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第1回量子生命科学研究会 開会挨拶

掲載日:2018年12月26日更新
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量子科学技術研究開発機構(量研、QST)の理事長の平野俊夫でございます。
第1回量子生命科学研究会の開会に先立ち、一言ご挨拶申し上げます。

本日は、ご来賓の文部科学省科学技術・学術政策局 局長 伊藤洋一様、研究振興局 ライフサイエンス課長の永井雅規様、量子研究推進室長の上田光幸様をお迎えし、このような会を開催させて頂けることを大変うれしく思っております。

量研/QSTは、昨年4月に、放射線医学総合研究所と、日本原子力研究開発機構の量子ビーム応用研究部門、核融合研究開発部門が統合し、量子科学技術という新しいサイエンスの領域を拓く国立研究開発法人として発足いたしました。量研/QSTは、量子科学技術による「調和ある多様性の創造」により我が国の発展はもとより、平和で心豊かな人類社会の発展に貢献することを理念としております。

さて、第5期科学技術基本計画には、「光・量子技術」が1つの戦略目標として挙げられています。 量子科学は量子論や量子力学と密接に関係しております。私たちの生活には量子科学技術が広く利用されており、半導体を利用した電子機器や携帯電話、パソコン、DVDやCD、リニアモーターカー、超伝導技術を利用した核融合はその代表格です。量研/QSTでは、量子科学技術を基盤として、未来を開く核融合エネルギーの研究開発、革新的機能を有する材料・物質研究開発、がんや認知症などの診断や治療に関する研究開発を推進し、人間が人間らしく、健康で活き活きと豊かに生活できる超スマート社会の実現に貢献したいと考えております。

ご存知のように20世紀の物理学は、それまでの古典物理学から、アインシュタインによる相対性理論と、プランク、ボーアやシュレディンガーなどが確立した原子・素粒子レベルの物理学すなわち量子物理学へと大転換しました。一方、生物学も20世紀に大きく進歩しました。地球には、1000万種を超える形も大きさも異なる多種多様な生物が存在します。形が全く異なるにもかかわらず、共通して、細胞という小さな部屋から成り立っていることが17世紀に明らかになり、当時の人を驚かせました。19世紀になってメンデルやド・フリースらにより遺伝子の存在が予言され、20世紀にはオズワルド・アベリーによりその本体がDNAであること、そしてワトソン、クリックによってDNAが二重らせん構造であることが発表され、分子生物学が幕を開けました。その後、DNA複製、転写、翻訳の機構、細胞内小器官の役割などが明らかになり、発生や代謝、免疫などのメカニズムも分子レベルで明らかとなり、20世紀はまさに分子生物学の時代でした。

これらの生命科学の流れ、すなわち個体レベルから細胞レベル、そして分子や遺伝子レベルの研究への変遷は、歴史上の、光学顕微鏡やX線結晶解析あるいは電子顕微鏡などの観測技術の発展と切り離すことはできません。近年、量子センサーや量子ドット、高性能の光・量子技術を用いたナノイメージング技術が発展し、たとえばたった1つの細胞で、従来測ることのできなかった細胞内の温度や電流、磁場などの測定が可能になりつつあります。こうした最先端の量子科学技術を用いた計測や観察技術が生命科学にも応用できる環境が整いつつあることは、新しい生命科学、「量子生命科学」の胎動を予感させます。すなわち、21世紀は分子レベルから量子レベル研究への生命科学のパラダイムシフトが起こるとともに、生命の新しい仕組みが解明されることが期待されます。

また、生体内の分子の立体構造やダイナミクス、機能を理解するには、電子の相互作用やふるまいを量子化学的に理解することが不可欠です。さらには、今世紀に入って、いくつかの生命現象の中に、量子効果が関与していることが示唆されつつあります。例えば、光合成によるエネルギー獲得や、鳥の渡りに不可欠の磁気コンパスなどには、光や電子のエネルギーの受け渡しやスピンといった量子の特性が利用されていることが推測されています。これらのことは、生命科学の分野においても、量子論の視点が重要であることを示しています。

量研/QSTでは、昨年度より、内部の量子科学技術研究グループと放射線医学などの生命・医学分野の研究者が集まり量子科学技術と生命科学・医学との融合研究の可能性を検討してきました。これらの研究会には量研/QST外の研究者にも参加いただきました。さらに量研内に量子生命科学を志向する理工系の研究者と生命・医学系の研究者により構成されるバーチャルラボを組織して量子生命科学推進の可能性を検討してきました。

このようなタイミングで、3月10日に発表された科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業の平成29年度戦略の5目標の1つに「量子技術の適用による生体センシングの革新と生体分子の動態及び相互作用の解明」が選ばれました。そこでは、「最新の量子技術と生命科学研究をつなげ、生命科学のフロンティアを開拓することを目的とする」とあります。

一方、海外に目を向けますと、2012年に英国で初めての量子生命科学に関する国際会議が開催されたことに端を発し、英国政府のNational Quantum Technologies Programmeや欧州委員会のQuantum Flagshipにも生命科学と量子科学技術との融合が明記されていますし、ドイツではシュツットガルト大学とウルム大学にそれぞれ、量子センサー及び量子生物学を強化する研究センターが設置される予定と聞いています。

このように、量子生命科学はまさに、今、日本だけでなく世界的にも立ち上がり始めたばかりであり、今回、第1回量子生命科学研究会が開催されることは、時宜を得たものと考えております。また、量研/QSTでは、この7月に第一回国際シンポジウムを開催しますが、そのテーマとして量子生命科学を取り上げました。海外から12名、国内から9名の講演者をお呼びして日本における初めての量子生命科学の国際シンポジウムを今年の7月25、26日に千葉の幕張で開催する予定です。そちらにも是非参加していただき、この分野を活発に盛り上げていただきたいと思います。

本日は、量子生命科学研究において我が国の一線でご活躍の先生をお呼びし、この分野の最先端の研究の紹介ならびに将来展望について活発にご議論いただけることと期待しております。ご参加された研究者のみなさまにとっても、量子生命科学の幕開けにおいて、生命を新しい量子の目でみる化学反応の場となることを期待して、開会の挨拶とさせていただきます。

国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
理事長 平野 俊夫

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