現在地
Home > 理事長室へようこそ > 安全担保 太陽に依存しない 水素融合エネルギー

理事長室へようこそ

安全担保 太陽に依存しない 水素融合エネルギー

掲載日:2022年3月9日更新
印刷用ページを表示

日刊工業新聞 2021年11月22日 「卓見異見」

4波で化石へ大転換

 水素には色がついている。太陽光発電など二酸化炭素(CO2)を排出しないエネルギーで作られる水素はグリーン、化石燃料から作られる水素で、副産物のCO2を回収するものはブルーと呼ばれている。一方、水素には、これらと全く異なる色合いがある。重水素と三重水素の核融合反応でエネルギーを取り出す水素融合だ。太陽のエネルギー源と同じで、CO2を排出しない。色をつけるとするとオレンジであろうか。

 エネルギーには再生可能エネルギーや化石燃料などの一次エネルギーと、一次エネルギーに依存した水素や電気などの二次エネルギーがある。また、一次エネルギーは太陽エネルギーに依存するものと依存しないものに分類できる。

人類共通語イーター

 人類の歴史を一次エネルギーの観点から振り返ると、第一の波の20万年間は森林エネルギーを使用していた。第二、第三の波ではこれに加えて、家畜エネルギーなどの代謝エネルギー、水車や風車を使う自然エネルギー、今で言う再生エネを使っていた。これらはすべてほぼリアルタイム(リアルタイムから数十年単位の時間軸)で、太陽エネルギーに依存している。

 18世紀に始まった第四の波では、石炭や石油などの化石エネルギーへの大転換が生じた。これらは何億年もかけて太陽エネルギーが化石という形で蓄積されたもので、安定的で用途が柔軟な画期的なエネルギー革命をもたらした。

 現在注目を浴びている再生エネはリアルタイム太陽エネルギーという観点からは、昔の水車や風車と基本的には同じだ。再生エネ100%では、6500万年前に恐竜など多くの生命の絶滅が生じた巨大隕石の地球激突のような事が生じれば人類はエネルギー危機にさらされる。巨大火山が噴火しても一定の地域は数年間、再生エネを使えなくなる。たとえ、水素や蓄電池に一時的に蓄えても再生エネのみでは危機対応は難しい。

 宇宙時代を考えると太陽に依存しないエネルギー革命が必要だ。核分裂反応でエネルギーを取り出す原子力発電は太陽に依存しないという点で革命だ。しかし、原発事故や高レベル放射性廃棄物の処理などさまざまな問題があり、過渡期のエネルギーと考えられる。

 現在、実現可能である太陽エネルギーに依存しない一次エネルギーで、持続性や安全性が担保されているのは先述の水素融合(核融合)エネルギーしかない。量子科学技術研究開発機構(QST)はわが国の水素融合の中核的研究開発機関で、世界7極と共同で水素融合実験炉をフランスで作っている。現在、日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極で2025年実験炉完成を目指すITER(イーター)計画が推進されている。多様性の壁を乗り越えて、ITERという人類共通言語を介して「調和ある多様性の創造」が現実に進行している。

 水素融合反応は維持することが難しく、擾乱が起きても直ちに止るので安全である。高レベル放射性廃棄物は処理するのに10万年間人類の生活環境から隔離する必要があるが、水素融合では、現世代の人類が管理できる程度の低レベル放射性廃棄物しか出ない。

40年代に原型炉完成

 さらに燃料は重水素と三重水素を作るためのリチウムで、どちらも海水にありほぼ無尽蔵だ。夢のエネルギーと言われていたが、順調に行けば40年代には電気出力60数万キロワット規模の水素融合エネルギー原型炉が完成し、商業炉が50年以降に世界中で稼働する。

 現在推進されている再生エネは、原子力発電と同じくCO2排出ゼロという観点からは重要だが、両者には前述の弱点がある。宇宙時代も見据えてエネルギーの歴史の大きな流れを考えると、安全で持続可能なエネルギーである水素融合エネルギーなどの太陽に依存しないエネルギー革命に行き着く。すなわち太陽からの独立だ。

 13日に閉幕した国連の気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)で、初めて水素融合発電が議論され、早期実現への期待が高まりつつある。