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プレスリリース

日欧共同プロジェクトJT-60SAとプリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)の  フュージョンエネルギー研究開発協力に関する取決めの締結について ~プラズマ中の不純物の振る舞いを理解する~

掲載日:2025年10月11日更新
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QST横ロゴ

ロゴロゴ2025年10月11日
量子科学技術研究開発機構(QST)
フュージョンフォーエナジー
プリンストン・プラズマ物理研究所

 

 

発表のポイント

  • 量子科学技術研究開発機構(QST)、フュージョンフォーエナジー(F4E)、及びプリンストン・プラズマ物理研究所(PPPL)は、日本と欧州の共同プロジェクトである世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAに先進計測器を提供するための、協力取決めを締結。日本と欧州の機関以外から初めてのJT-60SAへの貢献。
  • ​この分野をリードする研究機関間の連携は、平和利用を目的としたフュージョンエネルギーの早期実現に向けて、研究開発の加速に大きく貢献。​

概要

 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(理事長 小安重夫。以下「QST」)、フュージョンフォーエナジー(代表 マーク・ラシェーズ。以下「F4E」)とプリンストン・プラズマ物理研究所(代表: 所長 スティーブ・カウリー。以下「PPPL」)は、平和利用を目的としたフュージョンエネルギーの早期実現を目指す日本と欧州の共同プロジェクトである「幅広いアプローチ活動」*1の一環として、サテライト・トカマク*2計画 JT-60SA*3にPPPLが参加することにより、フュージョンエネルギー研究開発分野で協力するための新たな取決めを締結しました。

JT-60SA
JT-60SA

 

 これまで、日欧の協力により、現在世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAが完成し、初プラズマを達成しました。今回、この取り決めに基づき、JT-60SAにおけるプラズマ不純物を計測する先進計測器をPPPLが提供します。これは日本と欧州の機関以外から初めてのJT-60SAへの貢献です。トカマク型核融合炉の開発においては、プラズマを安定に維持することが最大の課題となりますが、プラズマ中の不純物の密度や温度や流れ等を正確に知ることがその手掛かりとなります。PPPLの最先端の研究によって開発されたX線イメージング結晶分光器*4は、プラズマ中の不純物からの発光を測定することで、局所的な不純物のイオン密度や温度、電子温度、プラズマ流速成分に関する重要な情報を従来の測定器よりもより高速かつ高空間分解能で測定します。得られた情報は、様々な条件におけるプラズマ中で不純物が輸送する物理の理解と最適化の鍵となります。不純物は受熱機器への過剰な熱負荷を抑えるために利用されるため、JT-60SAの統合性能の維持に不可欠である一方プラズマの中心を冷却するので、それを制御するために不純物の振る舞いを知ることは非常に重要です。この装置は、2026年より開始されるJT-60SAのプラズマ加熱実験で使用される予定です。

 PPPLの専門家は計測装置を操作するとともに測定データを共有することで実験に参加します。科学的データの交換は、QST、F4E、PPPLの専門家に新しい知識を生み出し、フュージョンエネルギーの早期実現に必要な主要技術の開発を加速することが期待されます。

 QST、F4E及びPPPLは、イーター(ITER)計画 *5や、商用的に実現可能なフュージョンエネルギーの実現を目指したそれぞれの原型炉*6プログラムなどの国際的なイニシアティブに強力に貢献してきました。JT-60SAに関する新たな協力協定は、これらの機関が強固なパートナーシップを築くことで、クリーンで豊富な持続可能エネルギーを将来の世代に提供するという究極の目標に向けて、フュージョンエネルギー研究開発を世界的に推進するための重要な一歩となります。

用語解説

*1…幅広いアプローチ活動

 欧州原子力共同体(Euratom)と日本の間で締結された幅広いアプローチ(BA)取り決めは、イーター計画を補完し、フュージョンエネルギーの研究開発を加速させることを目的とした活動で構成されています。この活動には、先進的なフュージョンエネルギー試験装置の建設、将来の装置で使用する耐久性のある材料の研究、将来の原型炉(DEMO)の予備作業が含まれます。
URL: https://www.ba-fusion.org/ba/

*2…サテライト・トカマク

 サテライト・トカマクとは、イーター計画における研究開発を効率的に行うとともに、原型炉に向けた補完研究を実施することを目的として、幅広いアプローチ活動を基に日欧が協力して建設したトカマク型超伝導プラズマ実験装置です。トカマクとは、高温プラズマを磁場により閉じ込める方式の一つ。外部コイルによって作られる主たる磁場である周方向のトロイダル磁場と、プラズマ中に周方向の電流を流すことにより作られる径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、高温プラズマを閉じ込めます。イーターもトカマク型の装置です。

*3…JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンス)

幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置となります。その目的は、イーターの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたイーターの補完研究、人材育成です。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。
URL: https://www.jt60sa.org/wp/
URL: https://www.qst.go.jp/site/jt60/5150.html(日本語)

*4…X線イメージング結晶分光器(X-ray Imaging Crystal Spectrometer, XICS)

 X線イメージング結晶分光器(XICS)は、結晶回折を利用してX線の放射を測定し、波長を分離・分析する装置です。プラズマから放出されるX線を検出することで、プラズマ中の不純物を中心に、プラズマの温度や密度などの詳細な情報を得ることができます。

*5…イーター(ITER)計画

 日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インドの7極の国際協力の下、その建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証する計画であり、加熱システムによる入力エネルギーの10倍のフュージョンエネルギー(Q≧10)を得ることが目標です。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、プロジェクト実施のための国際機関であるイーター機構を中心に運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が行われるとともに、各極において担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。

*6…原型炉

 原型炉とは、JT-60SAやイーターの成果に基づいて建設される次期装置であり、フュージョンエネルギーによる発電と経済性を実証する装置です。現在、世界各国で原型炉の概念設計が進められています。