
2026年7月3日
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構
国立大学法人東京大学大学院新領域創成科学研究科
発表のポイント
- ITERや原型炉等の大型の超伝導コイルを用いるトカマク*1装置では強い電場を発生させることが難しく、弱い電場でも確実にプラズマを立ち上げる手法を確立するために、物理機構のより深い理解が重要な課題。
- JT-60SA*2において、世界で最小レベルの誘導電場*3で実現したプラズマ立ち上げ*4について、実験データと数値シミュレーションを組み合わせて解析し、弱い誘導電場でもプラズマを安定に立ち上げるための物理機構を解明。
- 大型の超伝導コイルを用いるトカマク装置に共通したプラズマ立ち上げの課題を解決し、原型炉の閉じ込め磁場を作る超伝導コイルに求められる製作・設置精度の緩和など、仕様の合理化にもつながることに期待。
概要
量子科学技術研究開発機構(理事長:小安重夫、以下「QST」)と東京大学(総長:藤井輝夫、以下「東京大学」)との共同研究により、2023年にトカマク型超伝導プラズマ実験装置JT-60SAにおいて成功を収めた、世界で最小レベルの誘導電場による初のプラズマ生成について、物理機構を明らかにしました。

図1.JT-60SAの初プラズマ
トカマク装置では、運転の最初に真空容器内のガスをプラズマ化し、その後、加熱を続けながらプラズマ中を周方向に流れる電流(プラズマ電流)を増やして、安定に閉じ込められる状態へ移行させる「プラズマ立ち上げ」を行います。しかし、一般に大型の超伝導コイルを用いるトカマク装置では強い誘導電場を発生させることが難しいためにプラズマ立ち上げが困難であるという共通の課題がありました。そのため本研究では、2023年のJT-60SAの初プラズマ生成成功時の条件におけるプラズマ生成の実験的・理論的解析に取り組み、物理機構の解明を通じて、弱い誘導電場でも安定にプラズマを立ち上げる運転指針として一般化に成功しました。
本成果は、従来法では困難であった弱い誘導電場でのプラズマ立ち上げを容易にするものであり、ITERや原型炉(Q-DEMO)を含む大型の超伝導コイルを用いるトカマク装置全般のプラズマ立ち上げの運転手法に適用が可能なものです。また、原型炉の超伝導コイルに求められる製作及び設置の精度の緩和などの仕様の合理化にもつながることが期待されます。
本研究成果は、国際原子力機関(IAEA)と英国物理学会出版局(IOP Publishing)が共同で発行する国際学術誌「Nuclear Fusion」に、2026年7月3日に掲載されました。
1.背景
トカマク型核融合装置では、運転の最初に「プラズマ立ち上げ」を行います。これは、トカマク中心に設置されたコイルの電流を変化させて誘導電場を発生させ、真空容器中の中性ガスを電離して初期プラズマを生成するとともに、電子を加速してプラズマ電流を増やし、最終的に閉じ込め磁場とプラズマ電流が作る磁場によってプラズマを安定に維持する状態へ導く過程です。
ITERや原型炉等の大型超伝導コイルを用いる装置では、常伝導コイルを用いる装置よりも電流を素早く変化させることが難しいために誘導電場が弱く、弱い誘導電場でも確実にプラズマを立ち上げられる手法の確立が超伝導トカマク装置の共通の課題です。JT-60SAでは2023年に、世界で最小レベルの誘導電場でプラズマ立ち上げに成功しました(図2)。本研究では、初プラズマ運転時に実施したプラズマ立ち上げ実験データを詳細に分析し、弱い誘導電場でも確実にプラズマを立ち上げる物理機構の検証を行ってきました。

図2.誘導電場と中性ガス圧のパラメータ空間におけるプラズマ立ち上げ条件の比較
三角は既存の常伝導装置、丸はITERおよび原型炉の代表条件、色帯はJT-60SAで得られたプラズマ立ち上げ成功領域を示しています。図中下側の誘導電場の弱い領域ではプラズマ立ち上げが困難になります。
2.研究手法・成果
