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NanoTerasu Center

高エネルギー放射線と物質の相互作用に関する研究/R&D (Fundamental Technology Group)

掲載日:2025年7月3日更新
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シミュレーションと実測の二刀流で、次世代放射光施設の安全と性能を支える 

基盤技術グループでは、高精度なシミュレーションや放射線実験、検出器・測定技術開発などを通して、NanoTerasuにおける放射線管理の高度化や放射線に関する基礎研究を進めています。ここでは我々の主要テーマの一つである「ガス制動放射線」に関する取り組みについて紹介します。

 

ガス制動放射線とは?

放射光施設で必ず発生する放射線のひとつにガス制動放射線があります。ガス制動放射線とは、蓄積リング内の残留ガス1と蓄積された高速の電子との相互作用によって起こる制動放射線2で、実験でユーザーに使用される放射光と同じ方向に強く発生します。NanoTerasuの電子ビームは低エミッタンス、大電流を誇りますが、その分、放射光のみならずガス制動放射線の輝度も上がってしまいます。そのため、その実態の把握および遮蔽による管理は、実験ホール側でのユーザーや実験機器の安全、質の高い放射光実験にとって重要です。


 1 蓄積リングのダクト内の気圧は超高真空のレベルに保たれていますが、ゼロにはなりません。水素分子など空気より軽い気体がより高い割合で残留する傾向にあります。
 2 高速で運動する電子が原子核の近傍の強い電場で急激に曲げられることで発生する光で、その最高エネルギーは電子の運動エネルギー ( = 3 GeV) と等しくなります。

見えない放射線を「予測する」― 解析式やシミュレーションによる研究と遮蔽設計

NanoTerasuを建設するにあたって、発生するガス制動放射線を正確に評価することは重要な課題でした。我々はまず、従来のガス制動放射線のエネルギースペクトルを表す解析式を、より現実の気体組成に近似できる表現に拡張し、モンテカルロシミュレーションや他施設での実測値とよく一致することを示しました3。また、実際の遮蔽設計においては、この解析式やPHITS4による現実の設計を取り入れたシミュレーションを用いて光学ハッチでの遮蔽を評価し、実験ホール全体を非放射線管理区域化として安全に運用できることを示しました5。これは、放射光施設における利便性と安全性を両立させる大きな一歩です。

3 A. Takeuchi et al., “Estimation of Absorbed Dose Due to Gas Bremsstrahlung Based on Residual Gas in Electron Storage Rings”, Nucl. Sci. Eng., 198, 348–357 (2023).
4 あらゆる物質中での様々な放射線挙動を核反応モデルや核データなどを用いて模擬するモンテカルロ計算コード。
5 H. Matsuda et al., “Shielding design of NanoTerasu for gas bremsstrahlung and photonuclear reaction”, J. Nucl. Sci. Technol., 61, 218–223 (2024).

見えない放射線を「視る」― ガス制動放射線の実測

NanoTerasuが本格運用を開始した今、我々はガス制動放射線の直接測定のための実験環境を構築しています。ガス制動放射線は人の目では見えませんが、放射線に感度を持つCsI (Tl) シンチレーション検出器を蓄積リングトンネル内に複数配置し、実際に飛来するガス制動放射線を捉えています。3 GeVに近い放射線がCsI結晶に入射すると、多数の電子陽電子対生成–制動放射が繰り返す電磁カスケードを起こすため、CsI検出器での実測データは電磁カスケードを再現するシミュレーションと照らし合わせて評価することがとても重要で、慎重に進めています。 “視る”技術による未知の放射線の実態把握は、安全性向上だけでなく、放射光利用の質の向上にもつながると我々は考えています。

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図: ガス制動放射線測定例

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