関西光科学研究所 >> プレス発表 >> レーザーによるコンパクトながん治療装置開発のための重要な技術を発見 ―陽子線によるがん治療装置の小型普及化に向けて―
プレス発表
平成18年4月3日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
日本原子力研究開発機構(理事長 殿塚 猷一 以下「原子力機構」)は、がん患者の体への負担が少ない画期的な治療法とされる陽子線治療装置をコンパクトで安価に提供できるようにするために、レーザーによる陽子の加速方法の研究を行っている。この度、その加速を最適に行うための重要な条件を発見した。これはレーザーの強度に合わせて照射するターゲットを最適な厚みにすることにより達成されるもので、この発見により加速に必要なレーザー強度をこれまで考えられていたものより軽減できることがわかった。本成果は小型の陽子線がん治療装置の開発に弾みを付けるものである。本研究は一部、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業(CREST)より資金を得て行ったもので、量子ビーム応用研究部門のティムル・エシロケポフ(Timur Esirkepov、任期付研究員)、田島 俊樹(関西光科学研究所所長)、山極 満(光量子シミュレーション研究グループリーダー)による研究成果である。
レーザーの強い光を利用した加速方法は、通常の大型加速器に比べて加速する能力が著しく高いため、既存の施設より格段にコンパクトなもの(1/10~1/100)にできるという魅力を有している。このため今日世界中でペタワット1)に迫る大出力レーザーによる陽子加速実験が精力的に行われている。しかしながら、先端的レーザー技術の粋を集めた方法であるため、種々の条件を調整するための高度なノウハウが必要でありレーザーの微妙な条件やミクロン程度の厚みのターゲットのデザインなどの最適条件を見つけるには、実験研究のみでは不足である。そこで本研究では最適条件を見つけるためのシミュレーションプログラムを開発し、原子力機構が保有するスーパーコンピューターを用いて最適なレーザー 照射条件を克明に調べることを可能とした。レーザー光をターゲットに照射したとき、ターゲットから発生する陽子の最大エネルギーを予測し、それがレーザーパルスやターゲットにどのように依存するかを探った。その結果、レーザーパルスと陽子の発生源となる薄膜ターゲットとの条件を選ぶことにより、これまで予想されていたより低いレーザー強度で深部 がん治療に必要な200MeV2)領域の陽子エネルギーを作り出せる可能性を見いだした。
この成果により、陽子エネルギー発生のトリガーとなるレーザー強度を低くできることから、レーザー駆動がん治療装置の実現に大きく近づいたことになる。原子力機構では医学界と連携し、より一層合理的な実験パラメーターを求める研究を進め、小型のレーザー駆動がん治療装置の実現にむけたレーザーシステムの開発を進める。
本成果は、3月14日に米国物理学会誌「Physical Review Letters」電子版に掲載された。
詳細は下記をご参照ください。(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構のサイトへリンク)
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