本研究では、JT-60SAで実施したプラズマ立ち上げ実験について、従来方式である最小磁場方式*5とJT-60SAの初プラズマ達成につながった捕捉粒子方式*6を比較しました。可視カメラ、分光計測、磁気計測などの計測器から、プラズマ立ち上げ時のプラズマの発光、電流、位置の変化を追跡しました。さらに数値シミュレーションとも照合することで、成功・失敗を分ける要因を系統的に解析しました。
弱い誘導電場では電子を生成・加速してプラズマを立ち上げるための加熱が不足するため、電磁波による加熱の補助が不可欠です。そこで本研究では、プラズマ立ち上げを成功させるには効果的な電磁波加熱*7を継続することが重要であることに着目しました。
最小磁場方式では、プラズマ立ち上げ初期に閉じ込め磁場を最小化して初期プラズマを生成します。一方で閉じ込め磁場が弱い状態では外向きの力を作るプラズマ電流が増加すると、閉じ込め磁場が作る内向きの力が不足してしまいます(図3)。その結果、わずかな閉じ込め磁場の設定誤差(不正磁場)でもプラズマの位置がずれやすいことが実験結果と数値シミュレーションの比較からわかりました(図4)。位置がずれると、電磁波加熱できる位置から外れてしまい、加熱が効かなくなります。その結果、プラズマの電流を増加させることができなくなり、プラズマ立ち上げに失敗することが分かりました。
これに対しQSTと東京大学の共同研究により最適化した捕捉粒子方式では、プラズマ立ち上げ初期から閉じ込め磁場を与え、電磁波を入射してプラズマを生成します。この閉じ込め磁場により、不正磁場があっても閉じ込め磁場が作る内向きの力が強いため、外向きの力を作るプラズマ電流が増加してもプラズマの位置がずれなくなり、電磁波加熱を有効に続けられることを示しました。すなわち、弱い誘導電場の条件でプラズマ立ち上げを成立させる鍵は「効果的な電磁波加熱を継続するためにプラズマの位置を保持すること」であり、それを不正磁場の影響下でも信頼性高く実現する方式として捕捉粒子方式が有効であることを世界で初めて明らかにしました。
図3.プラズマ立ち上げ中の捕捉粒子方式と最小磁場方式の違いを示す概念図
捕捉粒子方式では不正磁場に比べて強い閉じ込め磁場が与えられているため、不正磁場の影響があってもプラズマ電流による外向きの力を抑えてプラズマを加熱位置に維持可能です。一方、最小磁場方式では閉じ込め磁場が弱く、同程度の強さの不正磁場の影響により外向きの力が抑えられなくなり、プラズマが外に移動してしまいます。

図4.捕捉粒子方式と最小磁場方式の実験結果およびシミュレーションによる比較
プラズマ立ち上げ開始直後の時間について、プラズマが加熱位置に保持できるプラズマ電流の領域をシミュレーションしたところ、最小磁場方式はプラズマ立ち上げ直後にプラズマを閉じ込めるための磁場が弱いため、加熱を維持できるプラズマ電流の領域が狭く、わずかな不正磁場でプラズマが外側に移動してしまうことがわかりました。一方、捕捉粒子方式ではプラズマ立ち上げ初期から閉じ込め磁場を与えるため、加熱を維持できるプラズマ電流の領域が広く確保でき、不正磁場がある状態でもプラズマを加熱位置(右図縦点線)に保持して電磁波を継続して吸収させられることを明らかにしました。
3.波及効果・今後の予定
本研究により、ITERや原型炉で想定される弱い誘導電場という制約下では、捕捉粒子方式が有効であり、プラズマ立ち上げを実現するためには、プラズマを適切な位置に保ち、効果的な電磁波加熱を継続することが鍵であることを示しました。この知見は、ITERや原型炉におけるプラズマ立ち上げの信頼性を高めるための設計・運転指針となります。さらに、原型炉の設計においては、プラズマ立ち上げ時の磁場設計や許容すべき不正磁場の大きさに指針を与え、機器仕様の合理化につながることが期待されます。
今後は、プラズマ立ち上げに必要な加熱パワーの評価をJT-60SAで行うとともに、ITERや原型炉のパラメータへの外挿に向けたシミュレーションによる検討を行うことを通じて、核融合炉における信頼性の高いプラズマ立ち上げの運転手法の開発を進めます。
