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~現地試験にて170ギガヘルツジャイロトロンシステムの動作を実証~

プレスリリース

ジャイロトロンによるITERサイトでのマイクロ波出力に、他極に先駆けて成功
~現地試験にて170ギガヘルツジャイロトロンシステムの動作を実証~

掲載日:2026年7月31日更新
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QST横ロゴ2026年7月31日
​国立研究開発法人量子科学技術研究開発機


発表のポイント

  • QSTが調達したジャイロトロンと周辺機器からなる精密なシステムを現地にて構築した。
  • 本成功は、2034年のITER運転開始への重要なマイルストーンであり、ITERプロジェクトの大きな進展である。

概要

 量子科学技術研究開発機構(理事長 小安 重夫。以下「QST」という)は、南フランスに建設中の核融合実験炉ITER1)において、プラズマの加熱に用いる高出力マイクロ波源「ジャイロトロン」2)を中核としたシステムを統合的に稼働させ、実際に170GHz3)のマイクロ波を出力させることに成功しました。ジャイロトロンによるマイクロ波の出力は、電源、超伝導コイル、冷却装置など様々な周辺機器を連動させる必要があります。例えば、重さ1トンにも及ぶ精密機器を1ミリメートル以下の精度で設置、調整することに加え、数十キロボルトに及ぶ高電圧を高速で印加する3系統の電源と、その精細な制御装置を正常に機能させることが不可欠です。こうしたシステム構築をITERサイトにおいて3年にわたり進めてきた結果、今回の成功に至りました。今回のマイクロ波出力の成功は、QSTがジャイロトロンシステムを、実際の核融合装置にて動作させることを実証したものであり、ITERプロジェクトの重要なマイルストーンとなる成果です。

 

初のマイクロ波の出力に成功したジャイロトロン初号機
図. 初のマイクロ波の出力に成功したジャイロトロン初号機​

​ 今後は、定格性能である100万ワットのマイクロ波を数百秒に渡り連続出力する現地試験を実施する予定です。また、ITERの初プラズマ達成及び研究運転開始に必須となる残り7機の試験についても同様に順次、現地にてQST主導で進める予定です。

1.ジャイロトロンとは

 ジャイロトロンとは100GHz帯の非常に高い周波数かつ100万ワットという大電力のマイクロ波を発生させ、プラズマを加熱する装置です。ITERにおいてはプラズマの生成及び加熱に不可欠な機器の一つです。QSTは、那珂フュージョン科学技術研究所のジャイロトロン試験設備を用いて、これまで8機のITERジャイロトロンシステムの性能試験を実施し、その後、ジャイロトロン、超伝導コイル、準光学整合器などのシステムの構成機器をITER サイト(フランス)に輸送しました。ITERサイトにおいては、QST研究員がビームパターン計測、ジャイロトロンと超伝導コイルの軸合わせ、周波数計測などを指揮し、さらに欧州調達の主電源とQSTが調達したアノード電源及びボディ電源と呼ばれる電極電源間の精密な調整を行いました。

2.ITERジャイロトロン1号機の現地試験

 ジャイロトロンは最大7テスラの磁場を生成する超伝導コイルに挿入して使用しますが、その下部にある電子銃と呼ばれる装置から電子が放出され、75kVという高い電圧で、磁力線に沿って加速、その途中にある空胴と呼ばれる場所を通過する時に、電子の回転エネルギーが回転電界を励起、空胴内の電界と共鳴を起こし​て170GHzというマイクロ波を発振させます(図1)。​

