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理事長室へようこそ

 就任のご挨拶

理事長写真 この度、文部科学大臣より国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構(QST)の理事長に任命されました。2016年4月に発足したQSTは、平野俊夫初代理事長のもと、「調和ある多様性の創造」を基本理念に掲げて量子科学技術分野の研究開発に取り組んできました。創生期であった第1期中長期期間より第2期中長期計画へとそのバトンを受け、身の引き締まる思いです。​ 

 現代は地球レベルで早急に解決が求められる課題が山積する大変難しい時代です。これまでの人類の活動が海洋汚染や気候変動などを通じて食糧・水・感染症・大災害などへの問題に繋がり、人類の未来に警鐘が鳴らされています。資源の枯渇や生物多様性の喪失など、地球の豊かさも失われつつあります。加えて、国際緊張や社会の分断など、人類が力を合わせてこれらの課題に取り組むことに対する障害も生じています。科学に携わる私たちには、持続可能な循環型地球社会を目指し、科学によって課題を解決する使命があります。40年以上にわたり科学者として真理を探究してきた私は科学の力を信じます。

 QSTが取り組む量子科学技術は、約百年前に誕生した量子力学を基盤としています。ナノサイズより小さい世界における量子の奇妙な振る舞いを理解し操作することで、物質の理解を進めて全く新しい物質を創製し、新規の測定を通してこれまで見ることができなかったものを観ることなどができます。量子科学技術によってニュートン力学では説明のできない世界を理解し、新規物質探索、情報通信、エネルギー等の分野のみならず、環境科学、生命科学、医療においても従来技術を越えた新しい展開を可能にすることで、人々の暮らしや社会の発展に役立つことが期待されています。​

 国の「量子技術イノベーション戦略」において、量子技術は経済・社会等を飛躍的・非連続的に発展させる革新技術と位置付けられています。国際的な研究開発拠点としてその推進を担い、基礎研究から社会実装まで取り組む「量子技術イノベ—ション拠点」の枠組みにおいて、QSTが「量子生命拠点」と「量子機能創製拠点」に指定されていることはQSTに対する期待の表れと受け止めています。これらの拠点では、量子技術と生命科学や医療を結びつけた量子生命技術の利用や、量子デバイスの基幹材料である量子マテリアルの研究開発を推進しています。医学・医療の分野では、重粒子線を活用したがん治療、認知症の診断などに役立つイメージング技術、標的アイソトープ治療などにより健康・長寿社会の実現に貢献することを目指しています。また、QSTは基幹高度被ばく医療支援センターに指定され、被ばく医療に関する技術開発や人材育成に取り組んでいます。カーボンニュートラルに向けては、「地上に太陽を!」を合い言葉にフュージョンエネルギー(水素融合)発電によるエネルギー問題の解決に向けた研究開発を進めています。量子ビームの発生技術は3GeV高輝度放射光施設NanoTerasuに活かされ、革新的な材料やデバイスの創製・産業応用がまもなく始まります。量子技術を活かした異分野との連携による新たな研究分野の開拓もQSTの使命です。研究成果を確実に社会に導出すべく、研究活動を通じて新たな価値を創出・提供し、健康長寿社会の実現、持続可能な環境・エネルギーの実現、さらにこれを支える人材育成に貢献します。目指すべき持続可能な循環型地球社会という未来社会像に向けて、自然科学のみならず、人文・社会科学も含めた「総合知」も活用しながら活動します。​

 QSTは設立間もない時に「QST未来戦略2016」において目指すべき未来ビジョンと戦略を掲げ、量子科学技術によって超スマート社会、Society5.0の実現に貢献することを高らかに謳いました。そして第1期中長期期間の最終年度であった昨年には「QST未来戦略2022」をとりまとめ、第2期中長期計画からさらに10年後、20年後の姿を思い描いた未来ビジョンと戦略を公表しました。第2期中長期期間では、第1期中長期期間で確立した量子科学技術研究開発基盤をさらに強固にし、しっかりと量子科学技術分野の研究成果を創出、社会の期待に応えられるよう、全力で活動してQSTの新たな歴史を​​​創りあげていく所存です。皆さまのご支援、ご協力をよろしくお願いいたします。​

 令和5年4月1日

国立研究開発法人 量子科学技術研究開発機構

理事長​ 小安重夫