形態をもったターゲット物質の照射に対応し、多種多様な核種の製造を実践できるように、独自の照射装置やターゲット容器、分離精製スキーム、遠隔操作システム等の開発を行っています。

(1) 照射が難しい物質を安全かつ効率的に照射するための技術開発
一般的な照射に用いられるターゲット物質は、フォイル、あるいは密封された気体・液体であり、低融点・揮発性物質、粉粒体などの照射は困難となっています。我々は、そのような難照射物質を安全かつ容易に照射できるように、垂直照射装置やセラミックターゲット容器をはじめとする独自の照射装置やターゲット容器の開発を行っています。1), 2), 3) これらの技術により、粉粒体を成形することなく、そのまま照射に用いることができます。必要に応じて、電着、融解固化、圧着等の成形処理を行うこともあります。
1) Nagatsu et al. Appl Radiat Isotopes 94, 363–371 (2014)
2) Nagatsu et al. Nucl Med Biol 39(8), 1281–1285 (2012)
3) Nagatsu et al. Appl Radiat Isotopes 69(1), 146–157 (2011)
(2) 照射したターゲットから生成核種を精製するための分離法開発
ターゲット内に生成した核種を放射性医薬品の調製に使用するためには、化学的な分離・精製を行い、単離する必要があります。目的の化学形で、高純度の核種を、高収率で得られるように、乾式蒸留、湿式でのクロマトグラフィー・抽出などの化学分離法に基づきスキームを構築していきます。多くの場合は、ターゲットから目的核種を直接生成し、分離精製後に薬剤合成へと用いています。その他に、カラムに保持した親核種の放射性崩壊によって生ずる娘核種を、簡単な溶出操作で繰返し得ることができる装置(ジェネレーター)の開発も行っています。
(3) Ac-225の製造法開発・スケールアップ
核医学治療に長年用いられてきたβ–線を上回る治療効果が見込まれるとして、近年α線が注目されています。候補核種の1つである、225Ac(半減期:10日)の需要は瞬く間に急増し、臨床応用が進むに伴い、年々入手困難になっています。我々はこれまでに、226Raターゲットを用いた225Ac製造法の確立に成功しており、現在は臨床レベルでの需要―数十MBqオーダーの製造量に対応できるように,製造工程の改良,遠隔自動化を進めています。
4) Nagatsu et al. EJNMMI 49, 279–289 (2021)
(4) 大量製造に対応した遠隔操作システムの開発
臨床利用されるGBqオーダーの放射能をルーチン的に製造するために、製造工程を遠隔自動化するハンドリング機器の開発・整備も行っています。64Cuの製造では、遠隔操作アームを用いて、照射された64Niターゲットを照射装置から回収できるようになっています。ターゲットはトロッコでホットセル内部まで自動搬送されるため、作業者の負担はほとんどありません。ホットセル内で遠隔操作により分離精製され、標識合成に利用されています。