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プレスリリース

JT-60SA 統合試験運転の再開について ~今年秋の初プラズマ達成に向けて~

掲載日:2023年6月5日更新
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 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長小安重夫。以下「QST」という。)とFusion for Energy
(欧州連合が設立した事業体。代表 マーク・ラシェーズ。以下「F4E」という。)は、日欧共同で実施している
幅広いアプローチ(BA)活動等を通じて、JT-60SA※1の改修を進めてきましたが、今般、その改修を完了して統合試験運転※2を令和5年5月30日(火)より再開しましたので、ご報告します。

JT-60SA前景
JT-60SA全景

 JT-60SAは、フュージョンエネルギーの早期実現を目指し、イーター計画※3と並行して日欧が共同で建設した
超伝導のトカマク型※4の実験装置です。
 JT-60SAは、令和3年3月に発生した、クライオスタット※5内での超伝導コイル本体と電路※6をつなぐコ
イル接続部※7の絶縁損傷のため、統合試験運転を中断していました。以降、実施したリスク評価に基づき、
超伝導コイルへの絶縁損傷を最小限に留められるように大幅な改修を実施してきました。具体的には、損傷
した接続部に加え、損傷はないものの同等の構造を有する箇所や構造の異なる同種の箇所について徹底した
品質管理の下で改修を実施し、通常運転とは異なる事象が発生した場合においても、コイルの損傷を抑える
ための絶縁強化を行いました。また、絶縁損傷に至らないための対策として、超伝導コイルにかかる電圧抑
制のための電源設備の改造、クライオスタット内の真空状態を監視するセンサーの導入とこれによるインタ
ーロック※8の高速化を実施してきました。
 これらの改修作業により、JT-60SAが初プラズマを達成するために必要な性能を確保できたため、統合試
験運転を再開したものです。統合試験運転は、既に開始した真空排気運転、その後の超伝導コイル冷却、通
電試験等を経て、複雑なJT-60SAの全てのシステムが設計どおりに連携して機能することを実証するのが目
的であり、その中で、今年秋の初プラズマ達成を目指します。
QSTとF4Eは、今回得られた知見をイーター及び将来の原型炉に生かすとともに、フュージョンエネルギ
ーの早期実現に向けて、引き続き積極的に取り組んでいきます。

用語解説

※1…JT-60SA(JT-60 Super Advanced)

幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大の超伝導トカマク装置となります。その目的は、イーターの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたイーターの補完研究、人材育成です。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導磁石を使用して1億度にも達するプラズマを閉じ込めます。
URL:https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html (日本語)

※2…統合試験運転

 JT-60SAの動作を確認するために行う一連の運転。具体的には、JT-60SAの真空排気・リーク試験から始まり、超伝導コイルの冷却と通電試験、その後実際にプラズマを発生させ、その制御も含めて、JT-60SA全体の動作を確認する一連の運転を指します。

※3…イーター(ITER)計画

 日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極の国際協力の下、その建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する計画であり、50万キロワットのフュージョンエネルギーを得る予定です。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、プロジェクト実施のための国際機関であるイーター機構を中心に運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が行われるとともに、各極において担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。
URL:https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/ (日本語)

※4…トカマク型

 高温プラズマを磁場により閉じ込める方式の一つ。主たる磁場である周方向のトロイダル磁場と、プラズマ中に周方向の電流を流すことにより作られる径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、高温プラズマを閉じ込めます。イーターもトカマク型の装置です。

※5…クライオスタット

 約-269℃の低温に冷却される超伝導コイルを真空断熱するための容器であり、その内部は真空状態に保たれます。

※6…電路

 超伝導コイルに電流を流すための電線であり、超伝導コイルと外部の電源をつなぎます。超伝導素材で作られており、表面は絶縁層で覆われています。

※7…コイル接続部

 あらかじめ製作された超伝導コイル本体と、電路をつなぐ部分です。超伝導素材で作られた電線同士を繋ぐとともに、超伝導素材を極低温に保つために循環させているヘリウムを閉じ込める役割も持ちます。

※8…インターロック

 一般には、ある一定の条件が整わないと他の動作ができなくなるような機構のことです。JT-60SAの安全・保安を担う重要な機器であり、高い信頼性が必要です。