4.研究体制
研究は、量子科学技術研究開発機構(QST)を中心に、東京大学の研究者が協力して実施しました。 QSTは実験データ解析と数値シミュレーションとの比較を通じた実験解析全般を担当し、東京大学は数値シミュレーションコードの開発を主に担当しました。
【用語解説】
- *1:トカマク
- 高温プラズマを磁場により閉じ込める方式の一つ。外部コイルによって作られる主たる磁場である周方向のトロイダル磁場と、プラズマ中に周方向の電流(プラズマ電流)を流すことにより作られる径方向のポロイダル磁場を組み合わせ、高温プラズマを閉じ込めます。JT-60SAおよびITERもトカマク型の装置です。
- *2:JT-60SA(JT-60 Super Advanced、ジェーティーロクジュウ スーパー アドバンスド)
- 幅広いアプローチ(BA)活動として日欧共同で実施するサテライト・トカマク計画と我が国で検討を進めてきたトカマク国内重点化装置計画の合同計画として、茨城県那珂市のQST施設に建設された、現時点では世界最大のトカマク型超伝導プラズマ実験装置となります。その目的は、ITERの技術目標達成のための支援研究、原型炉に向けたITERの補完研究、人材育成です。JT-60SAは、約-269℃(絶対温度約4K)に冷却された強力な超伝導コイルを使用して1億℃にも達するプラズマを閉じ込めます。
- *3:誘導電場
- トカマク装置では、トランスの原理を用いてプラズマ電流を流します。トーラス中心部に設置されたコイルがトランスの一次巻線に相当し、その電流を変化させることで、真空容器内にトーラス周回方向の電場が誘導されます。この電場を誘導電場と呼び、電子を加速して中性ガスの電離やプラズマ電流の増加に寄与します。プラズマが生成された後は、トーラスを一周するプラズマ電流が、トランスの二次巻線に流れる電流に相当します。
- *4:プラズマ立ち上げ
- トカマク装置の運転の最初に、真空容器内に入れた中性ガスを電離してプラズマを生成し、その後、電子温度とプラズマ電流を増やして、安定に閉じ込められる状態へ移行させる過程です。プラズマ立ち上げ初期には、中性ガスの電離や不純物からの光放射によるエネルギー損失が大きいため、それを上回る加熱が必要になります。
- *5:最小磁場方式
- 真空容器内の閉じ込め磁場をできるだけ弱くし、電子がトーラス周回方向に長い距離にわたって誘導電場で加速されるようにすることで、加速された電子による中性ガスの電離を促す、従来から用いられてきたプラズマ立ち上げ方式です。プラズマが生成された後は、プラズマ電流の増加に合わせて閉じ込め磁場を強める必要があります。
- *6:捕捉粒子方式
- 電磁波で加速された電子を閉じ込めるための磁場をプラズマ立ち上げ初期から与えながら、プラズマを立ち上げる方式です。プラズマ生成から、その後にプラズマ電流を増加させる段階まで、閉じ込め磁場を保ったままプラズマ立ち上げを進めることができます。
- *7:電磁波加熱
- ミリ波(本研究では主に82 GHz, 110 GHz)を入射して電子サイクロトロン共鳴吸収により電子を加熱します。本研究ではプラズマ立ち上げ中の加熱を補助するために使用しました。
【論文情報】
タイトル:Development of low inductive electric field plasma start-up in JT-60SA
著者:T. Wakatsuki, H. Urano, M. Yoshida, N. Tsujii, Hyun-Tae Kim, T. Nakano, M. Fukumoto, Y. Ohtani, R. Sano, S. Inoue, S. Kojima, T. Yokoyama, A. Matsuyama, T. Szepesi and S. Ide
掲載誌:Nuclear Fusion
DOI:https://doi.org/10.1088/1741-4326/ae78e6
