関西光科学研究所 >> プレス発表 >> 飛翔鏡「光速で進行するプラズマで創られた鏡」を実証 ―超高強度場科学へのブレークスルーへ―
プレス発表
平成19年9月18日
独立行政法人日本原子力研究開発機構
独立行政法人日本原子力研究開発機構(理事長 岡崎 俊雄 以下「原子力機構」と言う)の量子ビーム応用研究部門 レーザー電子加速研究グループの神門研究副主幹らによる研究チームは、高強度レーザーを用いて、ほぼ光速で進行する「飛翔鏡(プラズマで形成される鏡)(以下「鏡」と言う)1)」を作り出し、この「鏡」にレーザー光を反射させることで、レーザー光の周波数2)の大幅増大に成功しました。これは、アインシュタインが提唱した相対性理論3)での思考実験を世界で初めて実証したものです。
相対性理論では、光が「鏡」によって反射された時にその周波数が増加することが予測されていましたが、今までは、ほぼ光速で移動して、かつ反射率の良い「鏡」をどのように作ればよいのかが分かっていませんでした。
これに対して原子力機構の研究チームは、強力なレーザー光によりプラズマ中に航跡波4)と呼ばれる電子のかたまりを作り出し、これをアインシュタインが言う光速で飛ぶ「鏡」として用いる実験を行いました。この10μm程度の大きさの「鏡」にレーザー光を精密に衝突させた結果、この「鏡」からの反射光の観測に世界で初めて成功するとともに、相対性理論の予測どおり、この反射光の周波数はもとの光に比べて約60倍に増大し、もともと赤外光5)であったものが紫外光5)になっていることを確認しました。これにより相対性理論で言う「鏡」が実現したことが確認できました。
今後、この「鏡」を凹面鏡として用いれば、反射するレーザー光のビーム径を小さく絞って集光強度を飛躍的に高めることが可能となります。それは、素粒子物理学や宇宙物理学に貢献するばかりでなく、真空を破壊するような超高強度場科学などの物理学の新分野を切り拓く有力な実証の場として今後の成果が期待されます。
また、この「鏡」の反射によってアト秒(アトは10の18乗分の1=1百京分の1を表わす)という短パルス6)の波長可変7)のX線を作り出すことも可能となるため、原子や分子レベルでの超高速現象の観測や制御のための新規ツールとしても開発が期待されます。
なお、本研究成果は、2007年9月28日に発行される米国物理学会誌Physical Review Letters (M. Kando et al.)の電子版(2007年9月26日(現地時間))に掲載予定です。
詳細は下記をご参照ください。(国立研究開発法人日本原子力研究開発機構のサイトへリンク)
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