
2026年10月2日
国立大学法人筑波大学
国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構(QST)
ポイント
アルツハイマー病などの進行に関わるタウタンパク質の異常な脳内蓄積を捉えるPET(陽電子放射断層撮影)画像を、自動で解析する研究用ソフトウェア「TAME-Q」を開発・公開しました。これにより、PET画像の解析工程を一本化し、再現性のある解析を、世界中の研究者が実行できる環境を整えました。
概要
アルツハイマー病や進行性核上性麻痺などの神経変性疾患では、脳内に「タウ」というタンパク質が異常に蓄積します。生体内における異常なタウの蓄積の有無や程度を調べることは、病気の仕組みを理解するために重要です。florzolotau(18F)は、異常に凝集したタウに結合する放射性薬剤です。この薬剤を用いたPET(陽電子放射断層撮影)画像により異常なタウ蓄積を可視化することができます。しかしながら、この画像に対する解析法は、研究室ごとの独自プログラムや商用ソフトウェアに依存しており、他の研究者が同じ手順を共有することは困難でした。
本研究では、この解析法を組み込んだ研究用ソフトウェア「TAME-Q」を開発し、公開しました。TAME-Qは、PETとMRI(磁気共鳴画像法)の画像から、脳の各領域における18Fの集まり具合を示す指標を自動で算出します。
このソフトウェアを、アルツハイマー病の患者37人、進行性核上性麻痺の患者46人、健康な人50人の計133人のデータに適用し、その出力の品質を確認したところ、アルツハイマー病、進行性核上性麻痺とも、先行研究と整合する結果が得られました。また複数の脳領域のPET画像の数値から機械学習により算出した指標(タウスコア)も、先行研究と同様の傾向が見られました。
TAME-Qのプログラム公開と併せて、実行環境も同時に公開しました。本研究により、解析環境を構築する負担が軽減され、研究者が共通の手順で解析を行えるようになります。
研究代表者
筑波大学医学医療系 新井 哲明 教授
筑波大学大学院人間総合科学学術院 中山 顕次郎 (医学学位プログラム博士課程)
量子科学技術研究開発機構 樋口 真人 脳機能イメージング研究センター センター長
研究の背景
アルツハイマー病や進行性核上性麻痺などの神経変性疾患では、「タウ注1)」というタンパク質が脳内に異常に蓄積します。異常なタウ蓄積が脳のどこに、どの程度みられるかを調べることは、病気の仕組みを理解したり、治療効果を確認したりする際に重要です。異常に凝集したタウに結合する薬剤の一つであるflorzolotau(18F)を使ったPET(陽電子放射断層撮影)注2)画像により、これらの複数の疾患におけるタウの脳内での異常な蓄積を可視化することができます。
PET画像による異常なタウ蓄積の評価は、注目する脳領域の信号と、基準となる領域の信号を比べることで行われます。基準領域には小脳がよく用いられますが、疾患によっては小脳にも異常なタウ蓄積が出現することがあり、正しい評価の妨げとなります。そのため先行研究では、PET画像の信号の分布から基準値を求める方法が提案されていました。
しかしながら、このような方法は、研究室ごとの独自プログラムや商用ソフトウェアに依存しており、他の研究者が同じ手順を共有することは困難でした。そこで本研究では、一連の処理を自動化し、広く利用できるソフトウェアとして公開することを目指しました。
研究内容と成果
本研究では、florzolotau(18F)PET画像の解析を自動化する研究用ソフトウェア「TAME-Q」を開発し、オープンソースとして公開しました。TAME-Qは、先行研究で提案された脳内の信号の分布を用いて基準となる値を求める手法を組み込み、そのほかの必要な画像処理工程を一つのパイプラインとしてまとめています。TAME-QにPET画像とMRI(磁気共鳴画像法)画像を入力として与えると、(1)2つの画像を同じ空間で解析するために位置合わせし、(2)複数の半定量化手法で求められるそれぞれの基準値を推定し、(3)脳の各部位における基準値と比べたPET信号の強さを示す指標(標準化取り込み値比、standardized uptake value ratio: SUVR)を出力する、という全ての処理が行われます(図1)。
TAME-Qの出力の整合性を検証するために、先行研究で用いられた133人のPETおよびMRIの画像データをTAME-Qに入力し、その出力結果を確認しました。内訳は、アルツハイマー病(軽度認知障害を含む)の患者37人、進行性核上性麻痺リチャードソン症候群の患者46人、健康な人50人です。
その結果、アルツハイマー病では下側頭回注3)、進行性核上性麻痺では淡蒼球注4)という、それぞれの疾患でタウ蓄積が知られる脳領域においてSUVRの上昇が見られ、従来の知見と整合する群間差が確認されました(図2A・B)。また、機械学習を用いて複数の脳領域のSUVRから算出した指標(タウスコア)は、先行研究で得られた指標と高い相関を認めました(図2C・D)。これらのことは、TAME-Qの有効性を示しています。
