現在地
Home > 分類でさがす > お知らせ・ご案内 > プレスリリース > エネルギー > > プレスリリース > 世界最大級の超伝導トロイダル磁場コイル、通電試験に成功
~核融合実験炉ITERの運転開始へ大きく前進~

プレスリリース

世界最大級の超伝導トロイダル磁場コイル、通電試験に成功
~核融合実験炉ITERの運転開始へ大きく前進~

掲載日:2026年8月25日更新
印刷用ページを表示

QST横ロゴ東芝ロゴ2026年8月25日
​国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
株式会社 東芝


発表のポイント

  • 日本が製作した世界最大級の超伝導トロイダル磁場コイルについて、初めて、運転温度である摂氏マイナス269度で通電試験に成功し、ITERの運転開始に向け大きく前進した。
  • 将来のフュージョンエネルギー実現を支える基盤技術として、日本の大型超伝導コイル技術の有効性を示した。

概要

 量子科学技術研究開発機構(以下「QST」)および株式会社東芝(以下「東芝」)が製作した世界最大級の超伝導※1トロイダル磁場コイル(以下「TFコイル」)について、核融合実験炉ITER※2の建設サイトにおいて実際の運転環境を想定した極低温環境(摂氏マイナス269度)で通電試験に成功し、ITERの運転開始に向けて大きく前進しました。

 TFコイルは、プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を発生させる最重要機器の一つです。ITERの運転開始に向けて、電源装置および冷却プラントと連携した試験を行うことにより、システムとしての信頼性を向上させることは、ITERの成否を左右する重要な技術課題の一つです。本試験では、ITER国際核融合エネルギー機構(以下「ITER機構」)と協力してTFコイルを室温から極低温まで冷却し、超伝導状態になること、および超伝導状態で初めて1万アンペアまでの大電流を安定して通電することを確認しました。これは、TFコイルとして初の実証事例です。これにより、ひずみに対して敏感なニオブスズ超伝導導体を用いて大型コイルを製造する方法の妥当性を確認しました。また、極低温環境での安定した運転を確実にするために必要な情報であるジョイント部の抵抗発熱量および極低温下における冷媒の流動特性を取得し、いずれも設計時の想定範囲内の値であることを確認しました。さらに、極低温への冷却や1万アンペアの通電による冷媒の漏えいなどの不具合はなく、TFコイルの健全性が確認されました。

 本試験の実施に当たっては、QSTから派遣されたTFコイル技術担当者が、TFコイルの製作で培った知見を基にITER機構と協力し、試験計画の策定を主導するなど、その実現に重要な貢献を果たしました。

 今回の成果は、日本がフュージョンエネルギー開発において、世界最高水準の大型超伝導コイル基盤技術を有していることを示すものです。さらに、本試験はITER超伝導コイルシステムの統合試験運転(コミッショニング)に向けて、運転手順の確立、運転員の訓練、および課題の抽出によるリスク低減に寄与するものであり、ITER計画の運転開始に向けた大きな前進となりました。

 

試験装置に設置された超伝導トロイダル磁場コイル
図1. 試験装置に設置された超伝導トロイダル磁場コイル

ITER超伝導トロイダルコイル(TFコイル)の開発

 核融合実験炉ITERの超伝導マグネットシステムは、直径約30メートル、重量約1万トンに及ぶ巨大なシステムであり、その中で周方向に18機をドーナツ状に配置するD型コイルがTFコイルです(図2)。TFコイルは、プラズマを閉じ込めるための強力な磁場を生成する中核機器であり、その信頼性はITER全体の成立性を左右する最重要要素の一つとなっています。日本は、TF導体の25%、全19機分のTF構造物、および9機のTFコイルの製作を担当しました。

 TFコイルは、高さ16.5メートル、幅9.2メートル、重量310トンの巨大な超伝導コイルです。コイルは、最大磁場11.8テスラを発生させる巻線部と、直線部に作用する最大約6万トンに及ぶ電磁力を支持する構造物から構成されています(図3)。巻線部は、「ダブル・パンケーキ」と呼ばれる2層構造の巻線を7枚積層した構造であり、各ダブル・パンケーキは、D型に巻かれた超伝導導体と、その導体を収める溝を有するラジアル・プレートから成ります。TFコイルに使用されるニオブ3スズ超伝導導体は、ITER参加極のうち日本、欧州、韓国、米国、ロシア、中国で製作されました。各国で製作された導体および日本が全19機を製作した構造物は、日本および欧州のTFコイル製作拠点に輸送され、TFコイルの製作に用いられました。

 日本は2008年にITER機構とTFコイルの調達取決めを締結し、QSTは産業界と連携して約15年にわたりTFコイルの開発を進め、2023年に全9機のTFコイルの製作を完遂しました(図4)。TFコイルは当初、その実現が困難と指摘されていましたが、日本の研究機関と産業界の多くの関係者が、フュージョンエネルギーの実現に向けた強い情熱と使命感のもと、この挑戦に取り組んできました。その過程では、巨大構造物でありながらミリメートル精度を要求される製作技術、11.8テスラの強磁場下で6万8千アンペアの大電流を安定に流す超伝導技術、さらに耐放射線性を有する電気絶縁材料の開発など、多くの困難な課題に直面しましたが、それらを一つ一つ着実に克服しました。

 このようにTFコイルの開発は、単なる装置製作にとどまらず、超大型・高精度・極低温・大電流・強磁場という複合的な技術領域を融合した総合工学的挑戦でした。その成果は、ITER計画の進展に不可欠であると同時に、将来のフュージョンエネルギー開発に向けた基盤技術としても極めて重要な意義を持つものです。

核融合実験炉ITER本体とTFコイル
図2.核融合実験炉ITER本体とTFコイル

TFコイルの構造
図3.TFコイルの構造​

完成したTFコイル
図4.完成したTFコイル​

用語解説

 

※1超伝導
超伝導とは、特定の物質(超伝導物質)を極低温に冷却した際に電気抵抗がゼロとなる現象です。この現象を利用し、超伝導物質に大電流を流して導体として用いることで、非常に強力な電磁石を実現できます。TFコイルに用いる超伝導導体は、直径0.82ミリメートルの超伝導素線900本と銅線522本を撚り合わせてケーブル化し、ステンレス管に収めた構造となっています。超伝導物質にはNb₃Sn(ニオブ3スズ)を使用しており、摂氏マイナス255度以下に冷却することで超伝導状態となります。

 

※2核融合実験炉ITER
日本は、世界7極(日本、欧州、ロシア、米国、中国、韓国、インド)による国際協力の下、核融合実験炉の建設および運転を通じてフュージョンエネルギーの科学的・技術的実現可能性を実証するITER計画を推進しています。現在、フランス南部サン・ポール・レ・デュランスの建設サイトでは、運転開始に向けた主要機器の組立が着実に進められており、各極が担当するITER機器の製作も順調に進展しています。
URL:https://www.fusion.qst.go.jp/ITER/ (日本語)