 ジャイロトロンの断面図   

図1.ジャイロトロンの断面図​

 これを達成するためには、重さ1トン、高さ1.1メートル、直径1.4メートルの超伝導コイルとジャイロトロンの中心軸を1ミリメートル以内の精度で幾何的に一致させる必要があります。具体的には、超伝導コイルの磁場の中心とジャイロトロン架台の中心軸を専用の磁場の測定治具を用いて一致させ、その上で、ジャイロトロンを架台の中心に1ミリメートル以内の精度で設置することで磁気軸とジャイロトロンの中心軸を一致させます。これらの作業をQST職員が現地で指導することにより実施しました。この作業の上で、ジャイロトロンに電圧を印加、電子を引き出す作業に移りましたが、今回ITERに輸送されてから、しばらく保管されていたために、ジャイロトロンの内壁にガスが吸着している可能性が高かったため、QST職員の指導の下、まずはそのガスを出すためのヒーターエージングと呼ばれる作業を実施しました。これは電子を発生する電子銃をあたためるヒーターに通電、電子銃をあたためることで吸着されていたガスを放出させる作業のことを指します。ヒーターエージングにより電子銃及び周辺のジャイロトロンの内壁に吸着していたガスがなくなり、そのタイミングで、高電圧を印加するビーム引き出し試験を開始しました。

 最初に170GHzのマイクロ波がジャイロトロンから出力されることを確認するため、ビームパターンの取得と周波数の計測を行いました。ビームパターンは、ジャイロトロン出力フランジに方眼紙を貼り付け、マイクロ波によって加熱された方眼紙の熱分布を赤外線カメラで観測することで得ることができます。図2に試験の様子と、0.2ミリ秒のマイクロ波を方眼紙に照射した時の赤外線カメラの映像を示します。正規発振である170GHzのビームパターンであれば、きれいな丸い分布が得られるはずですが、試験開始時は図2左に示すようなビームがいくつかに割れたようなビームパターンが観測されました。これは、170GHzではない競合モードがジャイロトロン内部の空胴共振器で励起されたことを示しています。この原因として磁気軸が想定よりずれている可能性があると考え、QSTの職員の指導の下、超伝導コイルの位置をレーザー変位計で計測しながら、1ミリメートル程度の範囲内で微調整したところ、x方向に1ミリメートル、y方向に1ミリメートル動かした場所で、図2右下に示す正規モードのビームパターンを得ることに成功しました。その時の周波数計測の様子を図3に示します。170.135GHzにおいて強い信号が得られており、競合モードではなく、設計値どおりの周波数(振動数)で正規モード発振していることが確認できます。最後に、ジャイロトロンの性能を最大化するため、ジャイロトロンと超伝導コイルの中心軸をさらに高い精度である0.1ミリメートルの精度で合わせる調整を行い今回の試験を終了しました。この後は、ジャイロトロンの出力をダミーロードと呼ばれるマイクロ波を吸収する装置に接続する伝送系を整備し、その上で定格である100万ワットの高出力のマイクロ波を数百秒にわたり発振するサイト受け入れ試験を実施する予定です。

ジャイロトロン1号機の出力試験の様子
図2.ジャイロトロン1号機の出力試験の様子。
超伝導コイルの位置調整を行うことで、正規発振である170GHzのビームパターンの出力に成功。

周波数計測結果。正規発振170GHzを確認。
​図3.周波数計測結果。正規発振170GHzを確認。

【用語解説】

​​1)核融合実験炉ITER
​我が国は、世界7極の国際協力により、実験炉の建設・運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER(イーター)計画を推進しています。現在、サイトがあるフランスのサン・ポール・レ・デュランスにおいて、運転開始に向けた建屋の建設や機器の組立が進められているとともに、各極において、それぞれが調達を担当する様々なイーター構成機器の製作が進められています。
イーター計画に関するホームページ https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/ (日本語)
イーター機構のホームページ https://www.iter.org/ (英語)

ITERの内部構造図
​ITERの内部構造図

2)ジャイロトロン
磁場に巻き付いた電子の回転運動をエネルギー源として、高出力のマイクロ波を発生させる大型の電子管です。ジャイロトロンの名は、磁場中の回転運動(ジャイロ運動)に由来します。高出力のマイクロ波は、核融合炉内の燃料(水素の同位体ガス)へ入射することにより、プラズマ点火や、効率よく核融合反応が起こる温度への加熱、プラズマ中で発生した乱れの抑制のためなどに用いられます。
3)GHz(ギガヘルツ)
「ギガ」は109を意味します。「ヘルツ」は周波数の単位で、1秒間の変動数を意味します。電子レンジでは2.45GHzのマイクロ波が用いられています。