TAME-Qはオンライン上のGitHub注5)で公開しています(https://github.com/kytk/tame-q)。またTAME-Qの動作環境も同様のプラットフォームDocker注6)で配布し、共通の解析環境でPET画像の解析を行えるようにしました(https://hub.docker.com/r/kytk/tame-q)。
今後の展開
TAME-Qは、florzolotau(18F)PET画像に関して、解析手法や解析環境が統一された研究成果を積み重ねていくために役立ちます。今後、撮像施設や撮像条件が異なる環境下で得られたデータに対する性能の検証や、直感的に操作できるようなインターフェースの改善を行い、より広く活用しやすいソフトウェアとなるよう改良を続けます。これによりタウが関係するさまざまな疾患での知見が蓄積され、神経変性疾患の病態解明や新たな治療薬の開発研究につながると期待されます。
参考図

図1.TAME-Qが実行する処理パイプラインの概観
異常なタウ蓄積を調べるPET画像(左下図)と、脳の構造を示すMRI画像(左上図)を入力として与えると、2画像の位置合わせ、半定量化の基準値の推定、脳の各部位の定量的な指標の算出を自動で行う。図はNakayama et al., BMC Medical Imaging (2026)に基づき作成。

図2.TAME-Q出力と先行研究との整合性
TAME-Qにより処理されたPET画像では、AD(アルツハイマー病)では下側頭回(A)、PSP(進行性核上性麻痺)では淡蒼球(B)でSUVRの上昇が認められた。機械学習を用いて複数の脳領域のSUVRから算出した指標(タウスコア)は、AD(C)、PSP(D)ともに、先行研究で得られた指標(ベンチマーク)と高い相関を認めた。図はNakayama et al., BMC Medical Imaging (2026)に基づき作成。
用語解説
- 注1)タウ
- 神経細胞内の微小管を安定化し、物質の輸送を支えるタンパク質。異常に変化すると凝集し、アルツハイマー病などでは脳内に蓄積する。
- 注2)PET(陽電子放射断層撮影)
- 微量の放射性薬剤を体内に投与し、薬剤から生じる放射線を検出して、体内の分子の分布を画像化する方法。本研究では、異常に凝集したタウに結合する薬剤を用いて脳内のタウ蓄積を捉えた。
- 注3)下側頭回(かそくとうかい)
- 大脳の側頭葉の下部に位置し、視覚情報の処理や物体の認識に関わる脳領域。アルツハイマー病では、異常なタウ蓄積が見られる代表的な領域の一つ。
- 注4)淡蒼球(たんそうきゅう)
- 大脳の深部にある大脳基底核の一部で、運動の調節に関わる脳領域。進行性核上性麻痺では、異常なタウ蓄積が見られる領域の一つ。
- 注5)GitHub
- ソフトウェアのソースコードや関連ファイルを保存・公開し、変更履歴や共同開発を管理できるウェブサービス。
- 注6)Docker
- アプリケーションと動作に必要なソフトウェアや設定をまとめ、異なるコンピューターでも同じ環境で実行しやすくする仕組み。
研究資金
本研究は、科学研究費助成事業(KAKENHI)「オープンソースを活用した脳画像解析教育プラットフォームの開発と効果検証」(25K15384)、日本医療研究開発機構(AMED)認知症研究開発事業「多施設連携プラットフォーム(MABB)を基盤にした各種認知症性疾患に対する日本発の包括的な診断・層別化バイオマーカーシステムの確立」(JP21dk0207055)、脳神経科学統合プログラム「脳データ統合プラットフォームの開発と活用による脳機能と疾患病態の解明」(JP23wm0625001)、「PETをReference Standardとした認知症の背景病理を包括的に評価可能な血液バイオマーカーシステムの開発」(JP24wm0625505)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業CREST「記憶構造を解明する新しい光操作・画像法の開発」(JPMJCR1652)、ムーンショット型研究開発事業「臓器連関の包括的理解に基づく認知症関連疾患の克服に向けて/タンパク凝集体病変のPETプローブと血液バイオメーカー開発による超早期診断の実現」(JPMJMS2024)、次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2124)の支援を受けて実施されました。
掲載論文
【題 名】 TAME-Q: An Open-Source Preprocessing Pipeline for Reproducible Semi-Quantification of Florzolotau (18F) PET
(TAME-Q: florzolotau (18F) PETの再現可能な半定量化のためのオープンソース前処理パイプライン)
【著者名】 Nakayama K, Nemoto K, Endo H, Tagai K, Oyama A, Nemoto M, Tamura M, Ota M, Tokuda T, Higuchi M, Arai T
【掲載誌】 BMC Medical Imaging
【掲載日】 2026年9月9日
【DOI】 https://doi.org/10.1186/s12880-026-02775-5
